『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』(感想)
2023年5月14日(日)
TOHOシネマズ シャンテで、『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』。
くらった。かなりくらった。
ジェームズ・グレイ監督が個人的な経験を脚本に反映させたという自伝的作品。大御所監督による自伝的な映画がこの数年続いているが、未来に対する少年の眼差しと映画の後味は、スピルバーグの自伝的作品『フェイブルマンズ』と対照的。セリフにもあるが「人生は不公平」すぎて、純粋な少年にはあまりに過酷だ。「ほろ苦い」どころじゃなく、自分は息が詰まるくらい苦しくなった。そして「悔しい」という思いがきた。
トリュフォーじゃないが、まさしく「大人は判ってくれない」。がしかし、配管工の父の尋常じゃない劣等感もまた別の意味で「大人は判ってくれない」状態からきたのだと考えると、社会の歪さと難しさを思わずにいられない。
主人公ポールが転校した私立学校の有力な支援者としてフレッド・トランプ(ドナルド・トランプの父親)が登場する。またその娘のマリアン(ドナルドの姉)も。フレッドの態度や、生徒たちにエリートとして成功するための教えを説くマリアンのスピーチは、まさにドナルド・トランプの考え方にそのまま繋がっていて、この物語から数十年後のアメリカのありようの始まりをイメージさせる。レーガン政権が誕生し、アメリカという国の倫理観が変わっていく、そういう時代を多感なポール=グレイ少年は生きて、世の中がどんなにか不公平であることを知っていったわけだ。
タイトルの「アルマゲドン・タイム」はクラッシュの「ロンドン・コーリング」のB面曲からくるもので、元曲はウィリー・ウィリアムスだが、僕もクラッシュのバージョンを昔聴いていた。「多くの者が食べるものもなくただ傷つけられる この世界での戦いは激しくなっている」「まともに扱われないものたちは戦いを始めるしかない」と歌われるその曲は、映画本編でも流れる。グレイ監督はインタビューのなかでこう答えている。
人種差別、格差社会。それに対して「戦いを始めるしかない」と歌われるクラッシュの「アルマゲドン・タイム」を象徴的に使った本作を、あるところは黒人生徒ジョニーの目線で観ていて、アメリカとイギリスの違いはあれども去年観たフランコ・ロッソ監督の『バビロン』と接続するところもあるように僕は感じた(あれも1980年前後の話)。
といったところに胸が苦しくてクソッという感情がきつつも、しかしおじいちゃん(アンソニー・ホプキンス)とのシーンに救われてあたたかな気持ちにもなる豊かな作品。傑作だと思います。