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『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』感想。

2022年6月28日(火)

吉祥寺アップリンクで、『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』。

ミュージシャンのドキュメンタリー映画が次々に公開される昨今だが、これは相当素晴らしい。ポーグスのファンだった故の思い入れもあるが、それを差し引いても。シェイン・マガウアン。なんて魅力的な社会不適合者。いやもう、ズシンときましたよ。

⁡ポーグスが大好きだった。『堕ちた天使』が出てすぐ買って当時勤めてた会社で毎日繰り返しかけて呆れられていた。その年(88年)のMZA有明の初来日公演に興奮した。しかし横浜での野外フェス、WOMADで観たとき(91年)は既にシェインの状態は酷く、まるで歌えていなかった(が、それでも嫌いにならなかった)。朝霧ジャム、スタジオコースト、フジロック…。来日すれば必ず観た。だけど、この映画を観て、シェインの背景とアイルランドの社会背景と歌の生まれた背景を知り、改めて字幕のついた名曲群を聴きながら、自分はなんにもわかっていないでただ無邪気に盛り上がって聴いてただけだったんだと思い知った。⁡

アイルランド、⁡⁡ビールとウイスキー、父、母、妹、IRA、宗教、言葉、ロンドン、セックス・ピストルズ、バンド仲間、ジョニー・デップ、ニューヨークの夢、カースティ・マッコール、ツアー、ドラッグ、紛争、抵抗、妻。⁡こうしたあれこれが重なり絡み合ってシェインという愛すべき厄介者が形成されている。

*以下、ネタバレ的な記述になるのでこれから観る方はご注意を。

開始早々に「ニューヨークの夢」が流れて心をつかまれる。そして現在の(撮影当時だから2~3年前かな?)のシェインが画面にどーん。そうか、今のシェインはこんななんだ……と軽くショックを受け、そこでもうなんとも言えない気持ちになる。という導入が非常に上手い。60代になったシェインは、相変わらず抜けた歯の間から空気が漏れだすような笑い方をするが、表情筋が固まってしまっていて顔が笑ってない…。

そこからおよそ1時間はシェインの幼少時代のエピソードが続く。ミュージシャンのドキュメンタリー映画で、音楽を始める前までに1時間あまりを割くというのは珍しいが、それが効いている。いかにしてシェインがシェインになったかがよく理解できる。

アイルランドの田舎からロンドンに移り住んだときには環境のあまりの違いで家族揃って体調と精神がおかしくなるほどだったようだが、ピストルズに出会って俄然シェインは生き生きし始める。「居場所」を見つけたのだ。そのあたりの描写の上手さは、パンクの誕生をリアルタイムで目撃し、パンクのドキュメンタリーを撮らせたら右に出る者のいないジュリアン・テンプル監督の真骨頂で、めっちゃ昂揚した。

ジョニー・デップが優しい。妻のヴィクトリアが優しい。ニック・ケイヴも優しい。

今もシェインが生きていることの奇跡に、ありがとうなんて言いたくもなった。⁡

(ところでスパイダーらメンバーたちはどんな気持ちでこの映画を観たのだろうか……)


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