CHABO BAND@EX THEATER ROPPONGI
2023年10月15日(日)
EX THEATER ROPPONGIで、CHABO BAND。
ホームとも言える南青山MANDALAでのライブや有楽町での泉谷とふたりのライブはあったが、有観客での大きめのチャボのライブはずいぶん久しぶり。CHABO BANDとしては4年振りだと言っていた。そうか、そんなに経つのか…。
ステージ上にまだ登場しない状態での始まりは「ガルシアの風」の詞読みだった。パンデミックの深刻だった時期がひとまず過ぎ、「僕らはみんな自由の服に着替えて」そこにきている…ように思えた。そしてこの箇所にさしかかりチャボの声のトーンが意志を明確に表わす。「僕らは盗まれた星たちを 取り返しに行く」。そうだ、チャボは今夜、コロナの時間に盗まれたものを取り返しにここにきたのだと、そう思った。大きく鳴らす音楽を。ロックンロールを。バンドサウンドを。バンドで奏でる喜びを。
初めてナマで聴くいくつかの新しめの曲からも、すぐにはその曲だとわからなかったくらいに大きくアレンジされた昔の曲からも、全体の構成(選曲)からも、チャボの言葉の節々からも、今現在のチャボのモード、気分、考え方といったものが強く伝わってきた。ざっくり言ってしまうと、それは「暗」より「明」に寄ったものだった。たいへんなことばかりが起きている。世界は混沌としている。それについてはチャボも口にした。ノンポリのオレでもニュースを見ながらいろいろ考えてしまうとも。けれど、悲嘆や諦念や怒りを歌にするよりも、音楽は楽しく行きたい。明るい音楽で乗り越えて進みたい。このバンドで鳴らすロックは希望の方向でありたい。その前提に立ってここにいるのだなと思った。「打破」とか「BGM」とか、あるいは古井戸の「四季の詩」だとか。暗さや重さのよかった曲がずいぶん軽やかなアレンジに変わって演奏され、正直に言えばやっぱりオリジナルの特別な味わいがなくなったことに抵抗を覚えたところもあったにはあったのだが、しかし昔書いた詞を今の自分の解釈で捉え直し、曲自体をアップデートさせるのだというチャボの意思も同時に強く感じ、その思いを踏まえて聴こうと思い直すと、また自分のなかへの入ってき方も変わったのだった。
始まりから終わりまで、ザ・バンドに対しての敬愛と思いがいろんな場面に溢れていた。始まり方……つまり照明が落ちてしばらく曲だけがかかっていたところで僕は「ラストワルツ」をイメージしていた。そしてメンバーとチャボが登場してライブが始まり、やがて背景にピンク色の家が大きく映されたときに、ああ、ザ・バンドがこのライブの裏テーマなんだなとはっきりした。それから何曲か演奏されたあと、チャボ自身が背景の絵を振り返って「いつもなんとなくテーマがあるんだけど…」と話を始め、今回はザ・バンドのビッグ・ピンクが……と説明した。「MUSIC FROM CHABO BAND」というライブ・タイトルも『MUSIC FROM BIG PINK』から付けたと聞き、ああ、そっか、裏テーマどころかそれははっきりと今回の表テーマだったんだと気づいた。チャボ自身が話したビック・ピンクへの思い……昔、清志郎と、自分たちもこんな場所を持って音楽がしたいと話したこととか、清志郎と一緒にそこを訪れたかったといった話は、僕は『CHABO』が出たときのインタビューで聞いていたけど、改めて今回のライブでビッグ・ピンクへの思いの強さを感じ、だから「「僕等のBIG PINK」で…」にしみじみ感じ入った。ザ・バンドの「トワイライト」に日本語詞をつけてのカバーも演奏され、それもよかった。それから終盤に演奏された新しい曲…タイトルはジョージに借りて「サムシング」だと言っていたが、それのアレンジはほとんど「オフェリア」だった。このようにいろんな箇所でザ・バンドへの敬愛が表れ、最後の最後にはロビー・ロバートソン、リヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン、リック・ダンコ、リチャード・マニエルと、メンバーの名前を呼ぶことまでした。解散はとっくにしていたが、ロビーが世を去って本当に自分のなかの何か大きなひとつが終わってしまったのだという、その感情がこのライブをこういうものにしたのだろう、きっと。
あなたにとってのロックンロールとは?と昔インタビューで聞かれることがあって、その頃は「社会へのパスポート」と答えていたけど、今はまたちょっと違って、「命の恩人」だと思っている。チャボはそう言った。また「ロックンロールは食事のあとに30分聴けばいいってもんじゃないんだ」と誰かが書いていたけど、自分もほんとにそう思うんだ、とも。このライブに限ったことではないけれど、とりわけこの夜は、そのロックンロールに対する恩返しのようなライブに感じられた。
バラード曲でのDr.kyOnの鍵盤がとりわけあたたかくて素晴らしかった。ああ、CHABO BANDは最高の演奏をするバンドだなと改めて強く思った。10代や20代や30代のときの4年と今の4年は全然違う。チャボもそう言っていたくらいだし、「またやりたい」と何度か実感をもってつぶやいてもいた。うん。そうだよ。なるべく早く「次」を見たいよ。
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