
日本の縮図がここにあるのでは?【対馬の海に沈む】レビュー
これぞノンフィクションというお話
JA(農協)といえば、地方では身近な存在です。
近くにある方も多いのではないでしょうか?
そんなJAの闇を暴露した一冊。
開高健ノンフィクション賞も受賞しているそうです。
私は例によって、成毛眞さんのおすすめ本として購入してみました。
内容は?
物語は、人口約3万人の対馬で「JAの神様」と称され、日本一の営業成績を誇った西山義治氏が、自ら運転する車で海に転落し、44歳で亡くなった事件から始まります。彼には22億円以上の巨額横領の疑いがありましたが、果たしてこれは彼一人の犯行だったのか、組織全体の問題なのかが問われます。著者は執拗な取材を通じて、JAの営業ノルマや組織の闇、そして金銭を巡る人間模様を浮き彫りにしています。
最初は「JAで頑張っている若手が何かの事件で殺されてしまったのでは?」と思って読み始めたのですが、全く違う話でした。
JAの経済事業はずっと赤字――これは全く知りませんでした。
農家に頑張らせてJAは儲かっている思っていましたが
実はJA自体が赤字だったとは…。
そして、その赤字を埋めているのが金融事業。
経済事業:農産物の加工・販売など
金融事業:貯金の受け入れ、貸し付け、生命保険、損害保険など
この金融事業で、日本トップの営業成績を10年以上ダントツで上げ続けてきたのが、西山氏です。
しかも、人口3万人の長崎県・対馬で。
単純に謎ですよね。
たった3万人しかいない街で、日本トップの成績を収められるのでしょうか?
街の人がほぼ契約してくれれば可能かもしれませんが…それはかなり難しいのでは?
22億円に及ぶ不正が発覚
西山氏は、元々は営業の成績は良かったようですが…
とあることがきっかけで不正をはじめ
長年にわたり多くの不正を行いながら、成績を上げ続けてきました。
そして、それがバレる直前におそらく自殺…という流れのようです。
周りも同罪?
西山氏の家族は、「本人は確かに悪いことをした。しかし、JAにも責任があるはず」と語ります。
JAのノルマ、そして自爆営業
JAの営業には厳しいノルマが課されており、中には自分の家族を保険に加入させたり、自分で保険料を支払う「自爆営業」をする人も多いそう。
その額は年間数十万円から数百万円にも及ぶとか。
ノルマを達成できないと、上司や同僚から厳しく詰められる。
それが原因で辞めていく人も多い。
そんな中、ノルマをすべて肩代わりしてくれていたのが西山氏。
無償で契約を同僚や新人に与え、「西山王国」を築いていき、支店長よりも強い権限を持つようになる。
日本トップの成績を出していればさすがに支店長すら西山氏には頭が上がらなくなります。
他の職員にも自宅などの損害保険を契約させ、損害金を通常の5倍近い損害金を支払った事も。
台風がきたら、損害がなくても損害金を配ったりと同僚にもお金をばら撒いていく。
これは西山氏が悪い人ではなく、自分の仲間には優しいという事です。
仲間には良くして、敵には容赦なし
こうして、誰も西山氏に逆らえなくなっていきます。
西山氏がやっていることに何かおかしいと
みんな薄々気づいてはいるが、口を出せない――そんな状況に。
内部告発も揉み消される
西山氏が自殺(恐らく)する10年以上前
支店長が内部告発を行いましたが、これは揉み消されます。
さらに支店長は左遷。
日本トップの営業成績を誇る西山氏は上から圧力をかけたのです。
JA対馬だけでなくJA長崎県とも強い結びつきがあったということ。
これだけの成績を上げている以上、誰も文句を言えません。
西山氏のお陰で潤っていたのは対馬だけではなく長崎も一緒だったのでしょう。
西山氏の葬儀で、当時の支店長が
「西山氏のおかげでみんなの給料が払われていた」という言葉は、衝撃的です。それほどまでに稼ぎまくっていたのが西山氏なのです。
JA対馬の不祥事、22億円の損害
この22億円の損害はJA共済から支払われています。
つまり、その分JAの保険加入者の保険料は上がっているはず。
ただ、JA内部の問題で完結しているため、一般の人にはあまり関係がないように見えるかもしれません。
しかし、同様の不正が他の業界にもあることを考えると、決して無関係とは言えません。
例えば、某中古車販売会社のケースでは、車の保険料率は事故率で決まるため、不正があれば車を持っている人全員の保険料が上がります。
こうした問題は、車保有者は特に注意すべきでしょう。
JAの内部問題だからといって、放っておいていい話ではないはずです。
これはノンフィクション
本書は、実際に起きた事件を丹念に取材し、何度も足を運んで聞き取りを行ったものです。
これはドラマではなく、現実に起きた出来事。
救世主が現れて一件落着、という話にはなりません。
それがノンフィクションの怖さでもあります。
不正に手を染め、売上を上げ続けた結果、もう降りられなくなり、最後は自ら命を絶つ――。
そんな顛末です。
ノルマが厳しいJAにも問題がある
もちろん、ノルマが厳しいのは事実。
しかし、だからといって犯罪を犯していいわけではありません。
それを許してしまえば、「何でもアリ」になってしまう。
そして、それを見て見ぬふりする文化が、日本にはまだまだ根強いのではないでしょうか?
「うまい汁だけ吸って、都合が悪くなったら知らん顔」
日本人には、こうした傾向が多いのではないか。
誰だってお金をもらえるならもらいたい。
しかし、部が悪くなれば知らん顔。
どこの企業でも、大なり小なりこういったことは起きている気がします。
JAに関しても、この対馬支店だけではなく、他の支店でも同様のことが起きているのでは?
人間の心理として、「同じようなことを考える」のは当然。
これこそが、日本的な構造なのかもしれません。
この本を読んでいて少し「積水ハウス地面師事件」のことを思い出しました。
Netflixで有名になった「地面師」
実際の事件を取材した本「保身 積水ハウス クーデターの深層」も非常に似ていると思います。
ドラマが好きな人はNetflixで!
本が好きな人はこちら
何とも悲しいお話。
「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったもので、
これはフィクションではなく、実際にあった話なのです。
この後味の悪さもノンフィクションならではでしょう。
JAに関わりがある人には是非、一読して欲しい一冊です。
それでは、4s Production 中沢でした☺️
Keep smiling!!
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