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s-ken & far east sessions@YUKUIDO工房

2023年5月14日(日)

東上野・YUKUIDO工房で、s-ken & far east sessions。

s-kenさんが新しいユニットを組んでライブをするというので、東上野にある「YUKUIDE」工房に観に行った。

東京の「東」…隅田川流域がいま面白いという話は『P.O. BOX 496』が完成したときに行なったインタビューでもされていたし、そのアルバムには「風の吹くままリバーサイド」という曲も収録されていた。

♪ 風の吹くままリバーサイド 川の流れを見て歌う
   北へ南へリバーサイド 川の流れを見て踊る

「イーストサイドが面白い」「イーストサイドから新しいカルチャーが勃興している」。“風の吹くまま”その地域を度々歩いてそう確信したs-kenさんのカラダはうずうずし、自らもそこでアクションを起こしたくなったのだろう。東上野の路地裏にある廃工場をリノベーションしたYUKUIDO工房という空間との出会いもひとつの大きなきっかけだったかもしれない。s-kenさんは新ユニットを結成し、そこでライブを行なうべく動いた。思い立ったらじっとしていられず、すぐに動く。昔からそういう人だ。

新ユニットの名は、s-ken & far east sessions。パーマネント・メンバーは、s-ken(Vo)と、hot bombomsから佐野篤(Ba,Per,Cello,etc)、ヤヒロトモヒロ(Per)。ゲストアクトでEGO-WRAPPIN’の森雅樹(Gt)、原田芳宏(Steelpan)、中山うり(Acc,Tp,Vo,Cho)。ゲスト3人の関与が今後も継続するのか否かはわからないが、今回の初ライブのこのメンバーによるアンサンブルが想像以上に素晴らしかったので、ぜひともしばらくこの編成で続けてほしいところだ。

ステージ上の並びは、(ステージ向かって)前方左から中山うり、s-ken、原田芳宏。後方左から佐野篤、ヤヒロトモヒロ、森雅樹。ヴォーカルのs-kenを挟む形で前方にアコーディオンほかの中山うりとスティールパンの原田芳宏がいることがまずフレッシュで、編成のユニークさを表してもいた。森さんを横に配置し、彼のギターを前に押し出す形を自分は勝手に想像していたのだが、むしろ森さんは抑制を効かせつつ全体を見ているようで、その分原田さんはフリーに鳴らしているという印象だった。

電気を通しての音はほとんどなく、基本的にアコースティック。とはいえアコースティックという言葉からイメージされるフォーキーな感触はなく、ジャズ的な感触とロック的な感触、さらにはカリビアンだったりチンドンだったりの要素が有機的に入り混じり、無国籍で独特の音が立ち現れていた。フリーセッション的な場面もところどころにあり、スリルとエキサイトメントがそこに出現。所謂ロックバンドのような大きな音ではない分、尚更多要素の融合の妙がダイレクトに伝わってきて興奮した。また曲によって佐野篤さんがベース、チェロ、パーカッションと楽器を変え、うりさんがアコーディオン、ポケットトランペットと持ち替え、その柔軟さによって音の表情も度々変化する。5人の演奏者だけでこんなにいろんな音、いろんなグルーブを生み出せるのか、という軽い驚きもあった。それに電気を通した大きなバンド音じゃないというところは、現在のs-kenさんのヴォーカルの持ち味を細やかに伝える意味でも効果的で、よってs-kenさんは(病み上がりだったにも関わらず)無理なく活き活きと歌っているようだった。5人のスーパーな演奏家たちが鳴らす豊かな音に呼応して、ヴォーカルの粋と色気がまた増しているようにも感じられた。

レンガ壁のYUKUIDOの音の反響度合いも理想的なもので、ここで演奏したミュージシャンの多くがこの空間を気に入る理由がよくわかった。所謂ライブハウスでは出せない音響というか、空気と合わさって音が上にも前後にも広がっていく感じがあり、それがこのユニットの独特のサウンドを際立たせていた。

オープナーが「鮮やかなフィナーレ」だったのには意表を突かれた思いがした。「一匹狼カムバックホーム」「野良犬が消えちまった」と『P.O. BOX 496』の曲を続け、「メロンとリンゴにバナナ」ではMVに出ていた姉妹も参加。パペットを動かしながらステップ踏んだりするふたりはとても可愛らしくて、ほのぼのした気持ちになった。次の曲にも姉妹は参加。それはこのライブのために用意したという新曲で、タイトルは「雨男と雨女」。s-kenさんの歌声とうりさんのアコーディオン及び歌声の重なる塩梅がいい。

このライブのテーマソングと言ってもいい「風の吹くままリバーサイド」から「マジックマジック」へと続き、その「マジックマジック」のインプロ的な行き方に興奮。こういったアフロなグルーブを有した曲ではとりわけヤヒロトモヒロさんと佐野さんのリズムが力を発揮し、まさしく魔法がかかる。複雑な構成であるはずなのにダイナミック。うりさんのトランペットは吹きすぎない加減もよくて耳に残る。続いて「月に魔法をかけられた」という新曲。そして「よろめきながら地下鉄へ」「感電キング」とお馴染みの曲が続いて本編終了。どの曲だったか記憶が曖昧だが、森雅樹さんのギターが(s-kenさんもツイートしていた通り)ザ・コントーションズのそれのように魔術的に聴こえるところもあった。

アンコールは昨年のhot bombomsのビルボードライブ東京でも深い印象を残した「忘れじのエトランゼ」。続いて賑やかに「イヤダヨ」。最後の最後は名曲「夜の翼をポケットに」で、これは昨年のビルボードライブ公演の2部の最後に演奏された曲であり、亡くなられた矢代恒彦さんの最期のステージ演奏曲でもあった故、どこか追悼曲のようにも響いてきてグッときてしまった。

s-ken & far east sessions。初ライブのおぼつかなさなど少しもなく、ほかのバンドにない明確な個性が早くも表れていた。フレッシュで、まだまだいろんな可能性を秘めたユニットだと思った。「思い描いたニューバンドサウンドが生まれた」「青年期のようなココロ震える時間だった」とs-kenさんはツイートしていたが、観ていて確かにいまのs-kenさんのヴォーカルの質に合った新しいサウンドだと感じたし、昨年のhot bombomsとのビルボードライブ公演よりも若々しく、活き活きと楽しんで歌っているようにも感じられた。いやそれにしても76歳でこんなユニットを結成し、新しいサウンドで楽しくライブをするのだからすごい。好奇心というものがいかに大事かを思わされる。

初ライブが終わったばかりなので気が早いかもしれないが、僕はもうs-ken & far east sessionsの次の動きが楽しみでしょうがなくなっている。

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