FUJI ROCK FESTIVAL'19 (28日)
フジロック振り返り。7月28日(日)
「こりゃ、明日中止になる可能性もあるよね?」。前夜、宿でそんな話をしたのが嘘のように、起きたら雨はやんでいて、ピーカンとまではいかないまでもいい天気。台風一過。単純なもので気持ちも前夜とは大違い。やったー。よかった。いえーい。
とはいえカラダはだいぶ疲れていたので、ゆっくりめの行動。まず前日に続いて宿の近くのピラミッドガーデンで、Yama a.k.a.sahibのDJ聴きながら珈琲&トースト。宿に戻って温泉につかってから改めてぼちぼち出動し、14時半頃会場へ。グリーンのあたり、水溜まりだらけで酷い状態になっているだろうと思いきや、それほどでもなく、意外にも歩きやすい状態だった。いつもと違うのは川の水量が多く流れが激しかったことと、グリーンからホワイトに抜ける下の道が閉鎖されていたことくらい。この日だけ来た人は、前夜がどれほど荒れた天候だったか想像がつかないだろう。
この日観たのは以下の通り。
ハイエイタス・カイヨーテ(15分程度)→PHONY PPL→Superfly→KOHH→ブルーズザブッチャー+うつみようこ→ヴィンス・ステイプルス(10分程度)→クルアンビン→ジェイムス・ブレイク(30分程度)→ザ・キュアー(2曲)→ナイト・テンポ→コメット・イズ・カミング→揺らぎ→ヴォードゥー・ゲーム。約12時間。
ハイエイタス・カイヨーテ。昨年ネイパームが癌であることを公表したので心配したものだが、完全復活ということなのか、誰にもそんなことがあったと感じさせないぶっとんだ衣装で元気に明るく登場した彼女の姿を観て、ああよかったよかったと。ただまあこのバンドはこれまで何度も観てるし去年もタイコクラブで観たばかりだったので、15分くらい観てルーキーの入り口あたりに出てた「台湾佐記麺線」にて味噌味のそーめんを。これが美味しかった。西新宿にお店があるそうなので今度行ってみよう。
PHONY PPL。音源の印象とは大きく異なり、明るく盛り上げまくりのザッツ・ライブバンド! あまりに音の印象が違うのでびっくりした。もっと地味め~クールめかと思ってたら、熱いし派手だし煽り上手だし。観ないとわからんもんですね。しかも演奏上手すぎ。全員バカテク。ヴォーカルのエルビーの声が僕はちょっと軽いかなと思っちゃったんだけど、これに関しては好みの問題ですからね。とにかくこんなにもエンターテインメント性を重視した現在進行形のライブバンドだったとは知らなかったので気持ちあがりまくり。バウンシーななかにいい具合にメロウなソウル感覚が混ざりこむあたりもよし。彼らをこの日のベストアクトに選んでた人が多いことにも納得ね。
Superfly。2010年以来、9年ぶり2回目のフジロック出演。第一弾発表でその名前を確認した際、部屋でひとり「うおおおおっ」と声をあげたのは言うまでもない。2019年のいま、Superflyがフジロックの出演者の一組に選ばれたことの意味。それを思い、発表された段階でもう僕は胸が熱くなったものだ。いまのSuperflyがフジロッカーたちにどのように迎えられるのだろう? 彼女はフジロッカーたちをどんな選曲で驚かせるだろう? それを自分なりにいろいろ想像しながらこのときを待っていた。期待は膨らみに膨らんでいた。思えば9年前は金曜日の初っ端だった。あの光景はもちろんよく覚えている。忘れるわけがない。そして今回は最終日の夕方。同じグリーンステージ。志帆ちゃんは9年ぶりにそこに帰ってこれたことを本当に嬉しく思っているようで、それが言葉と表情に表れていた。初めからずっと笑顔だった。もちろん作られた笑顔じゃなく、喜びが溢れ出てどうしようもなく笑顔になってしまうというふうだった。バンドはホーンセクション入り(因みにキーボードはSuperflyバンド初参加の山本健太くんだった!)。厚みのある音に乗せて彼女は持てる力をのびのびと発揮し、そこに爽やかな風を吹かせていた。
だがしかし。正直に書くが、僕にとってあのセットリストは満足のいくものではなかった。保守的すぎるのではないかと思った。いや、ロック曲だけでゴリゴリに行ってほしかったというわけではない。ないが、やはり多少なりともフジロックのライブであることを意識した特別なセットリスト、または遊びのあるセットリストになるだろうことを僕は期待していた。歌われたのは全てシングルリリース曲だった。それは捉え方によってはひとつの思い切りである。邦楽フェスならそれも効果ありだっただろう。今年の夏フェスでは先に大阪の「MEET THE WORLD BEAT 2019」に出演しているが、そこにはあのセットリストがよく映えただろうと想像できる。だが、フジロックの観客を驚かせたり昂らせたり感心させたりするのに、あれが最適のセットリストだとは思えない。例えば「Gifts」「輝く月のように」「愛をこめて花束を」と10曲中3曲がバラードだったが、果たして3曲も必要だっただろうか。必要だと考えるのなら、例えば1曲は9年前に同じ場所で(そのときだけ)歌われたキャロル・キングの「ナチュラル・ウーマン」にしたら特別感があったのではないか。「Gifts」では歌詞がスクリーンに流れたが、それは果たしてあの場で効果を発揮するものだっただろうか。「Beautiful」と「Ambitious」、10曲のなかで似たタイプの曲を2曲やる必要があっただろうか。これらはあとから思ったことではなく、観ながら思ったことだ。実際バラードが続いたところで離脱していった人もいた。そんななかで、ジャジーながらスリルもある「Fall」と、ブルーズにアレンジされた「マニフェスト」の2曲は大いに効果を発揮したと思う。どちらも”こういう曲もこんなに歌えるんだ”と初観の観客たちを驚かせていたし、楽曲と歌唱の幅を印象づけることにも繋がっていた。巻き込む力も新鮮味もあった。とりわけ「マニフェスト」ブルーズバージョンの圧倒的な歌唱表現は自分の近くで観ていた人たちに「すげえ~」と言わせていた。そういう驚きをもっと与えてほしかった。フジロッカーたちがまず求めているもの、欲しているものは、端的に言うなら第一にグルーブだ。そしてSuperflyにもグルーブを持った曲、初めて観る人たちでも踊りだしたくなるような曲はちゃんとある。例えば「You You」。ああいう曲をもってきたら踊り出す人もいただろう。あるいは例えば新曲の「覚醒」をあそこで初披露することができたなら、現在進行形のロックも血肉にできていることをわからせることができただろうし、耳のこえたフジロッカーたちを大きく驚かせたことだろう。そのように、初めて観るひと、たまたま観たひとたちを動かす何か、巻き込む何かがほしかった。そこに焦点を絞ったセットリストを考えてほしかった。それともうひとつ。曲が終わって次の曲に移る際の間(ま)がどれもやけに長かったのはなぜなのか。通常のライブならさほど気にならないが、先にも書いた通りフジロックの観客たちはそこにグルーブがあることを重視するので、曲間をあけずどんどん次の曲を繰り出す感じにもっていかないとダメなのだ。それも含め、せっかくのフジロックの舞台なのに勿体ないなと僕は思った。フジロックならではの、フジロックだからこそのライブを観たかった。フジロックとSuperfly、どちらにも思い入れがありすぎるゆえ、ここは正直に思いを書いてみた。
KOHH。過去に3~4回観てきたKOHHのライブのなかで、間違いなくこれがベストと言えるものだった。KOHHもまた2度目のフジロック出演だが、前回からの進化の度合いがハンパなかった。演出も気迫もこれまでのライブとは別物。真鍋大度のライゾマティクスが映像演出を手掛け、「薬物の曲を…」と言って始まれば映像もまさにラリったようなサイケがかったものに。配信ではそのように映像演出された状態のものを見せ、現場ではその場でそれをしているカメラごと見せる(つまり配信されてるものとは別のものを見せる)という手の込みようだ。フジロックという特別な場所で何をどう見せるのか、そこに集まった自分のファン以外の人たちをどう驚かせるか、そこに誠心誠意もってあたった圧倒的なパフォーマンス。KOHHはフジロックだからこそのものすごいライブを見せてくれた。
ブルーズザブッチャー+うつみようこ。前にフジで観たときは苗場食堂で、今回はアヴァロン。ステージの広さ分だけグルーブもすごいことになっていた。それに反応して我慢できなくなり、中盤から前のほうに動くひとも数人。初めは後方で観ていた僕もそのひとりで、座って観てるなんてできなくなって前へ動いて踊りまくった。KOTEZさんの吹奏ぶりはホントにかっこいい。最高だった。
クルアンビン。ヘブンにぴったりの音。だけど自分、電池切れ。後方で座ってぼんやり音だけ聴いた。次回、改めて。
ジェイムス・ブレイク。クアトロの初来日公演や初のフジ公演(ホワイト)の感動は未だ忘れられないが、その頃に比べるとそこまで入り込めなかったのは、自分の気持ちの問題なのか新鮮味が失われたからなのかなんなのか……。とはいえ3人だけであの音を出せるのはとてつもない話で、わけてもドラムがすごかった。けど動かず立って観ているのが辛くなって30分ほどで離脱。楽しくはしゃげそうなナイト・テンポを観たくなってレッドへ移動。
ナイト・テンポ。楽しすぎた。ヨメとふたりで笑いながらノリまくった。今年のフジロック全ステージで、客の一体感は間違いなくこれが第一位。まさかフジロックのそこそこ遅い時間に、Wink「淋しい熱帯魚」や渡辺美里「My Revolution」や杏里「悲しみがとまらない」であんなにひゃーひゃー言って踊りまくることになるとは思わなかった。「ザ・ベストテン」オマージュの締め方までパーフェクト! 新しい扉を開いてしまった感。シーアとは別の意味で今年のフジの最大の衝撃。素晴らしいね、ナイト・テンポ。それに、こういうのもありにするフジロックの懐の深さも。
ザ・コメット・イズ・カミング。今年楽しみにしてたひとつだけど、凄すぎてぶっとんだ。これまた衝撃。PHONY PPL同様、音源とは別次元の(音源の100倍凄い)ライブトリオ。シンセ、ドラム、サックスが一見それぞれ好き勝手に大暴れしてるようでいて高度な次元で絡み合っていくその超絶技巧に口あんぐり。テクノもEDMもジャズもコズミック的なそれもガバッと飲み込んでそれらを上回る民族的な音にして、こう、祭りだわっしょい的な爆発力の持続性でもって……ってちょっと何書いてるか自分でもわかんないけど、とにかく背景の映像効果含めて何から何まで変態的で超絶かっこよかった。クルアンビン~ジェイムス・ブレイクあたりで一回電池切れになって足が痛くてヘタってた自分が嘘のように、ユンケル10本一気飲みした感じでよみがえりました。すんごい体験。優勝!
揺らぎ。今年のフジはシューゲイザーのバンドが見当たらないねーってな話をたまたま昼間にしてたんだが、ここにいた。シューゲイザーやる感じに見えない子たちがシューゲイザーぽくない曲をシューゲイザーで鳴らしてる感じがセンスよくてかっこよくて好きだわ。
ヴォードゥー・ゲーム。ほんとはもう一回レッドに戻ってクオンティックとブラック・ボボイと卓球まで観たいと思ってたんだが、長靴はいてきたためさすがに足が限界に達して戻れなくなり、最後はクリスタルテントで締めようとなかに入って観たのがこの陽気なアフロファンクバンド。深夜のパレスにこういうのきたら、そりゃあ盛り上がりますって。日本人女性ナンパして腰やお尻に手ぇ回して踊ってる外国人男性も目の前に数人。それ含めて全員が躍る阿呆状態。やっぱりフジは深夜が最高だ。
ふらふらと帰り、3時近くに宿へ。ベストアクトはザ・コメット・イズ・カミング。
というわけで、過酷な一日がありながらも、やっぱり楽しかったフジロック。そういえば今年はオレンジカフェにもカフェドパリにも木道亭にも苗場食堂にも一度も行かなかった。また、かつてはヘブンとか(いまは無き)オレンジコートとかあっち方面の滞在時間が長かった自分だけど、今年は以前なら最もいる時間が少なかったレッドマーキーで観たアクトが一番多かった。それ、レッドマーキー出演者の傾向が以前とは変わってきたというか、幅が広がったことによるものか(以前はUKとかの新進ロックバンドが多かったけど、いまはそういうのほとんどないもんね)。
で、そうやってレッドマーキーにいる時間が多かったことで気になったのは、やはり椅子の放置と、ライブ観ないでただ座ってるだけのひとの多さ。「世界一クリーンで、客のマナーがいいフェス」とかつては言われてたフジもここ数年ずいぶんマナーの悪いお客さんが増えたなぁという印象あったけど、今年のレッドは本当に酷かった。このことに関しては小野島大さんがnote.に書いてくださってるので、みんな読んで広めましょう。
前夜祭含めた4日間で特によかった&印象に残ったアクトは、25日の亜無亜危異、26日の七尾旅人、ジャネール・モネイ、チャラン・ポ・ランタン、27日のケイク、シーア、ゆうらん船、28日のKOHH、ブルーズザブッチャー、ナイト・テンポ、コメット・イズ・カミングあたり。初めて観て衝撃を受けたという意味では、シーア、ゆうらん船、君島大空、ナイト・テンポ、コメット・イズ・カミング。通してのベストアクトは……ジャネール・モネイと言いたいところだけど、衝撃度の強さでコメット・イズ・カミングですかね。
来年は8月!