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それぞれの舟

どんなにそれが高級だとしても
手に取ることがなくなった服に
それほどの価値が
もはやあるとは思わない

それと同時に
ノーブランドでも
着心地が良くて
いつも手に取りたくなって
良いことがあった日に
必ず身につけていたような服は
自分の分身のように感じる

それは誰かにとっても同じこと
母が出放せない古いセーターやエプロンにも さまざまな思いや物語があるのだろう

それぞれの舟に乗って
それぞれの海を渡って
いつか新しい港に辿りつくまで
ささやかな物や人々が
あなたの人生をあたためますように
ああ 楽しかったと笑ってさよならが言える日まで励ます何かでありますように

きっと最後に心に残るものは
ささやかなこと
ひかえめな気持ち 
見逃しそうな時間

ただただ静かに過ぎてゆく
あなたとの残りの時間を
あたためるように
かみしめるように
生きてゆこうと思う

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