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『パリ13区』

2022年5月5日(木・祝)

吉祥寺アップリンクで『パリ13区』。

コールセンターで働くエミリーと、高校教師を休職したカミーユ、32歳でボルドーからパリに来て大学に復学したノラの3人を中心に描いた、再開発地区での群像劇。

久しぶりにフランス映画らしいフランス映画を観たという感触。70・80年代によく観たあの頃のフランス映画っぽさを持ちつつ、でもニューウェイブなタッチ、「今」としか言いようのない感触も大いにあった。どこに向かって進むのか先の読めなさがありながらも惹きつけられ、最終的にはこれ以上ないという清々しいエンディング。思い返せば印象的なシーンがいくつも浮かんでくる(終わってから、一緒に観た妻とそれを言い合いながら中華を食べた)。

エミリーは台湾系フランス人で、カミーユはアフリカ系フランス人。パリ最大級の中華街があってアジア系移民も多い13区はカルチャーミックスの街で、そこが舞台であるからこその物語になっている。が、SNSでの誹謗中傷、いじめ、マッチングアプリ、同性愛、認知症介護問題などが日常に絡み、孤独を抱えながらもそれを表に出さないよう生きていく、その葛藤というか生き辛さみたいなものはまさしく2020年代の世界の共通項で、ここに限った話じゃない。作品のテーマとも言える「他者を理解することの難しさ」みたいなものはついこの前観た大傑作『カモン カモン』にも通じているところで(モノクロにする必然性も近いところがある)、そこにも「今」を感じた。

「つながるのは簡単なのに 愛し合うのはむずかしい」。この映画のキャッチコピーだが、まさにそういうこと。ここでの「つながる」はダブルミーニングですね。セックスと、SNS的つながりと。

因みに、観た人の感想をSNSでバーっと見てみたら、「すごい好き」と「好きじゃない。わからん」とにけっこう賛否分かれていて。どうやら「否」の人たちの理由は、セックス描写にあるみたい。その描写の仕方自体が生理的にダメという人もいるようだし、すぐセックスという行動原理自体に共感できない人もいるようだ。孤独を埋めるためのセックスを理解できない人には、そりゃ意味不明だろうし好きにもなれんだろうなと思ったり。

そういう意味でエミリーに共感できる人とできない人がいるようだが、自分的には彼女の気持ちの動きにやられた。奔放で言いたいこと言って繊細で傷つきやすくて正直で。厄介なことこの上ないんだけど、こういう女性にどうしようもなく惹かれる自分がいるのを僕は知っている。演じるのは新人のルーシー・チャンで、「パリ育ちの女の子でバイリンガルの中国人を探している」ことを知って経歴書を送り、キャスティング・ディレクターとの面接を受けた後、ジャック・オディアール監督のワークショップを経て選ばれたそうな。いや、彼女がめちゃめちゃいいんですよ(ちょい、昔の二階堂ふみ似)。動きと物憂げな表情に加え、ジーンズのはきこなしもすごいかっこよくてね。

それにしても、ジャック・オディアール監督は70歳にして感度がすごいと唸らされる。が、本作は40代のセリーヌ・シアマと30代のレア・ミシウスというふたりの若い女性と脚本を共同執筆していて、そのケミストリーもよかったようだ。こういう(大御所男性監督と若い女性脚本家みたいな)組み合わせって今の時代に合ってるし、これからすごく増えそうですね。


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