
オリヴィア・ディーン@神田スクエアホール
2024年8月20日(火)
神田スクエアホールで、オリヴィア・ディーン。
サマソニの感想をまだ書いていないが、先にオリヴィア・ディーンの単独公演の感想を。
オリヴィア・ディーンの「Dive」は、去年僕が最も愛聴した曲だ。2023年のあらゆる曲の中で一番好き。そう言ってもいいくらい。そしてYouTubeでいくつかのライブ映像を見たあと、今年春には彼女にとっての米国デビューライブとなったコーチェラのステージを配信で見て、その幸福そうな歌いっぷりと、はける際の満足気な笑顔にやられた。そのときにはもうすっかりファンになっていたし、その後のグラストンベリーのステージも配信で見て、ああ早くナマで観たい!と思うようになった。だからサマソニ出演が決まったときには「やった!」と心の中で叫んだし、最高のタイミングじゃないかと思った。
大好きなオリビア・ディーン、コリーヌに通じる世界観だけど、MCとか想像以上に明るくて溌剌とした感じ。ホーンセクションを上手く活かした幸福感ありのライブだった。明後日の単独も楽しみ!
— 内本順一 (@umjun1) August 18, 2024
#サマソニ pic.twitter.com/GbLmzW9pCR
これ↑はサマソニのソニックステージでオリヴィアのライブを観たあとのポスト。写真の通り、後ろには広々としてたくさんの花が咲いた野原が映され、それもあって春から夏にかけてのあたたかなムードが伝えられていた。夜の似合うネオソウルというよりは昼間に聴いても気持ちいい明るいポップソウルといった印象付けがされていたということだ。また、英国出身でオーガニックソウル味とポップ味の塩梅のちょうどいいシンガー・ソングライターというところから僕は彼女をポスト・コリーヌ・ベイリー・レイ的な存在と捉えていたのだが、MCのトーンなどは想像以上に溌剌としていて、大人の女性っぽいコリーヌよりももっとおきゃんな女の子といった感じが前に出ていた。
そんな印象だったサマソニの彼女の持ち時間は45分。昨夜(20日)の単独公演は約1時間20分。単独のほうが30分ちょい長かったことになる。
サマソニのときにあった背景映像は、単独公演はなし。オールスタンディングで約1000人収容の神田スクエアホール(ここに来たのは昨年10月のジョン・バティステ来日公演以来だった)ということで、ライブハウスで観ているのに近い感覚が得られたのはまずよかったところだ。
ライブの構成以前にまずサマソニのときと大きく違ったのが、観客の熱狂の度合いだ。しかも女性ファンが相当多い。登場した瞬間から沸きまくり、好きな曲が歌われればギャーと声をあげて身悶えし、大半の曲をみんながシンガロングし、1曲歌い終わる毎の拍手にも思い切り力を込め、ステージ近くの女の子は悲鳴にも似た声で「アイラビュー!」と叫び続けていた。オリヴィア自身、そんな観客の熱狂ぶりに驚き、思わず吹き出したりもしていたくらいだ。自分の横にいた男性も(そういう曲調でもないのに)腕をがんがん振り上げてずっとシンガロングしてるものだから、僕は正直ちょっと困って場所を変えたりもした。こんなにもたくさん日本にオリヴィアの熱狂的なファンがいたのか!?。と、驚きながら観てたのだが、(帰りにわかったのだけど)日本人以外の観客もかなり多かったようだ。いや、それにしても。ビリーやテイラーじゃないんだから。
それはさておき、サマソニのステージより30分長いことで、内容・構成の印象もだいぶ違った。1時間20分弱の時間の使い方・組み立て方が非常に上手かった。例えば半ばでホーンセクション含んだバンドメンバーたちが一旦はけ、ギタリストひとりとオリヴィアのギター&ヴォーカルでじっくり聴かせる場面があった。またオリヴィアの鍵盤弾き語りも2曲あった(うち1曲は途中からバンドも参加)。そうした場面が半ばにあったからこそ、フルバンドでの賑やかな終盤はさらに大きな盛り上がりとなった。

そのように趣向が凝らされていたことで、オリヴィアの音楽性の幅も今回より一層感じることとなった。ネオソウル系シンガーという括りはやはりどう考えてもざっくりしすぎで、曲によってはスウィング・アウト・シスター感ありのポップソウルになったり、ラヴァーズロック味が出たり、バラードの奥深さが強調されたり、新曲「Time」ではロック的なダイナミズムが出たり、ライブ終盤ではジャムセッションっぽくなってオリヴィアが楽しそうにバナナシェイカーを振ってたり。そしてそのように少しずつアプローチを変化させるなかで、ときおりかえってグッと前に出ることがあるのが彼女の歌唱のソウル濃度。いかにもソウル然とした曲を歌うのではなく、ポップな曲のなかでときどきどうしようもなくヴォーカルに現れるソウル成分に、むしろああやっぱり出はUKソウルなんだなー、って思えるのが面白い。次のアルバムの頃にはもっと多彩でポップなところが前に出るのか、それとも絞ってソウル味を強調するのか、どうくるかなー、楽しみだな。
ライブ終盤、祖母に捧げ、受け継いでいくことの大切さを書いたという「Carmen」の彼女の歌唱にはジーンときた。そしてオリヴィアは心を込めてそれを歌ったことと、恐らく日本での声援の大きさもあってだろう、「Carmen」のあとで感極まっていた。が、すぐに気持ちを持ち直し、最後は代表曲の「Dive」を。バンドメンバーたちのソロも聴かせつつ途中でまたジャムセッションっぽさも入れ込んでのナマ「Dive」を聴き、やっぱりとことん名曲であるなと感じ入り、そこでの名唱っぷりに胸がいっぱいになったのだった。
アンコールはなし。でも十二分の満足感。電気がついても誰も「え~~っ」などと言う人はいなかった。やはり好きなアーティストのライブはフェスと単独、両方観ないとな。と、改めてそうも思った。