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2016年を振り返って-阿刀田高先生のお言葉とともに

2016年も残すところ、あと1日。

弁護士として8年目が終わり、9年目を迎えている。

今年1年を振り返ると上半期は仕事と留学の準備で忙しすぎてほとんど記憶がない。また、下半期はドイツ留学といっても帰国子女ではない私にとって初の海外生活のため、住居やらビザやら何やらに追われてあっという間に過ぎていったように思う。

そんな2016年を備忘録的に振り返ってみたい。

1.2016年上半期(1月から7月)

まず、弁護士として、基本的であり、仕事上も重視している訴訟・交渉案件は引き続き、幅広い分野で行ったが、とりわけサッカー・野球をはじめとするスポーツ関連分野での訴訟・交渉案件は、上半期大きなウェイトを占めた。

また、今年も著作権、商標、不競法、特許等の知財が絡むもの、絡まないものの契約書、利用規約の作成、修正、交渉は多く取り扱ったが、かねてよりセミナー等で繰り返し提唱している「攻め」と「守り」の知財戦略の構築・実施という領域での仕事が増えてきたのは個人的には嬉しい限りである。

具体的には、①日本を含め全世界を対象とした刑事・民事・税関等のあらゆる手法を用いた海賊版対策の立案・実施②社内体制の強化アドバイス・契約書のひな型見直しを含めたトータルでの著作権・商標を活用した知財「展開」戦略の構築・実施である。この①と②を有機的に結びつけて上手く両輪を回し、ドライブをかけながら、コンテンツ(過去コンテンツも含む)で収益を産み出していく手法に取り組む機会を多く得た。これは社内体制、社内のひな型契約書等々から取り組むプロジェクトで1年、2年というスパンではなく最低3か年はかかる息の長いものであるが、成果を出せるよう今後も、色々と仕掛けていきたい。

そして、法律相談では、新規ビジネスに関する適法性は相変わらず多く頂いている。ダメなものはダメであるが、法がビジネスに追いついているか、法や判例が間違っていないか、そういった観点からもアドバイスをしたり、難しい案件でも、いくつかの代替プランを担当者を議論しながらビジネスを作っていくという面白さは何物にも替え難い。

また、以前よりも知財が絡む事業をコアビジネスとした企業からの上場に向けた知財戦略の構築・実施という仕事も増えてきている。これまでは技術をコアビジネスとして上場を目指すというIPOは多くあったが、最近では、インターネットを主戦場とするベンチャー企業の勢いが戻りつつあるとともに、既存の著作物を活用したうえで、新たな付加価値を生み出していくというビジネスが成熟してきているというのが背景にあるのだろう。こうした企業が上場を目指す場合の上場審査のサポートという仕事が近年、多い。

最後に、文化庁著作権課に出向していたから、というのもあるが、立法政策、ルールメイキングに関するご相談もかなりの数頂いた。霞が関・永田町といっても、各省庁の性格はまったく異なるし、政治家も様々である。ただ、どうやってルールメイキングを実現していくのか、という立法プロセスは、どれも非常に似通っているため、著作権法に限らず、様々な法分野からもご相談を頂いた。

勿論、これらに書いた知財以外の分野の仕事も多く関与させて頂いたが、以上をまとめると、これまでも継続的にやり続けてきた「守り」の知財関連業務である訴訟、交渉、海賊版対策といった案件をやりつつ、「攻め」の知財関連業務であるコンテンツを利用した収益拡大のための社内体制づくりだったり、資金調達であったり、ルールメイキングであったりと、これまで地道に種を蒔いてきた分野での業務が増え、ノウハウが蓄積された1年であったように思う。

これらの仕事を日本にいながら更に継続・発展させていきたいという気持ちはありながらも、このタイミングを逃すと、おそらく海外に行くことはできないであろう、ということもあり、海外からも引き続きサポートは続けつつ、さらなる「攻め」の知財展開戦略をクライアントに提供すべく海外のネットワーク、言語、文化、リーガルシステムを学びにドイツへ行くことにした。

2.2016年下半期(7月から12月)

海外留学のタイミングが弁護士8年目というのは決して早い方ではなく、むしろ遅い方かもしれない。文化庁に出向していたので致し方ないが、自分のクライアントを抱えたまま留学というのは何とも悲しい。ただ、留学中でも、新規のご相談を頂けたり、そういった意味では、人と人のつながりにただただ感謝する毎日である

これはまた、どこか別のところで書こうと思っているが、留学の目的が、おそらく一般的に留学する弁護士とは違う。

そのため、留学して学位を取るということに興味がない。ましてや海外の弁護士資格を取ることにも興味がない。あって損するものでもないと思うが、それにかける時間を別の時間に使いたいだけである。

これは人それぞれの話であり、各弁護士のポリシーに沿って、各弁護士が選べばよいだけの話であって、正解なんてない。海外の学位や海外の資格を否定するものでもないし、逆にないことが否定されるものでもない

結局のところ、クライアントとなりうる人が、海外の学位のある人や海外の資格がある人を選ぶか、それとは関係なく実力やそれ以外の価値で選ぶか、ということに弁護士の場合、尽きるのではないか、と思う(そもそも留学さえ、重要視していないクライアントだってたくさんいるし、留学自体2年間のブランクと考える人だっている。)。

「現在」の弁護士がおかれた状況下における自分が考えるマネージメント戦略、キャリアプラン、自分の生き方において、重要視していないというだけのことである。

そのため、自分が留学で成し遂げたいことを自分が知っている先輩弁護士でやった人はいなく、モデルケースがいないという不安感はあるし、あぁやっぱりアメリカのローススクールのどこかにいってニューヨーク州の弁護士資格でもとっておけばよかった、と後から悔やむ日が来るかもしれないが笑、モデルケースがいないからこそ、そこに面白さがあるといまは思っている。

この留学に関しては、まだまだ総括できるレベルにはないが、Max Planck Instituteという世界中の知財の専門家が集まる場所、そしてドイツを含めヨーロッパ各国で得たネットワーク、情報というのは日本では得られなかったものであるし、帰国子女でもない自分が英語でのプレゼンをする機会を得るなど、少しずつ海外での成果を出していきたいと思っている(年明け早々には、アウグスブルク大学でのシンポジウムに登壇する予定)。

3.おわりに-阿刀田高先生の言葉

以前、阿刀田高先生とお話しする機会があり、その際に色紙を頂いた。

そこには、こんな言葉が書いてあった。

「花は 散るため 咲く」

当時、この言葉の意味がさっぱりわからなかった。つい最近までもよくわからなかったのだが、いつも頭のなかにその言葉があり、意味を考えていた。

阿刀田先生が、どういう意図で、この言葉を書いてくれたのか、今でもその真意はわからないが、最近、自分なりの解釈ができるようになったように思う。

つまり、どのように散るのかは、どのように生きるかであって、生き方を問われていると勝手に解釈しているのだが、この勝手な解釈と「人とのつながりを大事にする」という今年を振り返ったときのテーマがリンクして、こうした生き方の積み重ねが「散り方」につながっていくのだろうなぁと阿刀田先生のお言葉が、いま私にとって非常に意義深いものになっている。

2016年、こうして色々な経験をすることができたのは、まさに人とのつながりのおかげだった。人から紹介していただき、またさらに、その人に紹介していただき、ということで自分一人だけでは到底見えない世界を見て、会えない人に会う機会を得ることができた。

私のために色々な方、機会を紹介してくれた方々にこの場を借りて、改めて感謝申し上げます。この2016年は、まさに人のつながりで生かされていることを強く感じた1年でした。本当に本当にありがとうございました。

こうした方々に早く恩返しができるように2017年も引き続き、「人とのつながりを大事に」フットワーク軽く、貪欲に動いていきたい。

そして、いつか、阿刀田先生に、この言葉の真意を聞きたいと思っている。

                                (了)


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