『バーナデット　ママは行方不明』(感想)

2023年9月26日(火)

吉祥寺アップリンクで『バーナデット　ママは行方不明』。

邦題はいかにもコメディ的でどういう話かよくわからないし、トレーラーを見たときもたいしてピンとこなかった。が、監督・脚本が(『6才のボクが、大人になるまで。』や『スクール・オブ・ロック』の)リチャード・リンクレイターで、主演がケイト・ブランシェットなのだから間違いないはず。と、そこに賭けて観に行った。

結果、大当たり。序盤こそ「なんの話なんだ? これ」と入りきれずに観ていたのだが、ケイト演じる破天荒で他人が苦手なバーナデットが実は……というのが明かされだすあたりからグルーブが出てきてグッと引き込まれ、結局僕はかなり胸を揺さぶられてしまった。いやぁ、いい映画じゃないですか。相当、好き。

バーナデットは仕事をやめ子育てに専念してずいぶん経つが、実は若い頃に名をはせた天才建築家。マイクロソフト社で厚遇される夫、親友みたいに気の合う娘がいるが、人付き合いが苦手でご近所との折り合いが悪く、何事も自分ペースで、だいぶ社会不適合だ。で、話は彼女のある種の自分探しみたいなところで展開していくのだけど。これね、この作品では天才故の社会不適合みたいな感じで、ちょっとだけ特殊な人物像っぽく描かれているのだが、実はもっと普遍的というか、仕事や才能に関係なくこの女性に共感する主婦/母親が世の中にたくさんいると思うんですよ。いや、主婦じゃなくとも、本当は自分の好きなこと・得意なことをやり続けたいんだけど、何かしらの環境の変化とか家族への気遣いとかでやれなくなって日々悶々としながら暮らしている、っていう人はたくさんいて。そういう人たちの背中を、バーナデットは、この映画は、ポンと押してくれるような優しさがあるんですね。で、じゃあ女性(に限って)の背中を押す映画かというと、それだけでなく。男性の僕も、やっぱり本当に好きなことをやるって大事だな、どんな状況であっても大切な人とちゃんと向き合うことって大事だなと、改めて実感した。そういったメッセージを押し付けることなく、ほどよい湯加減で伝えてくるのがいいなぁと。

で、やっぱりケイト・ブランシェットの素敵さが光ってましたね。大袈裟な演技をせず、ちょっとした表情の動きとか長い手足の動きで感情の揺れを伝えてくる。基本の動きが優美であるだけに、破天荒さやかわいらしさがギャップとして浮き立ってもくるという。その感じ。

また、唯一無二の芸術家でありながら、というかあるが故に、けむたがられ、はじかれて……みたいなところは『ター/TAR』と表裏一体でもあるわけだけど、あっちはああで、こっちではこうというふうに演じているのもさすが。ブレがない。

作品的には、例えば荷物も何も持たずに南極行けるんかい?!といったツッコミどころも多々あるっちゃあるんだけど、現実離れしすぎないギリギリのところでクスっとなりながら「いいじゃん、映画なんだから」と納得してしまえる、その塩梅も僕は楽しめた(楽しめない人もいそうだけど)。

そこまで評判になってないみたいだけど、好きだぁとしみじみ思える映画。クルマのなかで娘とあの歌を一緒に歌うシーン、よかったなぁ。改めてあの曲、いい曲だよなぁって思えた。

おすすめです。