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青い花
くきくきちゃんは、赤いわんぴいすを着てでかけた。ちいさなともだちと一緒に。ズックもきちんと履いた。ぼうしは去年買ってもらったむぎわらをかぶった。はりがねくんと、ふたごのぶたぶたに「いってまいります」とていねいにおじぎをした。ゴジゴジの時計がピーっと鳴った。
くきくきちゃんはそのまま家からまっすぐの道を歩いた。ヤギロンパの枝が、みんなゆっくり輪を描いてくきくきちゃんの歩いた道を消していた。赤や黄色や緑の風が笑い声や泣き声を運んできては落としていった。
途中、おしゃべりニココの葉っぱがぺちゃりくちゃりとくきくきちゃんを誘惑してきたけれど、くきくきちゃんは口を堅く結んでひたすら歩いた。
むぎわらの上でニココの葉っぱたちは顔を見合わせてつくつく笑った。くきくきちゃんは小さなともだちの方を向いた。小さな友だちも目をひらたくして笑った。
ひと気のない公園につくと、くきくきちゃんは大きい遊具や小さい遊具でひとしきり遊んだあと、古びた茶色のベンチにねころんだ。小さなともだちも隣のベンチにねころんだ。
むぎわらをぬいでみると、ニココの葉っぱがすっかりみんな黙ってやわらかくなっている。くきくきちゃんはそれをベンチの横にさいた小さい青い花の群れのうえにそっと置いて、めをつむった。
そしたらくきくきちゃんは、たくさんの人の中にいたり、ごはんを食べたり、ぼおっとしたり、ドキドキしたり、いつもと同じことをしたり、ちがうことをしたりしていた。
なんでだか、とてもとてもこわい思いがして、はっとあたりをみまわすと、くきくきちゃんは公園のベンチにいた。カラスの鳴き声がした。まっしろいまっしろい空。
(まるで夢の中に起きたみたい)
くきくきちゃんはちいさなともだちを探した。
ちいさなともだちはベンチにきちんとすわってこちらを見ていた。「サムイ」といって笑った。青い花にさわると、ゆびがかすかに青く染まった。風は、もう夢ばかりを運んでいた。
とってもうれしくってなんでもキラキラして、しあわせなとき、
時々わたしはあの青い花や風と同じような気持ちになるのです。
でも同時にとてもかなしくってどうしようもなくなるのです。
あの青い花や風や、まして月のような、美しさと同じ重さの孤独を
わたしはどうしても持ってはいられないのです。
(2000年著)