『最強の独学仕事術』赤羽雄二著

まだ日本にコーチングの概念が大々的にはもたらされていなかった1996年、当時、預かり資産で世界最大の金融機関の組織統合に向けたコンサルティングの一環で、クライアント企業のリーダーたち数百名にコーチングスキルを伝え、無事、統合にこぎつけたときから、コーチングとは長いつきあいだ。

その後、主に大企業の組織変革、チェンジマネジメント、あるいは国の組織の民営化、東証一部上場などの大きなイヴェントのコンサルティングの一部として、エグゼクティブコーチングを行ってきた。優に1000人は超えるエグゼクティブたちをコーチする中で、仕事を、人生を、ともに学び、成長し、彼らが日本社会の一角を確実に向上させるサポートに喜びを感じてきた。

いわゆるコーチングスキルをはるかにこえて、行動科学、心理学、脳科学、遺伝子工学、はては量子医療などを学び、すべてを総動員して人を探求する旅は、宇宙旅行に勝るとも劣らない。

関係者が数千人から数万人に及ぶプロジェクトの場合、彼らエグゼクティブたちが指揮していく多数の部下や関係者たちに、明確な指針を示しアクションプランを実行してもらわないことには変革は進まない。

しかし人は簡単に動かない。同じメッセージを聞いても、勝手に解釈する。心理的に抵抗する。反逆する。無視する。離脱する。そこでコンサルタントとしては、さまざまな工夫をする。

その一つに、マニュアルのように、誰でもわかる平たい言葉で、複数の解釈が生まれないようなローコンテクストな記述をして冊子にして渡すことがある。これは、組織においていい働きをしてくれる。しかしその作成は、コンサルタントに多大な時間と労力、経験を要求する。誰でもできることではない。

そのようなとき、ビジネス書に頼りたくなる。しかし、大方のビジネス書は数千人を同じ方向に動かすことはない。そこには、いわゆる「行間」があったり、著者の価値観が反映されていたりして、いちいち面倒なことを引き起こす。やっかいだ。

そのような中で、かつて赤羽雄二氏の『ゼロ秒思考』を1000冊以上投入して、組織変革の一助としたことがある。あまりに明快で、疑問に思う記載も、理解できない個所も一か所もない、無駄の一切ない書籍で、それは初めて出会う感触だった。

先日、ふとしたことから『最強の独学仕事術』に出会った。出版がこの8月だというので、出版されるやいなやという速さで手にしたことになる。一読し、さっそく、現在、チェンジマネジメントのコンサルティングをしているクライアントのリーダー全員に購入するよう指示した。

最強の独学仕事術

まず、この本、何がいいと言って、明確である。誰が見てもできる、わかることが書かれている。マニュアルというと一般には失礼にあたるが、これはマニュアルである。よくできたマニュアルである。あるいは具体的なアクションプランの書かれたバイブルという表現もできるだろうか。まぁ、そんな言葉遊びはどうでもよい。複数の人に同じように行動してもらえ、短い時間で目に見える成果が出る、ありがたいツールだ。

次に、「自信を持つ」「高いやる気を維持する」という、誰もが知りたいが、著者としてはだれもが記述を躊躇するようなテーマに、どまともに向き合い、そうか、なるほどと言わざるを得ない解決策を提示している。あっぱれ。

そして、扱う範囲が広い。人は昔からIQ、知能指数を気にしてきた。その後、EQ、つまり心の知能指数も大事だとさかんに言われ、それにまつわるビジネスが成り立ってきた(そのわりには、皆さん、EQが上がったのだろうか…)。そして今、経済の衰退にコロナも加わり全体が底打ち期にある日本で、急速に浮上してきたのがBQ、からだの知能指数、つまり身体智だ。この本は、赤羽さんのお手の物のIQ向上に役立つことはもちろん、「自信」「やる気」などEQに関することに加え、なんと「睡眠」「食事」「運動」などBQに関することまで触れている!さすが、脱帽。

現在、クライアントのリーダーたちは、これを読み、実践を始めている。一番早いリーダーは、伝えたその日にamazonで購入し、翌日には読み終えて実践にとりかかっている。本を読むのは好きではないといいながら、すぐに読みきることができたのは、この本が持つ、不思議な魔力のおかげだろう。速読など知らなくても、テンポよくページがめくれる。これはもしかすると、著者自身が、自ら考案した「ゼロ秒思考」を長年続けてきたことによる、たぐいまれに整理されきった脳から紡ぎだされた言葉だからだろうか。

久しぶりに、気持ちのよい本に出合えた。会う人ごとに勧めている。今のところ、迷惑そうにはされていない。

この本を導入した組織がどう変わっていったかを記述できる日が楽しみだ。





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