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「陶芸家になるには」ースタイル編ー 16 <離:スタイルを育てる>
フィードバック
インプット、アウトプットの量・質。
このどれもが、「選択」と「判断」を必要とします。つまり、フィードバックありきなのです。
インプットの方向性や選択。
アウトプットの軌道修正や方向性の判断。
これらの行動は、すべてフィードバックを通して行われます。
そしてフィードバックこそが、唯一作家がコントロールできる要素なのです。
理由は、
インプットは、知らないことを吸収する行為です。
→ そのため、絶対的な予測は不可能です。
アウトプットは、作家の身体という限られた「道具」を使い、不安定な「素材」を加工します。
→ そのため、結果の完璧な予測は不可能です。
このように、制作の本当の意味での舵取りを行えるのは、フィードバックのみとなります。
そして、前述したとおり、フィードバックには2種類あります。
作品を終わらせる為の判断としての、短期的フィードバック。
スタイルや作品の方向性を決める判断としての、長期的フィードバック。
どんなに技術があったり、器用だとしても、この「判断」の良し悪しが作品に大きく影響します。
この「判断」、つまりフィードバックの質を上げることは可能です。
その「質」をあげるために、「量」も必要になります。
▽短期的フィードバック
短期的フィードバック = 「作品を終わらせる為の判断」
これは、言い換えると「直観」です。
直観は、体に染みついた運動能力と、直観的に出てくる潜在意識です。
たった今削ったラインが良いか、悪いか。
部分的なボリュームを増やすか、減らすか。
などなど、基本的には、作家の嗜好性(好み)を軸とした、瞬間的な判断にあたります。
▽長期的フィードバック
長期的フィードバック = 「スタイルや作品の方向性を決める判断」
これは、言い換えると「客観」です。
客観は、素材への経験値と、目標へのロジカルな制作プランです。
長期的フィードバックは、完成した自分の作品を客観的に観察し、批評するプロセスです。
つまり、反省会です。
この反省会で、
良いところ
悪いところ
発見したこと
改善すべきとこと
などを洗い出し、次の制作へ移ります。
例
例えば、「土で犬を作る」プロセスを考えます。
まず、「前回の反省を踏まえて」犬の全体像、プロポーションから入ります。(客観:制作プラン)
ある程度の形状が決まっても、足や尾など、弱い部分はまだ作りません。(客観:素材の経験値)
そこで、触ることができる部分のディテールを深めていきます。(直観:運動能力)
ざっくりとした頭部の形状を、土が乾かないうちに決めます。(直観:運動能力)+(客観:素材の経験値)
もう少し細部を作りこんでいくと、好みの表情を作りこむことができます。(直観:潜在意識)
ここで、一息休憩がてら、距離を置いて作品を眺め、評価します。(客観:制作プラン + 直観:潜在意識)
完成後、反省会をします。(客観:制作プラン)+(客観:素材の経験値)
次回に繋げます。
このように、一つの作品をつくる上で、様々なフィードバックを重ね、完成までたどり着きます。
▽フィードバック(質)
では、フィードバックの質を上げるにはどうすればいいのか。
結論から言うと、反復です。
フィードバックを反復して行う。
「創ることの基本構造」を反復して回していく。
結果を分析する。
上のように、「判断」の経験を積んでいきます。
フィードバックとは、「判断」でした。
その判断の「基準」は、自分自身にあります。
自己が下した判断の「評価」は、自己の経験値によります。
このように、フィードバックの質とは、自分自身やマーケットの知識など、総合的な経験値のレベルとも言い換えられます。
短期、長期的フィードバックごとに、もう少し実践的に述べていきます。
短期的フィードバックの質
短期的フィードバックは、「直観」による判断です。
潜在意識内の知識量がモノを言うので、
素材に多く触れる(経験値)
良いと思うものを多く見る(知識)
など、アウトプット・インプットを反復していくことにより、「直観」による判断の質が上がります。
長期的フィードバックの質
長期的フィードバックは、「客観」による判断です。
そしてこれは、「目標への制作プラン」をコントロールする役割でした。
この「目標」は、遅かれ早かれマーケット内での評価と繋がってきます。
つまり、判断の基準が、自分自身の閉じた世界だけでなく、外の世界である「マーケット」への経験値からも影響を受けるようになってきます。
この「マーケットへの経験値」=「マーケット感」を上げることにより、長期的フィードバックの質は上がります。
では、「マーケット感」にはどうすればいいか。
そこで必要になるのが、「他人の目」です。
▽フィードバック(量)= 他人からのフィードバック
これまでは「スタイルを見つける・育てる」為に、自分の中での「創ることの基本構造」を回していました。
なぜなら、スタイルは自分の中からしか出てこないからです。
しかし、一旦スタイルが定まると、どの様に方向修正していくかの「判断」が必要となってきます。
この時点で、既に作家としてマーケットを意識し始めます。
そこで必要になってくるのが、「マーケット感」でした。
この感覚をどの様に養うのか。
それが、主観だけではない、フィードバックの種類を増やす。
つまり、他人からのフィードバックを取り入れる方法です。
▽他人に見てもらう方法
では、他人に見てもらうには、どのような方法があるのでしょうか。
講評会を活用する
公募展に出す
陶器市などのフェアに出す
フィードバックの量を増やす、最初のステップで現実的なのは、この3つかと思います。
講評会
教育機関であれば課題の度に先生からの批評が得られると思います。
沢山のインプットの中で、課題に対してアウトプットし、その方向性を修正してもらえる。うまく使えば、教育機関は、スタイルを育てるのに理想的な環境です。
また、他の生徒への講評も同時に聞けるのはとても貴重です。自身と同じように悩みぬいた作品に対してのフィードバックは、自身の作品への講評と同程度に価値があるからです。
公募展
ほぼ誰でも出品可能な、リアルなチャンピオンシップです。
ここでの評価は、自身のキャリアや名声をブーストさせてくれるので、作品に手ごたえを感じたら、参加することも選択肢の一つです。
ただ、公募展では、入賞作品以外がフィードバックを得られる機会はありません。もし、一次審査で落選となった場合、何が原因なのか明確にならないと思います。
それでも、賞をとった作品や、その講評をみることにより、マーケットの流れをつかむことはできます。実際に参加した公募展なら、自分事として注目することができます。
陶器市などのフェア
リアルな市場の反応を、目の前で沢山得られる、貴重な体験の場です。
教育機関や公募展など、閉じた陶芸サークルの中と、実際の市場には、常にギャップがあります。
このギャップを修正することは、独立するためにとても重要です。
もちろん作品のカテゴリーや狙いたいターゲットによって変わりますが(ここは次章にて見ていきます)、金銭による売買により、かなりシビアな経験値を積むことができます。
ただ、実際のお客様が批判をくれることはまずありません。
ポジティブな意見をそのまま鵜呑みにするのではなく、他の作家への反応と比べたり、売上や手に取ってもらえた作品の分析をしたりと、ここでもある程度の客観性をもって、他人からのフィードバックを参考にするべきかと思います。