人はなぜ依存症になるのか(実験編)
人はなぜ依存症に陥るのか?
その謎を解き明かす鍵となる「自己治療仮説」を中心に、依存症の背景にある様々な要因を詳しく解説していきます。
遺伝、脳の仕組み、心の状態、社会環境など、一見バラバラに見えるピースがどのように組み合わさり、依存症という複雑なパズルを形成するのかを探っていきます。
依存症の背景:複雑に絡み合う要因
依存症は、単一の要因で説明できるほど単純なものではありません。
まるで複雑なパズルのピースのように、様々な要因が絡み合って発生します。
遺伝というピース
アルコール依存症になりやすい体質は、遺伝によって受け継がれることがあります。
双子研究では、一卵性双生児の一方がアルコール依存症の場合、もう一方も依存症になる確率が50%に達することが分かっています。
これは、遺伝子が依存症のリスクに大きく関わっていることを示しています。
脳というピース
依存症は、脳の報酬系と呼ばれる部位に深く関わっています。
薬物を使用すると、脳内でドーパミンという快感物質が放出され、それが繰り返されることで脳の構造や機能が変化し、依存症に繋がることがあります。
心というピース
心の痛みや苦しみは、依存症の大きな引き金となります。
うつ病や不安障害を抱えている人は、その症状を和らげようと薬物に頼ってしまうことがあります。
また、幼少期のトラウマやストレスも、依存症のリスクを高める要因となることがあります。
社会環境というピース
貧困や差別、孤独、薬物の入手しやすさといった社会環境も、依存症のリスクを高めます。
一方、裕福で恵まれた環境であっても、依存症から逃れられるとは限りません。
有名人や芸術家の中には、依存症に苦しむ人が少なくありません。
依存症理解のモデル:パズルの全体像を捉える
依存症を理解するためのモデルは、パズルの全体像を捉えるための地図のようなものです。
古い地図である「条件付けモデル」は、薬物を使うことで得られる快感が依存症を引き起こすと説明しますが、人間の複雑な心理を十分に考慮していません。
そこで登場するのが、新しい地図である「修正精神力動モデル」です。
このモデルは、心の奥底に隠された感情や心の傷に焦点を当てます。
依存症に悩む人は、自分の感情をうまく表現できなかったり、自信が持てなかったり、人間関係に問題を抱えていたりすることがあります。
薬物は一時的にこれらの問題から目を背けさせてくれますが、根本的な解決にはなりません。
修正精神力動モデル:心の声に寄り添う
修正精神力動モデルに基づく治療では、患者さんと治療者が対等な立場で、じっくりと心の声を聴くことを大切にします。
まるで、心の迷路を一緒に探検するように、患者さんが抱える苦しみや悩み、依存症になった背景を理解していきます。
実証的研究:感情調節と薬物選択の関係
自己治療仮説は、依存症の発症において「感情調節」が重要な役割を果たしていると主張します。
これは、感情の調節が不十分な人々が、薬物を用いて否定的な感情を和らげようとする行動を示すことを意味します。
感情調節不全と物質使用障害の関係
研究によれば、感情調節不全は物質使用障害の重要な危険因子であることが示されています。
特に青年期においては、否定的な感情(怒り、恐れ、フラストレーションなど)が物質乱用のリスクを高める要因となります。
また、成人の薬物乱用者は、感情の管理に困難を感じている傾向が強いことが確認されています。
具体的な研究事例
抑うつとコカイン依存
コカイン依存症患者における抑うつ症状の存在が確認されています。
研究によれば、抑うつ症状がコカイン依存症のリスクを高めることが示されています。
また、抑うつ状態が薬物使用の再発を引き起こす要因となることも報告されています。ストレスとアルコール依存
ある研究では、ストレスの高い職場環境にあった定年退職者が、退職後に飲酒量が増加する傾向があることが明らかにされています。
これは、ストレスがアルコール依存症の発症に寄与する可能性を示唆しています。感情刺激と薬物渇望
感情的刺激に対する反応が薬物乱用者と健常者の間で異なることが確認されています。
特に薬物乱用者は、感情的な写真を提示された際に、健常者に比べて主観的反応が乏しいことが示されています。
まとめ:依存症からの回復に向けて
依存症は、生物学的、心理的、社会的な要因が複雑に絡み合って生まれる多面的な問題です。
しかし、パズルのピースがどのように組み合わさっているのかを理解することで、依存症の根本的な解決に近づくことができます。
修正精神力動モデルは、心の声に寄り添い、依存症からの回復をサポートする新たな道を切り開く可能性を秘めています。
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