娘のコートやスカートを履いて写真を撮っちゃうKちゃんパパを見送る日。
Kちゃんの父上が亡くなった。
Kちゃんとは、うんと若い時からの友達だから、父上にも何度かお会いしたことがある。
父上は、インテリア関係のお仕事をされていた方で、私の部屋のブラインドを作っていただいたり、照明を取り付けていただいたことがあった。
かわいいひとだった。
背が低くて、頬がちょっと赤い。
いつも、飄々としている。
怒ったところを見たことがない。
マイペースで、Kちゃんと仲良し。
ある日、「もう捨てるから、、」と、Kちゃんが洋服を処分しようとしたら、父上が「じゃあ、その前に写真を撮ろう」と言い、スカートやコートを父上が着て、写真を撮った。
モデル並みにポーズを取って。
カメラを見ずに空なんか見て。
その写真を遺影にしたのだと、Kちゃんから写真が送られてきた。
なんてかわいい親子なんだ。
「どうやって、乗り越えたの?」
って、Kちゃんが聞く。
私の父は3年前の今頃、亡くなった。
乗り越えてないよ。
忘れてるだけだよ。
それでも、ありがたいね。
時間が経つって、凄いこと。
いつか、あまり思い出さなくなる。
思い出しても、悲しいのではなく、ありがたい気持ちになってきたんだ。
そこまでは言わなかったけど。
家族を亡くした人に伝えられる言葉なんて、ない。
悲しみに寄り添うだけ。
大好きだよって伝えるだけ。
Kちゃんは父上と仲良しだったから、喪失感は相当なものだと思う。
父と仲良くなかった私は、仲良くなかったなりの悲しみがあるが。
悲しみの種類を比べても、意味はない。
Kちゃん、
そう言えば、ちょっと不思議なことがあったんだよ。
3年前、父が亡くなって、慣れない一連の儀式がバタバタと終わった日、くたくただった母と姉と私の3人は、母の寝室にお布団を3枚並べて眠った。
悲しい気持ちはいったん置いといて。
なかなか眠れずにいた夜中、1時頃、家の電話のベルが鳴ったんだ。
びっくりしたよ。
田舎だし、知り合いに、夜中に電話を掛けてくるような人はいないし、誰だろう、、、と思っていたら、2回の呼び出し音だけで切れてしまった。
気になったけど、どうしようもない。今度は、ちゃんと眠ろうって、うとうとしたら、
また、電話が鳴った。
また、2回で切れた。
その時、分かったんだよ。
これは父が「もう行くね」って言ってる合図だなって。
そして、父が私達に「ありがとう」って言ってる気がしたんだよ。
ああ、父は旅に出るんだなって思った。
父は父で、これからこの世界とは違う場所で、やらなきゃいけないことが沢山ある気がした。
だから、いつもそばで見ていてねって、言っちゃいけない。
代わりに、あちらの世界でも頑張ってね。応援してるよって、いつも思うようにしようと。
翌朝、母と姉にこの話をしたら、ふたりとも電話の音は聞いてないってさ。
旅立つ人は、凄いね。
ありったけの勇気と優しさを残された人達に置いてゆく。だから、生きてゆける。
生きるんだよ、Kちゃん。
20代の頃、失恋した私は何もかもイヤになった。でも、ある瞬間、ある決意が心に降りてきた。すぐにKちゃんに伝えたくなって、呼びだした。
Kちゃん、決めたよ。
私、死ぬまで生きるよ。
Kちゃんは、ちいさく笑った。
でも、わかるよ。って言ってくれた。
Kちゃんパパ、Kちゃんをこの世に送りだしてくれて、ありがとうございました。
もうすぐ、Kちゃんの誕生日。
Kちゃんの大好きな苺を送ろうと思う。
※今日は、neLcoさんの写真を使わせていただきました。ありがとうございました。