人はなぜ依存症になるのか(物質依存の種類)
自己治療仮説の誕生:苦痛からの解放を求めて
臨床現場から、薬物依存症患者が抱える耐え難いほどの心理的苦痛があることが多くあることがわかり、薬物使用がその苦痛を一時的に麻痺させる
「自己治療」の手段として用いられているのではないか、という仮説が立てられました。
多くのヘロイン使用者が「ヘロインを使うと、普通であると感じ、気分が落ち着き、怒りを消してくれた」と語るのを聞き、薬物が心理的苦痛、特に怒りの感情を鎮静させる効果を持つ可能性を強く示唆しました。
自己治療仮説の深化:なぜ物質使用障害になるのか?
自己治療仮説は、以下の2つの重要な点を強調しています:
物質使用は心理的苦痛を緩和するために行われる
個人が選択する薬物は、その苦痛の種類によって異なる
依存症に陥りやすい人々
日常的な感情的苦痛の強さ、自尊心の低さ、人間関係の葛藤、セルフケアの欠如など、これらの要因が複雑に絡み合い、セルフコントロールが困難な状態に陥りやすいのです。
苦痛の種類と薬物選択
オピオイド(ヘロイン、モルヒネ、オキシコドンなど):
激しい怒りや焦燥感を鎮静
PTSDや双極性障害の患者に好まれる傾向
中枢抑制薬(アルコール、ベンゾジアゼピン系薬物):
不安や緊張を和らげる
不安障害を持つ人に好まれる傾向
中枢刺激薬(コカイン、アンフェタミン):
気分を高揚させ、無気力や抑うつ感を軽減
うつ病の患者に好まれる傾向
薬物選択のメカニズム:苦痛と薬理作用のマッチング
個人が特定の薬物を選ぶ背景には、その薬物が少なくとも短期的には耐え難い苦痛を和らげる効果があるという事実があります。
事例
PTSDと双極性障害に苦しむ元スポーツ選手:ヘロインで怒りが鎮まり、穏やかに
不安を抱えるエンジニア:アルコールでリラックスし、普段できないことができるように
自信のなさや不信感に悩むビジネスマン:コカインで自信を取り戻し、魅力的に
依存性物質と脳:快楽と苦痛のメカニズム
依存性物質は脳内の報酬系に作用し、快感や多幸感をもたらします。
しかし、その快感の裏には、強い感情的苦悩が存在し、それを一時的にでも解消しようとする自己治療の側面があることを忘れてはなりません。
まとめ:依存症治療への示唆
依存症は、生物学的、心理学的、社会的な要因が複雑に絡み合った結果生じる深刻な問題です。
自己治療仮説は、依存症の根底にある苦痛に焦点を当て、個々の薬物選択の背景にある心理的メカニズムを解明する上で重要な視点を提供しています。