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不登校の海㊺ 目をつぶる勇気

2020年5月、新5年生になったばかりの長男が不登校になりました。noteでは長男が9ヶ月かけて学校に復帰するまでの記録を公開しています。

「はじめに」はこちら★


目をつぶる勇気

英語のレッスンを受けていたのと同じころ、長男にいつもとちがう変化が見られるようになっていました。

ご飯をなかなか食べられなくなったのです。それまで好き嫌いもほとんど無く、何でもパクパク食べていたのが、急に食べられなくなったのです。

食事にかなりの時間がかかるようになり、食べ物を口に入れてずっと噛んでいるのに飲み込めないのです。

冷静に考えればどう考えても普通じゃない状況です。今なら何か精神的に不安なことがあるのだろうと推測できますが、当時の私はそこに思い至ることができませんでした。

その頃の私は、生まれたばかりの次男にかかりきりで、5歳になって手が離れてきた長男には、当たり前のようになんでも一人でやることを期待してしまっていました。

本当なら長男は、弟が生まれて嬉しい反面気持ちも不安定になっていた時期です。表立って赤ちゃん返りが無かっただけで、本当は構って欲しい気持ちがあったはずです。

それなのに、私は長男の寂しい気持ちに気づくことができず、それまで出来ていたことがある日突然できなくなったことにいら立っていいました。

「こないだは食べたのに、どうして今日食べられないの?」
「ちょっと前まで普通にたべられたのに、どうして食べられなくなったの?」
と、夕食の度に問い詰めました。

5歳の子に、そんなことがわかるはずもないのに。
食べられなくなったことに一番戸惑ってるのは本人のはずなのに。

当時は主人の帰りが遅く、夕飯の時間は私と赤ちゃんだった次男と長男の3人で過ごすことがほとんどでした。

「この子を責めちゃいけない」と頭でわかっているのに、ずっともぐもぐしている長男を見ると感情が抑えられなくなってしまい、責めてしまうのです。

長男を泣かせた後にハッとして「明日は絶対に責めるのを辞めよう」と決意するのですが、翌日になると同じことを繰り返してしまうのです。

緩衝材になってくれる主人もおらず、ひどい時はなかなか呑み込めない長男をダイニングから締め出したこともありました。

「飲み込むまで入ってこないで」と。

この頃にはもう、自分の気持ちがコントロールできなくなっていました。

毎日、夕食の時間が来るのが怖かったです。
だけど、止められない。

そんな時に、ある子育てブログがきっかけで一冊の本に出合いました。

親野智可等 (おやのちから)さんという方の、「叱らないしつけ」という本です。ブログにも紹介されていた1ページが、胸に突き刺さりました。


子育てでは、目をつぶる勇気が必要になるときが必ずある

では、どうしてもできないこはどうすればいいのでしょうか?
それは、目をつぶればいいのです。
やるべきことはやって、それでもできなければ、目をつぶればいいのです。

どうしても、八時までに提出物を出せなければ目をつぶればいいのです。
どうしても、前の日のうちに次の日の支度ができなければ、目をつぶればいいのです。
どうしても、脱いだ靴の整頓ができなければ目をつぶれば、いいのです。

別に、それができなくても、どうということはないのです。
一度冷静になって考えてみれば、大人が躍起になって子どもに言っていることのほとんどは、それほどたいしたことでは無いと気が付くはずです。
少なくとも、子どもの心にトラウマを残してまでもやらなければならないほどのものではないのです。

私は、いつも言っています。
目をつぶる勇気が必要です。
目をつぶる決意をしてください。
大人が子供に向かうとき、この勇気が必要になるときが必ずあります。

でも、ただ目をつぶるのではないのです。
短所に目をつぶる代わりに、長所を伸ばす決意をするのです。

親野智可等(2006)「叱らないしつけ」PHP文庫 p66-67

「 一度冷静になって考えてみれば、大人が躍起になって子どもに言っていることのほとんどは、それほどたいしたことでは無いと気が付くはずです。」

ほんとうに、その通りでした。ご飯がなかなか食べられないくらい、たいしたことないのです。少なくとも、わざわざ部屋から締め出すほどのことでは絶対にないのです。

産後で人に会うこともほとんどない子育て環境で、ガチガチに狭い思考に陥ってしまっていた私の世界が、ふわっと緩んだような気がしました。

ご飯が食べられなくなった長男に私がやるべきことは、無理に食べさせることではありませんでした。

食べなくても大丈夫だよと、伝えてあげればよかったんです。

弟が生まれて、自分のことは自分でやろうと頑張っている長男を、ただただ認めてあげればよかったんです。

生まれて初めて弟という存在ができた5歳の子にとって、それは決して当たり前のことでは無かったのだから。

「私は一体何てことをしていたんだろう?」

この1ページを読んで、ようやく自分のことが俯瞰して見られるようになってきました。

そして「目をつぶる勇気」は私にとって、どんな育児書よりも価値のある、子育てにおける唯一にして全ての教えになりました。

漢字ノートの字がめちゃくちゃ汚くても、「全部できてる!すごいやん!!」と思ってた宿題が、実は答え丸写しだったことがわかって裏切られた気持ちになったときも、目をつぶりました。(実際のところは「一旦激怒しまくって、そのあとでこの1ページを思い出してからようやく目をつぶる」の繰り返しでしたけど)。

「怒ってはハッとし、自分を振り返る」

何年もそれを繰り返したおかげで学校に行けなくなってずっと家でゴロゴロしている長男の姿に目をつぶり続けることができたのかもしれません。


カウンセラーに聞けなかったこと




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