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ランゴ、Myジャクソン
それほど遠くない昔、ジャクソンカメレオンを飼っていたことがあります。
夫がゴルフをしていたら、芝生の上でじっとしているジャクソンカメレオンを見つけてそのまま連れて帰ってきたのです。
そんなトカゲみたいの、気持ち悪いと思いつつバケツの中をそおっとのぞいてみたらいました、いました。
綺麗な黄緑いろの小物体がバケツの底にへばりついていました。
そして、丸い目玉を片目だけグルリと回転させてわたしを見上げたんです。そう、その目玉は左右、全く違うところを見れるんです。
マンガのようなあどけないその顔をみて、わたしは可愛いとさえ感じました。
ミトンの手袋のような形をした手足は、5本指の見慣れた動作よりもぎこちなさがあって、これまた可愛いんです。つかむというより挟むという感じです。
愛くるしい目と目の間にはニュウッと二本、そして鼻先に一本ツノが生えています(これは雄のしるし)。そんなツノと背中のギザギザや長いシッポをみると、まるで小恐竜のようにさえ思えます。本当によくできたクリーチャーです。
夫は娘達に見せる為、連れ帰ってきましたが予想通り、世話係はわたしになりました。
早速、大きな縦長の飼育ケージを買ってきて中にプランツの植木をいくつか入れ、上の方にとまり木を渡しました。困ったのはエサです。生きたものしか食べないのでペットショップに行ってmealwormという小さいミミズを与えましたが、このミミズ、すぐ死んでしまうのです。
仕方なく今度はコオロギを買って来ましたよ。ジャクソンを飼う為にコオロギまで飼うはめになりました。
あ!名前はですね、なぜかランゴになりました。いくつかのコオロギをケージの中に放したのですがランゴはコオロギを見つけられず、いつもランゴのエサはリンリン鳴いてました。
仕方なくお世話係のわたしは、コオロギを割り箸で掴んでランゴの前に差し出します。もう、野生ではありませぬ。すると、狙いさだめたランゴの口から長ーいスライムのような舌が放たれます。
うまく、割り箸のコオロギをキャッチしたランゴの舌はスポッと口の中におさまります。ゴク飲みです。
そんなランゴですが(猿も木から落ちる)、のようにたまに失敗します。狙いがわるく長く宙に伸びたランゴの舌は空ぶって何も掴むことなく口の中へ。
かわいいです。
そう、更に困ったのは水やりです。ジャクソンの類いは容器に水を入れても、水と認識しません。雨水のようにポタポタと落とさなければなりません。だけどドリッパーから水を落としても飲んでるのを見たことがありませんでした。ケージの中のプランツに水滴をつけたりしてもダメでした。
脱水で亡くなるのも多いらしく口元に水を垂らしたり霧吹きをかけたりしました。雨が降る日、外を歩かせたりもしました。今だとばかり、逃げようとしてランゴは全速力で走るのですがジャクソンの動きは可哀想なくらい遅いんです。
ヒョイとわたしにつかまれると、咄嗟に黄緑いろのランゴのからだは焦げ茶いろに変色します。ストレスがかかるとからだが真っ黒になるまで変色するので目安になります。
何ヶ月が過ぎて、ランゴの体が少しずつ大きくなると同時にツノもだいぶ大きくなっていきました。そう、ツノの長さで年齢がわかるらしいです。
ランゴはいつも、止まり木のうえにいました。わたしが朝、起きてケージを見た時も、夜の暗いなかにもランゴのシルエットが止まり木に見れました。敵に襲われることがないので警戒する必要もないのでしょう。
そんなある日、ランゴは止まり木のうえでユラユラ揺れていました。エサをとる舌もパクッと口の中におさまらず半分ほどだらーんと下がったままでした。
もうすぐ逝ってしまうかな、と思った矢先、外出から戻ってケージの止まり木をみたらランゴがいませんでした。
そばに行ってみるとなんとケージのしたにランゴが横たわっていました。わたしは驚いてランゴを手に乗せて動かないランゴの名前を何度か呼びました。
すると、ランゴは大きく口を開けたんです。そしてもう動かなくなりました。
今でも、時々クルクル回る目のランゴを思い出します。あの時、最後に大きな口を開けて「ありがとう」って言われた気がしました。
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