なんでもレトロと言わないでっ!
お久しぶりの店員日記。じゅんぷうです、こんにちは。
日本唯一のプロマイドのお店で
BGMの有線放送以外でアツくなったり
しみじみしたことをつづるnoteです。
先日、いらっしゃったお客様は
93歳になるというご婦人。
シルバーカーっていうんですか?
荷物を入れるスペースの上に座れるタイプの
シニア向けショッピングカートを
ガラガラと押して
お店の入口の段差をおいしょっと
乗り越えて入店されました。
ほかにお客さんもいなかったので
すぐに応対すると
ほしいスターの名前を書いたというメモを
ごそごそと探し始めました。
ご高齢の方のあるあるですが
このメモがまあなかなか出てこないので
最初におっしゃってた「鶴田浩二」を
お持ちして、その間もずっとごそごそ。
カートの中の奥底のバッグ、
そのたくさんあるポケットの中から
ようやくメモが出てきました。
「昔何十枚も持ってたんだけど、
全部なくなっちゃったのよ」
これもあるある。
わたしも自分で買ったプロマイドは
飾るよりも”しまっとく”派なので
気をつけないとです。
さてご婦人のメモには、
残念ながらお取り扱いのないスターもいましたが
日本だけでなく海外の俳優さんの名前も。
映画がお好きだったんですね。
マルベル堂で販売している昭和スターのプロマイドは
歴代のマルベル堂のカメラマンが撮影したものですが
洋画や海外スターの写真は
われわれスタッフがセレクトしている輸入品。
サイズは六つ切(20cm×25cm)限定です。
販売用やお客様の注文と一緒に
自分で買う用の写真も時々発注します。
わたしには好みの癖があり
好きな昭和スターのプロマイドも
王道のバストアップより
なぜか全身が写っているものにグッとくるし、
海外スターも同じく。
中でも寝そべってる・横たわってるスターが大好物。
今度じゅんぷう寝そべりコレクションも公開します。
ご婦人のメモをもとに商品をお出しして、
佐田啓二さんや田中絹代さんなど
何枚か選んでお買い上げいただきました。
海外のは、マリリン・モンローの全身ショットを
「ステキね、スタイルがよくて」
と言ってたけど今回はパス。
買ったものをしっかりしまうのを見届け
退店まで見守りのため待機。
するとカートにちょこんと座ったまま、
「浅草に来たのは何十年ぶりかしら」
と語り始めたご婦人。
もともとお隣の区に住んでいて
浅草には戦前から遊びに来ていたとか。
昭和20年、東京大空襲で火の海になった浅草。
お隣の区も同様ですが、あの夜、
ご婦人のお宅のほうから
浅草というか隅田川方面に逃げた人たちは
川に飛び込んでほとんど亡くなってしまったけど
ご婦人は反対方向に逃げて助かったのだとか。
いやいや…
何万人もの命が一夜で奪われ
都市が焼き尽くされたと思うと
一概には言えないけど
いま目の前にいる93歳のこのご婦人、
生きていてくれてありがとう。
「あのとき、あなたのお父様の家は
ここの隣りとかだったの?
このへん全部燃えたでしょう。
ここの社長さんたちはどうしてたのかしら」
いえいえわたしは従業員なので違いますし、
社長たち一家は無事でした。しかも勇敢にも
小学校を類焼から守ってくれたレジェンドです。
そんな空襲話をしていると
ご婦人はまたバッグの中をごそごそ。
「これ、わたし」
日本舞踊のポーズを決めた
いまより幾分お若いご婦人のカラー写真。
そしてその裏にはモノクロの写真。
「70年前の写真よ」
こ、これはまるでスターのプロマイド!
ボブカットでミニスカートを穿いて
洋風の椅子に手を添えた全身写真!!
70年前といったら日本映画黄金期。
お写真の中のご婦人も
高峰秀子さんや若尾文子さん、
有馬稲子さんの雰囲気出してます。
いやマリリン・モンロー!?
いまはお腰が曲がっているけど
スタイルがよくって
何よりはつらつとして、とってもモダン。
「女優さんみたいじゃないですか!」
突然テンション爆上がりになった店員に
ご婦人はうふふふと笑って
「きれいに撮ってもらったのよ」
正直、昨今のなんでもレトロ、レトロな
風潮にお疲れ気味だったので、
この本物登場にスカッとしました。
それも生き延びてこそ、ですよね。
あの空襲の夜を乗り越えて
戦争が終わって
混乱をくぐり抜けて
そこに自由があった
そのときの写真なんだと思うとアツい。
こういう瞬間に突然出会えるから、
やめられないんですよ。
マリリン・モンローやアラン・ドロンも
年内に違う写真が入荷しますよと言うと
「また来るわね」
と笑顔で帰っていきました。
ガラガラとカートを押して歩くその向こうに
ご婦人が見ていた浅草を垣間見た気がした
令和の秋のひとときでした。
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