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ムーンチャイルド@恵比寿ザ・ガーデンホール

2022年11月7日(月)

恵比寿ザ・ガーデンホールで、ムーンチャイルド。

スペシャル・ゲスト扱いのオープニング・アクトは、L.A.を拠点に活動するピアニスト兼プロデューサーのキーファー。前日の大阪公演は体調不良で出演できなくなったそうだが、ベース、ドラムとのトリオ編成で無事行なわれた恵比寿公演はそんなことを微塵も感じさせない生き生きとした演奏だった。

これまで様々な現代ジャズ(またはソウル系)のミュージシャンと共演したりコラボしたりしてきたキーファーだが、ライブはどんな感じなのだろう?   静かめな感じ、またはチルめな感じになるのだろうか?   と、そのへんの想像がつかないまま観たのだけど、思っていたよりずっと肉体的というか、ライブ的躍動感のようなものがしっかりあった。彼自身、MCのトーンも含めて明るさがあり、楽しんで演奏していたようだった、というのもあるが、ベーシストとドラマーが恐らくキーファーよりだいぶ年下であろう若者で、しかしそのふたりがとんでもないテクを持っていて柔軟にリズムを変化させていく、その様がライブ全体の躍動に繋がっていたんじゃないかと思う。

フェイバリットだというnujabesのカバーにしてもそうだったが、キーファーのピアノはあくまでも美麗でありながら、リズム隊のアタックが強く、そのユニークな塩梅がこのトリオの個性にもなっている。後半のタイトな曲になると、そのあたりの対比がさらに増して、バンド音がより強力になった。わけても、時にヒップホップ、時にドラムンベース、時にスペーシー、時にバッチバチな不規則ジャズと叩きっぷりを柔軟に変えていくドラマーくんが凄くて、今の欧米とかってこんなふうに凄いテクを持ちながらキャップを被ってそのへんで普通に過ごしてるっぽく見える若者がボコボコ出てきてるんだろうな、なんて思ったりも。

このトリオでしっかり1時間やってくれて、その中での抑揚もあって、僕はすっかり満足したし、何度も主役であるムーンチャイルドの名を呼んで会場をあっためもする、そんなキーファーのいいやつぶりも印象に残った。

で、セットチェンジを挿み、2部が延期を経て遂に実現、かなり久々の来日となったムーンチャイルド。登場時の客の沸きようは、かつての来日公演にはなかったもので、今年の新作『Starfruit』で新しいファンがたくさんついたことがよくわかった。実際、スタンディング時のキャパ1500人であるガーデンホールのチケットは完売となって、満杯。しかも友達数人と観に来ている20代くらいの若い人が目立ち、ブルーノートのときとかの年齢層・客層とはずいぶん違っていた。となれば、ライブ全体の雰囲気もずいぶん変わる。着席ではなくスタンディングであるからして、楽しみたいという前のめり気味の客の気持ちがステージに直に伝わり、バンドはバンドでみんなに盛り上がってもらいたいという気持ちが強く出る。その相互作用が完全にいいほうに出ていた。といった意味も含め、パンデミックで延期となってこのタイミングでの来日となったことが、むしろ功を奏したとも言えそうだ。

新作『Starfruit』がもたらしたいい影響はもちろん彼らの側にも多大にあることがわかった。まず3人の演奏とライブに対する思いが、以前よりずっと開かれた状態であることのわかるものになっていた。以前からにこやかに演奏する人たちで、とりわけアンバーの笑顔はコリーヌ・ベイリー・レイやステイシー・ケントがそうであるように観る者たちを幸福な気持ちにさせるものだったが、そんな笑顔に加え、今回のアンバーはステージを右に左にとよく歩き、ときどき手を挙げて大きくフリをつけたり、メンバーの手の動きや表情をのぞき込む仕草をしたり、「楽しんでますか?」と日本語で客に語り掛けたり、ハンズアップを促したり……。一緒に楽しみましょうという思いを明るく表して、観客とのコミュニケーションを大事にしながら歌ったり演奏したりしていた。かつての彼らはもっと、なんというか自然体だった。が、ここ数年でエンターテインメントの意識がグッと強まったんじゃないかと感じられた。そのあたりは恐らく、パンデミック時期の籠り時期を経ていろんなシンガーやラッパーとコラボしながら新作を作ったことのよき影響なんじゃないか。そして、そうした面……つまり制作及びライブに対する意識の変化と受け入れられ方は、彼らの自信にも大きく繋がったのだろう。なんというか今の彼らは迷いのないライブをしている。自信を持ってステージに立っている。ライブの場における立ち振る舞いの成熟を強く感じることができた。

というのと、もうひとつ。ライブ全体の構成が以前よりずっと練られたものになっていた。新作『Starfruit』の曲を中心にしながら、ライブ中盤では現在リミックス的アコースティック・アルバムの制作に取り組んでることを明かした上で椅子に座ってアコギ演奏を味わわせたり。終盤ではベース音(用意されたそれを鍵盤で出してましたね)のブイブイしたファンキー感がたまらぬ「Love I Need」で盛り上げ、さらにそこから代表曲と言っていい「The List」を続けたり。約1時間半観ていて、一瞬たりとも退屈する場面のない見事な構成になっており、そのへんも進化の表れだなと思えたところだった。

メリハリのつけ方もずいぶん上手くなった。それは例えばアンバーのサックスとフルートの吹き替えといったことだけでなく、曲の途中のここぞというところで3管を合わせることによって高揚感を与える、みたいなところも(以前からやっていたこととはいえ)よりタイミングの計られたものになっていた。また今回サポートで加わったドラマーの腕も大きくものを言っていた。強力なビートを叩きだしもする、が、目立ちすぎることなく寄り添いの美学をわかっている感じ。

「総じて多幸感の作り方というところがアップグレードされている印象を持ちました」

『Starfruit』が出るタイミングでTENDREにムーンチャイルドとそのアルバムの魅力を語っていただくという企画記事を担当した際、アルバムを聴いた印象を彼はそう言葉にしていたものだが、そのことは今回のライブを観ていても強く感じたこと。まさしく「総じて多幸感の作り方というところがアップグレードされている」という印象の大充実ライブだった。




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