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ASOUND@渋谷クラブクアトロ

2023年9月15日(金)

渋谷クラブクアトロで、ASOUND。
EP「オリジナル」 リリース・ワンマン・ライブ。

ヴォーカル&トロンボーンのARIWAを僕が初めて観たのは、2019年2月20日。吉祥寺STAR PINES CAFEでのKODAMA AND THE DUB STATION BANDのライブ(七尾旅人との2マン)だった。そのときの印象を、僕はnoteにこう書いている。

「こだまさんの横でトロンボーンを吹いている若い女性がいて、かわいらしくて純粋そうなひとだなと思って観てたら、なんとZELDA~サヨコオトナラのサヨコさんの娘さんとのことでびっくり」

その後ARIWAさんはアメリカ~ジャマイカに留学するにあたってTHE DUB STATION BANDを脱退……したのかと思っていたら、どうやら一時的に抜けていただけで今もまだメンバーのようだが……とにかく3ヵ月ほど留学し、帰国してから今のメンバーたちと知り合って、好きな音楽(主にルーツレゲエ)が共通していたことから意気投合。そうしてASOUNDを結成したそうだ。そのあたりのことは、このインタビューにも書かれてある。

ASOUNDのことは、まず2021年のEP『Feel It』、なかでも「Moni Moni」を聴いて好きになった。ルーツレゲエのゆったりした曲調ながら、”惑わされるな 転がされるな”という歌詞が耳に残り、単に”気持ちいいからレゲエが好き”みたいなこととは違う、言うべきことをちゃんと言う芯の太さみたいなものを感じたからだ。“惑わされるな 転がされるな”。それはパンデミック発生以降の政府のコロコロ変わる対応に対する僕たちの気持ちを言い表してくれているようでもあり、僕はひとりでよくそのフレーズを口ずさんでいた。

「結成して初めてのライブが1回目の緊急事態宣言の日だった」とのことで、しばらくは無観客ライブを続けていた、そんなASOUNDのライブを自分が初めて観ることができたのは昨年のフジロック。金曜日の早い時間帯のアヴァロンだった。ステージの下に並んだ向日葵がよく似合う、太陽のようなARIWAの明るさとヴォーカルも印象的だったが、男性メンバー3人の演奏力にも唸らされた。そのときドラムのManaw(OKIさんの息子さんだそうだ)はまだ18歳と知って驚きもしたものだ。

東京でもタイミングがあえばライブを観たいと思いながらも、なかなか観に行けないまま1年が過ぎてしまったが、クアトロでワンマンをやるというのですぐにチケットを買った。それが9月15日のEP「オリジナル」リリース記念ワンマンで、もうクアトロでワンマンがやれるのか、人はどのくらい集まるんだろう……と思いながら会場に入ると、しっかり満杯。若い子たちでいっぱいだった。

ポジティブ・バイブレーションという言葉があるが、ARIWAとバンドが放っているのはまさにそれ。ポジティブで、ピースフルで、嫌なことなど全部忘れさせる力を持った歌と音が放たれていた。あんなにもハッピーなバイブスに満ち満ちたライブはそうそうない。主にそれはARIWAの人柄が作り出しているもので、もちろん音楽性やリズムの強靭さ、グルーブの素晴らしさもだけど、まずはそういう彼女の人柄からASOUNDを好きになる人は多いだろうなと強く感じた。何しろ笑顔がチャーミングで、幸せそうで(序盤から、こんな日を迎えることができて泣きそうと話してもいた)、見ている人みんなをあたたかな気持ちにさせるのだ。

ライブは2部制。1部のわりと序盤から「NATURE」をやって、そこではARIWAの導きからシンガロングが起きて、早くも一体感が生まれていた。

で、1部からゲストでベテランのギタリスト/コンポーザー/アレンジャーのNODATIN(ノダチン)と、ラッパーの鎮座DOPENESSが参加。NODATINは2曲、軽やかながらも滋味深いギターで控えめにバンドを盛り立て、鎮座はこの日リリースされたASOWNDのニューシングル「Meditation」でラップしつつ、フリースタイルでASOWNDとの出会いのエピソードやリスペクトの念を伝えもした。さすがだったな。

ワンマンともなればバンドの音楽性の幅も感じ取れ、ルーツレゲエ、ラヴァーズロック、ダブに加えて、ジャズソウル的なインスト曲のモダンなアプローチからもセンスのよさが伝わってきた。が、ARIWAの個性と魅力がもっとも大きく出るのはやはりラヴァーズロック調の曲であるなと感じた。2部のあとのアンコールでジャネット・ケイがカヴァー・ヒットさせた「Lovin' You」を歌ったりもしていたが、それなど、まさに。僕は日本のレゲエシーンのことはよくわからないが(90年代の終わりから00年代初頭にかけてMOOMINとPUSHIMの取材を何度かしたことがあったが、それくらいだ)、これまでラヴァーズロックをいい塩梅に歌える女性歌手はそんなにいなかった気がしていて(自分が知らないだけかもしれないけれど)、だからARIWAのような存在は貴重だし、その登場は僕たちが長く待ち望んでいたもののようにも感じられる。

しかも昔のまんまのラヴァーズではなく、他ジャンルも取り込んでモダナイズすることをナチュラルにやれているバンドだよなぁと、例えばたゆたうような気持ちよさのある「Meditation feat. 鎮座DOPENESS」なんかを聴いていて、そう思った。

2部の終盤ではもうひとりゲストが呼びこまれた。ARIWAの母親であるサヨコだ。ARIWAがサヨコさんの娘さんだと知ったときからいつか親子共演を観てみたいものだと思ってはいたが、こんなに早く叶うとは!   ふたりは「SUKIYAKI」こと「上を向いて歩こう」をデュエットしたのだが、これが自分的にはこの夜のハイライト。僕はZELDAが好きでよくライブを観に行った世代なので、これには胸が熱くなった。因みに終わって帰るときに出口付近にいた男の子が「ARIWAの母ちゃん、やばかったな。すげぇ歌うまいのな」と友達に言っていて、それもなんだか嬉しかった。

初のクアトロ・ワンマンが満杯になり、そこには若いレゲエ好きがたくさん集まっていて、みんながASOUNDを応援しながら盛り上がり、曲によってはシンガロングしている、その一体感にもグッときた。が、その様子に誰よりもグッときているようだったのがARIWAだった。

あとあと、ASOUNDの初クアトロ・ワンマン観たぜと自慢できる日がきそうな、そんなライブだった。

ARIWAは、ASOUNDは、希望そのものだ。




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