「七夕忌 PANTA一周忌&頭脳警察55周年記念ライブ」@渋谷duo MUSIC EXCHANGE
2024年7月8日(月)
渋谷・duo MUSIC EXCHANGEで、「七夕忌 PANTA一周忌&頭脳警察55周年記念ライブ」。
出演は、頭脳警察(石塚俊明、おおくぼけい、澤竜次、宮田岳、樋口素之助、竹内理恵)。ゲストに鈴木慶一、大久保ノブオ、ミッキー吉野、難波弘之、玲里、アキマツネオ、仲野茂、大槻ケンヂ、うじきつよし、下山淳、ROLLY、渡辺えり、マリアンヌ東雲、夏川椎菜、髙嶋政宏。
開演は18時で、終演は22時。実に4時間! ゲスト一組終了毎に機材チェックやセットチェンジが入ったが、それでも実演時間は3時間以上に及んだ。
ゲストが次々に登場し、PANTAが遺した楽曲を頭脳警察のメンバーたちの演奏に乗せて歌っていく(または演奏を合わせる)という形。ゲストは日本のロック界の大ベテラン~中堅の方から俳優・声優までと幅広く、しかもみなさんキャラが濃厚。この広範にして独特の交友関係がまたPANTAの多層的な音楽家としてのユニークさを浮きあがらせているようだった。
ゲストはそれぞれ基本的に2曲を歌い(演奏し)、PANTAとの思い出を話したりも。多くの人たちがPANTAと過ごしたときの楽しいエピソード/オモシロエピソードを語り、それ故にしんみりした雰囲気にはならなかった。それがよかった。
初期頭脳警察の曲あり、頭脳警察解散後のソロ曲あり、PANTA&HAL期の曲あり、その後のソロ曲あり、その後の頭脳警察曲あり、PANTAがほかの歌手に提供した曲ありと、PANTAの長いキャリアのいろんな時期の曲がゲストたちによって歌われた。それによって改めて明らかになったのは、作詞者・作曲者としてのPANTAの音楽性の幅の広さだ。荒々しいロックもあればグラムロックもあり、シャンソン的なものもあればポップもある。ストレートなロックンロールもあれば胸を打つバラードもある。この夜はPANTAがほかの人に提供した名曲を歌ったゲストも多かったので(下山淳はルースターズの「鉄橋の下で」「曼陀羅」を、夏川椎菜は石川セリの「ムーンライト・サーファー」を、渡辺えりは沢田研二の「月の刃」を歌った)、尚更ソングライターとしての才能、コンポーザーとしての才能に改めて感じ入ることとなった。
パフォーマンスで個人的に特にグッときたのは、まず仲野茂。初めて「宝島」誌でPANTAとアナーキーが対談したのが、PANTAが『KISS』を出して不買運動が起きていたときだった故、茂は対談中ずっと黙っていて、撮影時にはPANTAのバイクのヘルメットをかぶって顔を隠していた……がPANTAは笑ってそれを受け入れていたという話を、後にPANTAからプレゼントされたという宝物のそのヘルメットをみんなに見せながら語り、「PANTA~!」と叫んでから歌い始めたのは「屋根の上の猫」と「ふざけるんじゃねえよ」だったのでしびれた。自分はここでまず泣いた。
ポカスカジャンのリーダーで、PANTAと白井良明と青空ボーイズというバンドを組んで2度ほどライブをやったという大久保ノブオは、予定されていた白井良明が病欠ということで急遽ひとりでステージに立ったが、この日の誰よりも笑いをとっていたのがさすがだったし、頭脳警察「いとこの結婚式」の魅力を再確認させてくれもした。
ROLLYは意外にも「銃をとれ」と「コミック雑誌なんかいらない」を選曲していたのだが、「銃をとれ」のような荒々しい曲をクイーン的な風味を持った華麗なアレンジに変えて完全なるROLLYの世界観で演奏していたのがさすがだった。PANTAと同じイベントに出るときにはPANTAに呼ばれてクルマのなかでずっとシャンソンの話をし、「シャンソンの話ができるのはROLLYだけだから」とPANTAが言っていた……という話もなんかジワっと沁みた。
親友だったアキマツネオは、PANTAがマーク・ボランに捧げた「極楽鳥」を歌い、そのあとには名曲「万物流転」を歌った。自分にとってその2曲は好きなPANTA楽曲ベスト3に入るものである故、そりゃあやっぱりグッときた。「PANTAの残した曲は懐メロみたいにしちゃいけないと思うんで、定期的にこういうイベントをやったほうがいい」と言うその言葉にも共感をおぼえた。
マリアンヌ東雲による「あばよ東京」、大槻ケンヂによる「世界革命戦争宣言」など、意外なようでいて聴けばとてもしっくりくる選曲の妙に唸らされる場面もあった。
髙嶋政宏、渡辺えりと、俳優さんも出演されたのだが、とりわけ昔からPANTAの大ファンだったという渡辺えりの歌唱表現力はこの日の出演者のなかでも突出していて迫りくるものがあった。
ミッキー吉野と一緒に登場した鈴木慶一は「オートバイ」と「つれなのふりや」、自身がプロデュースしたPANTA&HALの2作からの曲を歌い、「つれなのふりや」ではコール&レスポンスも。まだ世に出てないP.K.Oの新作がいつか聴けるだろうことも僕は楽しみにしている。
ほかにもいろいろ名場面があったが、最後はゲストなし。スクリーンに大きく映されたPANTAの歌唱映像に頭脳警察のメンバーたちが音を重ねる形で3曲…「東京オオカミ」「絶景かな」「さようなら世界夫人よ」が演奏された。多彩なゲストたちの歌でソングライター/コンポーザーとしてのPANTAの幅広さ・才能が改めて明らかになったと先に書いたが、ここで露になったのは今度はPANTAのヴォーカリストとしての強度だった。頭脳警察の若いメンバーたちの演奏は「東京オオカミ」で一気に白熱した。そして「絶景かな」の演奏には彼らの思いの全てが乗っていた(感極まっているように見えたメンバーもいた)。この「絶景かな」で心が震え、またも落涙。そして「さようなら世界夫人」のPANTAの歌に包み込まれる感覚を味わった。
頭脳警察のメンバーたちの演奏は素晴らしかった。最初から最後までずっと素晴らしかった。
そしてPANTAの遺した数々の楽曲が少しも古くならないことを実感し、それが歌い継がれていくことの重要さを思った夜だった。
↑こちらは昨年9月の「ライブ葬」について書いた記事。