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オトンのハッピースマイル!前編
猛暑が続く8月はじめの朝。
陽射しが強くなる前にしゅっぱーつ!
リュックには、散髪道具やエプロンと水筒2本。
自転車のカゴにはランチと沢山のお土産を入れてあるぞ。
「オトン!今行くよー、待っててねー!
」
鼻歌を歌いながらオトンの家へ向かう。
もちろん自転車は立ち漕ぎだ。
私の体調不良が続き、久しぶりの娘訪問介護。
楽しみでウキウキワクワクする。
なぜなら私はオトンが大好きだから。
・・・
父娘は昔からずっと仲良しだったわけではない。
私が中学一年生の時、父子家庭になったばかりの頃は、
私は家事を全てやらなくてはいけなくなったことにイライラし、父とも「ご飯まだ?」「今作ってる」としか会話がなかった。今思えば父も、片道2時間の通勤と激務で大変だったのだろう。
父も兄も忙しく、一時的に母にも拒絶されていたこともあり、
私は深夜までラジオ(J-WAVE)で世界中を旅する話を聴いては、いつか行ってみたいなぁと現実逃避してウットリしていた。
数時間後には起きて、お弁当作りしていたので眠くて眠くて学校に行っても無気力。
高校生になってからは、学校や部活も楽しくて、勤務先が近くなった父も気持ちに余裕ができ、いろいろ話したり一緒に出掛けたりするようになった。
シングルマザーになってからは父に本当にお世話になった。
私が土曜出勤の時には「お父さんに任せて。孫くんが可愛いから!」と、息子をいろいろな場所へと遊びに連れて行ってくれた。
ある日、父が公園で嘔吐して倒れ、小学一年生の息子が一人で付き添って救急車で運ばれた。
慌てて仕事を早退し、病院に駆け付けると「ごめんね、孫くんに不安な思いさせちゃったよ。」と父は点滴しながら申し訳無さそうに笑い、息子は「ボクがいたからジイジは大丈夫だよ!」と付き添いの椅子にシャンと座っていた。
でもぐったりとベッドに横になっている父と、息子の小さな手が震えているのを見て、私は泣いた。
私が病気で寝込んでいると、仕事帰りに自転車(ロードバイク)で颯爽と現れる父。
孫のためにと苦手な料理を勉強し、失敗しながらもレパートリーを増やし、オヤジギャグを言っては笑い、私と息子も笑顔があふれ、心を明るくしてくれた。
今でも「ボンゴレビアンコ」と「祖父直伝のすき焼き」は父の味を越えられない。
今はもう大人に成長した息子もジイジが大好きだ。
小さい頃、小児喘息の発作で眠れない時にいつも背中を撫で続けてくれた父の大きな手は、細くシワシワになった。
明るく元気だった父は、病気で補聴器を着けても耳があまり聞こえなくなったことですっかり引き籠もりになり、
いろんなことへの意欲が低下してしまい体も衰弱した。
父の笑顔が見たい。
私は大したことはできないけれど会いにいくのが楽しみなのだ。
46年間の父娘生活でゆっくりゆっくりと仲良くなっていった。
・・・
「ワクチン接種の前に散髪しようね。」と言っていたが、私のワクチン接種の副反応が長引き前日になってしまった。
「お父さーん元気ー?」
鍵を開けてオトンの家に入る。
寝ていたオトンが「あ、じゅんみはちゃん、もう具合は大丈夫なの?」と寝ぼけ眼で起き上がる。
「大丈夫だよ。今日も暑いね!」
先ず掃除を始める。
机の上に写真があった。
お気に入りのサイクリングウエアの上着を着たオトンと、オトンの若い頃にそっくりな顔をした兄がピースをして写っていた。
マスクをしていても分かるくらいに、
ここ数年で一番良い笑顔だ。
「お兄ちゃんと撮ったんだよ!」
少年のようにピカピカに輝く笑顔で話してくれた。
子どもの頃、父は車を走らせ兄と釣りへ出掛けていた。
今は兄の運転でたまに出掛けられることがとても楽しいようだ。
オトンの喜ぶ顔を見ると私も嬉しい。
オトン良かったね!お兄ちゃんありがとう。
(もう乗らなくなったオトン自慢のロードバイクの上に飾ってある、10数年前に私が作ったコラージュ。英語はあっているのだろうか?)
洗濯、布団干し。キッチンの流しとトイレとお風呂をピカピカに磨いてお楽しみのランチタイム♪
ミートドリアを新しい電子レンジくんで温め「レンジくん良い仕事するねー!」と二人で喜んだ。
ポテトサラダにフルーツサンド。
冷たいカフェオレを飲みながら楽しくお喋りしてお昼ごはんを食べる。
テレビを観ながら楽しそうに話すオトン。猛暑が続いていて心配だったけど、元気で良かった。
会話が弾み、私も元気になる。
しばし休憩して、散髪を始めた。
バリカンを充電し忘れていたのでハサミで刈り上げする。
「シャキ シャキ シャキ カチカチカチ」というハサミのリズムが心地が良いのか、またオトンは髪を切られながらウトウト寝ていた。
あと何年、こうしてオトンの散髪できるのかな。
いやいや、とても長生きして私の方がハサミ使えなくなったりして!そりゃ困るぞ、私も元気でいなくては!
眉毛とヒゲも整えたら、鼻毛が爆発していた。ちょっと飛び出るどころではない、爆発だ。
「鼻毛切るよー。」
なかなか手強い。なんで今まで気付かなかったんだ私。
次回は鼻毛カッター持参だなこりゃ、と切っても切っても減らない鼻毛に眉毛ハサミで格闘した。
すっかりチョイワルおじいちゃんになったオトンは「いいねいいね!ありがとう。お風呂入ってくるね!」と上機嫌でいつもは嫌がるお風呂に入った。
その間に干していた布団などをベッドにセッティングして、洗いたての肌着を用意。
お婆ちゃんと伯母さんの遺影を拭いて「オトンを守ってくださいね。」と手を合わせお願いした。
お風呂を出たオトンがフカフカの布団に座り、グラスに入れておいたスポーツドリンクを美味しそうにゆっくりと飲む。
最近は熱中症予防のために「トイレが近くなるから」と言っていた水分補給を嫌がらなくなった。
冷房も適温にしてあるようだ。新しい数字が大きくて見やすい室温計は、室温が高いと警告ランプがピカピカと赤く光る!オトンはそれを見て確認しているらしい。
よしよし、いいぞ!
私はひと休みに、ベランダから見える池の、カモと甲羅干ししていたカメを眺めていた。
「今日はカモが何度も頭を池に突っ込んでいるけど、何をしているのかな?」
とオトンに聞くと、
「池にカワウが飛んで来てね、潜って魚を捕るんだよ。そうするとビックリして魚が逃げて水面に散らばる。その魚をカモが食べるんだよ。」と説明してくれた。
鳥や魚、花が好きなオトン。
「最近はシラサギやカワセミ、ウシガエル、たぬ公はあまり来なくなったなぁ。」
「そうなんだ。」
「向かいの山が更地になってるでしょ?ドラッグストアになるんだってさ。緑が減って寂しいよ。ニャンごろ(野良猫のこと)もいなくなったし。」と言っていた。
実家のあったこの辺りは、幼い頃には森や竹林、畑に囲まれて湧き水もあったが今は住宅ばかりで緑が少ない。
それでも池の生き物たちや植物を見ることがオトンの小さな楽しみなのだと思う。
(オトンの大好きな我が家の三毛猫三姉妹。「三女ちゃんはお父さんが無理矢理抱っこしたから、今でも怒ってるかなぁ?」と毎回言うオトン。)
(「ジイジ遊びに来ないかなー?」と待っている。オトンが来るのを楽しみにしている。)
ワクチン接種の封筒を出し、二人で予習をした。
封筒の表には兄の達筆な字で、「○月○日、ワクチン予約しました。」と、犬の絵とともに書いてある。かわいい。
私の方が先にワクチン接種していたで問診票の書き方や持参するものなどを説明する。
新しい体温計も用意し、測ってみてと言うと、脇に挟んだ。
右耳は聞こえないが、左耳は補聴器をつけていて少し聞こえるので、脇に左耳を近づけ何とも変な姿勢だ。
が、いつまで経ってもピピピと鳴らない。
「鳴らないねぇ?ちょっと見せて。」
何も表示されていない。
「あ、ボタン押さないと動かないのか!」
「えー?ちょっとちょっと、体温計何度も使ったことあるじゃん。大丈夫?」
最近、こういう物忘れがちょくちょくあるのが心配だ。
でも、若くて可愛いアイドルは私よりも詳しいからちょっとホッとする。
「ワクチン接種後は朝晩に検温してメールしてね。」と、封筒の兄の字の上に書き、猫の絵を描いた。
「じゃあ明日の朝、9時に迎えに来るね。」
「うん、よろしくね。」
と手を振って玄関を出た。
オトンがいつもより沢山お喋りしてくれて、私はオトンの笑顔にいっぱい癒やされた。
♪オトンのハッピースマイル♪
眩しいぜ!
帰りの自転車も鼻歌を歌って立ち漕ぎだ。
オトンありがとう!!
(玄関横の棚も以前、私が作ってペイントした物です。この下は掃除用具が置いてあります。)
・・・
散髪するオトンと私を描きました。
・・・
またまた長い文章を最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回の「オトンのハッピースマイル!後編」に続きます♪
よろしければ、そちらも読んでくださると、私がでんぐり返しして?!喜びます!
8月始めに書いた文章は下書きしてあったのですが絵が思うように描けず、すっかり8月も終わりになりました。
「上手く描けなくても楽しく描こう!」
8月中に間に合ったから良いかな、なんて思いました。
・・・
今までの「おとぼけ娘訪問介護日記マガジン」もありますので、そちらも是非ご覧ください♪
(ねじりさんリクエストの三毛猫三姉妹の勢揃い写真も載せてみました🐈🐈🐈♪)
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