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〜アドバンス・ケア・プランニング はじめの一歩 第2話〜 ACPを実践するメリット
前回のnoteではACPは「これから起きるかもしれない生活の変化に、備えるための話し合い」と教えていただきました。
また、治療や介護が必要でない人も人生に起こるさまざまライフイベントを通じて、自分の価値観を明確にするALPという考え方もあって、ALPに取り組んでおくとスムーズにACPに移行ができるということも教えていただきました。
今回のnoteでは「ACPを実践するとどんないいことがあるのか」についてまとめています。
不本意な状況を避けることができる
____ますみ先生、ACPに取り組んだらどんないいことがあるんでしょうか。
ACPを実践すると、本人だけでなく家族にとっても不本意な状況を避けることができます。
ACPではこれからの生活のことを考えるために「どういうことが好きなのか」「どういうことが嫌いなのか」を考えて、価値観を明確にしていきます。「私ってどういう人なんだろう」と自分のこれまでを振り返っていくことで、自分について知ることができるんです。
自分について知ると、自分の意思を周りの人に伝えることができるようになっていくんですね。「私はこうしたいです」と家族や医療者に伝えることができる。
これは私の経験ですが、患者さんって病院の中で「いい患者」を演じてくださることが多いんです。医療者への遠慮や気遣いから「こうしたい」を伝えずに心に隠してしまう。でも、ACPに取り組んで自分のことを知ることによって、医療者に「私はこういう生き方がしたいんです」と伝えられるようになっていきます。
たとえば「お医者さんは『仕事ばっかりしてたら身体によくない』というけれど、それでも自分は頑張って仕事がしたいんです。」とかね。
それがネガティブなことであっても、自分の意思を伝えることで医療者や家族と知り合うことができるんです。
そうやって医療者や家族と知り合っていくことによって、不本意な状況を避けることできるんです。自分の意思を伝えるから、意向に沿った治療をしてもらえる。すると、後悔が減りますよね。
ACPに取り組んでおらず自分の意向や希望について考えたことがないと、医療者が提示した選択肢から選ぶしかなくなります。そうすると「あれでよかったのかな」とか「こんなふうになっちゃった」と、悲しんだり後悔したりする可能性がすごく高くなってしまうんです。
看取りの満足度が高くなる
また、家族も看取りの満足度が高くなります。本人の判断能力がなくなった場合、治療や介護の方針について家族が代理で意思決定をすることになります。ここであらかじめ本人の意思を伝えておくと、家族がそれをもとに判断できるようになるんです。
実は代理で意思決定をした場合、8割近くの人が「あれでよかったのか」と後悔するという研究結果があるんです。それくらい代理で意思決定をすることは難しいことなんです。
本人があらかじめ意思表明をしておくと家族が代理で意思決定をした時にも「これでよかったのかと思うけれど、あの人はこういってたからね。」と、できるだけのことはやってあげられたという気持ちになることができるんです。
____よくわかります。私も母を看取ったあと「後悔したくない」ってすごく思うんです。病気になったご本人が辛いのはもちろんですが、看取った後に後悔を引きずりたくないなぁって思っています。
そうですね。ACPはネガティブな状況で始まりますし、その過程では悲しいことや辛いこともたくさんあります。でも本人と家族がお互いを知ることは、家族の癒しのきっかけにもなるとも考えています。
家族の癒しのきっかけになる
____癒しのきっかけですか?
たとえば、折り合いの悪いお母さんが病気になったとしますよね。お母さんのことはすごく嫌だと思っていたけれど、ACPでこれまでを振り返っているときに「あなたが生まれたとき、すごく嬉しくて。こんなかわいい子は世界中どこにもいないと思った」とかそういう情報がポロっと出てくることがあるんですね。そしたら「あ、お母さんは私のことをそんな風に思ってくれていたんだ」と家族が癒されることもあるんです。
親や配偶者はあたりまえにいる存在なので、意外にお互いの想いを知り合う機会は少ないんです。
____あたりまえの存在なので、お互いの想いを伝えることに恥ずかしさがあったり、親と離れて暮らしていたりすると、そんなことを話す時間もないですよね。
先ほどおっしゃった「いい患者」を演じるという話。私も母を見ていてそう思うことがありますし、自分自身も「いい患者家族」を演じているなぁと思うことがあります。どうしても病院の方に要望を伝えるのは、迷惑なんじゃないかと思ってしまうんです。
なるほど。では、次回はACPに関わっている医療者がどう思っているのか、お話ししますね。