interview: GOOD BYE APRILが「シティポップ」と「80s」をキーワードにした新作『Xanadu』をリリース。10周年という節目の年に、いかにしてこの最高傑作は生まれたのか。倉品と延本が語る。
2020年はGOOD BYE APRILにとっての結成10周年イヤー。そして3作目のフルアルバムとなる『Xanadu』(ザナドゥ)は、そんな節目の年の発表作に相応しい出来映えとなった。のっけから結論的なことを書くと、『Xanadu』は10年目にして彼らが遂に打ち立てた、言うなれば金字塔。ライナーノーツの終わりにも書いたが、「4人が共に歩んだ10年あってこその到達点であり、ここからまた自分たちらしい歩き方でフレッシュさを持ちつつ前に進むんだという意思表示でもある作品」だ。
これまで「ネオ・ニューミュージック」を標榜し、70年代のニューミュージックが有していたメロディのよさなどを継承しながら現行のポップスとして響かせるやり方をしてきたGOOD BYE APRILだったが、新作『Xanadu』ではそれを踏まえつつも、新たにふたつのキーワードを4人が共有して制作された。「シティポップ」と「80s」だ。「シティポップ」的なアプローチはこれまでのアルバム収録曲でもなされたことがあったが、今回は倉品が特にそれを意識しつつ作曲。一方「80s」は4人とも好きでよく聴いていた音楽だったそうだが、それを大きく導入しようという延本の閃きから初めて実行。シンセサイザーを大胆に用いてアレンジされた今作における楽曲は、彼ららしいメロディと歌詞であってもこれまでのものとはずいぶん印象が違っている。着慣れた服を脱ぎ捨て、真新しい服に着替えたような、そんな印象だ(しかも4人がその着心地のよさを実感していることも伝わってくる)。
自分がフロントマンの倉品翔と知り合ったのは、2010年2月15日の下北沢THREE。Lightshipというバンドでの活動の後期(その時点ではデュオ形態)だった。そして同年11月、ドラムのつのけんとベースの延本文音と共に彼はGOOD BYE APRILをスタートさせ、翌2011年7月にギターの吉田卓史が加入。3人での初ライブ(学芸大学MAPLEHOUSE)以降、主要な都内のライブはだいたい観に行き、その歩みをわりと近くで見てきた立場として、今こう思う。「GOOD BYE APRILは今が一番いいんじゃなぃか」。
というわけで、今回もまた詞曲を担当する倉品と延本のふたりに約3時間、話を聞いた。
尚、インタビューは2回に分けて掲載。前編となる今回は「どうしてこのタイミングで、このような傑作が生まれたのか」というところに焦点をあて、後編では各楽曲についてと、結成10年のふたりの思いを紹介したい。
インタビュー・構成・アーティスト写真以外の撮影/内本順一
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(写真左から延本文音、吉田卓史、倉品翔、つのけん)
「自分ひとりで全部仕切るということを『I MISS YOU SO LONG』でやってみて、それが終わったので、じゃあまた違うことをしようと未練なく振り切れた」
――新作、素晴らしい!
倉品翔: あ、ほんとですか?!
延本文音: ええっ、ほんとですか? 褒められ慣れてないんで、褒められると嘘じゃないかと思っちゃうんですけど(笑)
――いやもう、GOOD BYE APRILの最高傑作と断言していいでしょう。
延本: おお~。
倉品: 嬉しい……。
――相当の手応えがあるんじゃないかと思うんだけど、作り終えての感想は?
延本: 今はマラソンの完走後って感じですね。今回は今までと作り方が違ったんで。
――「さあ、1からアルバム作ります」っていうんじゃなくて、6ヶ月連続新曲配信をやりつつの制作だったからね。曲を作って配信して、また作って配信して、っていう。
倉品: そうなんです。集中して11曲作るんじゃなくて、途切れ途切れで。配信のやつは2ヶ月おきに2曲ずつ録っていったんですよ。3月2曲、5月2曲、7月2曲みたいな感じで。
延本: いままでのアルバムだったら、書き溜めてあった曲を並べて、バランス考えながら曲を選んでいくやり方だったけど、今回は「サマーレインと涙の跡」を録ってる段階で「plastic」もないし「人魚の鱗」もないし「Xanadu」もないし。次にどんな曲を配信するかわからない状態で、とりあえず目の前の曲を完成させるっていう。「ARMS」だけはあって、これで連続配信を締めるってことは決めていたんですけどね。
――さっきのマラソンの譬えで言うと、とりあえず走ってはいるけど、アルバムというゴールがどういう場所なのか、わかっていない。
延本: そう。ゴールが見えてないけど、とりあえず走ろうみたいな。「木綿のハンカチーフ」を録ったのが冬だったので、半年以上ずっと走っていて。
――しんどそうだな、それ。
延本: しんどかったですよ(笑)
――でも、それだけに、やりきった感があるでしょ。
倉品: ありますね。僕は非常に満足してますし、今回は曲作りの段階からすごく楽しかった。去年はさんざん自分の内側に籠るようなやり方をバンドのなかでして、それで『I MISS YOU SO LONG』を作ったわけですけど、あれをやりきったからこそ今年はもうそういうことをする気は全然なかったし、すごくフラットに「みんなで作っていこう」って気持ちで取り組めたので。精神的なストレスがなかったです。曲は毎回レコーディングの直前まで作っていて、そういう意味できつい瞬間はありましたけど。
――『I MISS YOU SO LONG』は、倉品くんがとにかく自分自身に向き合って、自分の力でどこまでやれるのかということを試すように作った作品だった。それを作り終えたときのインタビューで、よくも悪くも自分の限界が見えたと話していたわけだけど。
倉品: やれるところまでやってすっきりした感じが8割くらいありつつ、あとの2割は、自分の力だけでやれるのはここまでという限界を知った感じがありましたね。
――「過信が剥がれた」とも言ってたよね。
倉品: 挫折とは違うんですけど、2割くらいはそういう気持ちでした。でもとにかく自分ひとりで全部仕切るということをあのミニアルバムでやってみて、それが終わったので、じゃあまた違うことをしようと未練なく振り切れた。だから結果的によかったと思ってるんです。
延本: 私もあの時期は不調だったんですよ。全然エンジンがかからなくて。だから「一緒に頑張ろう」みたいな感じというよりは、とにかく自分のベースを弾くので精一杯というような。
倉品: 延本は『他人旅行』でちょっと燃え尽きたようなところがあった。
延本: 燃え尽きたっていうのとも違うけど、なんかちょっと疲れたっていう。
――『他人旅行』は完全にえんちゃん主導のアルバムで、持てる創造力をつぎ込んで作ったところがあったからね。
延本: そうですね。
――だから、しばらくは本を読んだり絵を描いたりするのが何より楽しいっていうモードになって。アウトプットよりもインプットの時期がしばらく続いていた。
延本: そうです。けっこう陰に籠りたいというか。そういう時期でした。
――そこからどうやって気持ちを切り替えていったの?
延本: 切り替えたというより、そもそも私は飽き性なんですよ。飽き性で、頭でっかちなところがあった。というか今でもあるんですけど。でもいい意味で言うと、だんだん自由になってきたところもあって。飽き性なので、同じことを2度したくないんですね。だから今までやってきたような王道ポップスを繰り返したくないというか。歌詞を書くにしても、優等生的なことはもういいかなって思って。そもそも根本的に私は昭和歌謡が好きだし、今流行りの曲は……もちろん好きな曲もありますけど、そんなには聴いてなくて。
――70年代や80年代の曲のほうがしっくりくると。
延本: うん。あの時代の曲って、いい意味でヘンな曲が多いじゃないですか。ヒット曲にセオリーがないし、1曲1曲が自由で、独特で。アルバムには“よくこんなの入れたな”っていうような曲も入っていた。サウンド的にもヘンな音がいっぱい入っていたりして。似たり寄ったりの曲じゃなくて、1曲1曲にクセがあるんですよね。で、自分としてはそういうのをやりたい、というか、そういうのしかやりたくないという気持ちにどんどんなっていって。歌詞にしてもそうで、私は普段から手紙とかを出したくなるほうなんですけど、今のひとは手紙なんて出さないし、みんなLINEでやりとりするじゃないですか。だから歌でも「LINE」というワードが歌い込まれたりするわけですけど、私は「LINE」じゃなくて「手紙」というワードをチョイスしたいわけですよ。時代に合わないということで今までそういうワードを控えていたところもあったんですけど、もうそういうところでヘンに我慢するのはやめたいっていう気持ちがあって。
――無理にイマドキのポップスに合わせて作ることは、もうしなくていいだろうと。
延本: いいだろうと。そういうふうに思っていて、で、アルバムをリリースするということになったときに、メンバーに提案して、80sをやりたいと。
――それで80sという発想に至ったの?
延本: 80sとか、まあ、あの頃のあのひとたちみたいなことですけど。あの頃の山下達郎さんとか杏里さんとか来生たかおさんとかオメガトライブとか。あとは昭和のアイドルのひとだったりとか。リファレンスとして、そういうひとたちの曲があった。具体的に誰というよりは、あの時代のみなさんのような感じ、ってことですけど。
――そういった音楽をたくさん聴いたことで、またえんちゃんのなかの音楽表現欲求が高まっていったと。
延本: 最近また音楽をよく聴きだしたということではなく、気に入ってる音楽はずっと聴いてるほうなんですよ。自分のなかに3つの軸があって、それは絵と本と音楽で。音楽もずっとそこにある。
――ただ一時期、明らかに絵を描くことと本を読むことの熱が音楽熱より高まっていたようだったじゃない?
延本: そうですね。でも飽き性なので、絵に飽きると次はまたベースの時間がくるんですよ、サイクルとして。あと、コロナ禍で暇な時間が増えたのもあって、ベースの練習をいっぱいできたこともよかったのかもしれない。
――このあと新作『Xanadu』がどうしてこんなに素晴らしいものになったか、その理由をひとつひとつ探っていきたいと思っているんだけど、いくつかあるなかでも僕はえんちゃんが音楽表現に対するモチベーションをがっつり取り戻したことがすごく大きな要因なんじゃないかと思っていて。
倉品: 僕もそう思います。波があるんですよ、延本は。
延本: はははは。
――その波が今きたな、っていう。
倉品: うん。それと、延本は目的がハッキリ決まったときのほうがエンジンがかかるタイプで。『他人旅行』のときも、クラウドファンディングをやってこういうアルバムを作ろうという目的意識が延本のなかにハッキリあったし、今回も明確に「80sをやろう」という、みんなが走りだせるゴールがあった。それがあったのが大きかったと思いますね。
「自分たちはこれまでずっとメロディを大事にした音楽をやってきているので、その観点から改めてシティポップにアプローチしてみようと思ったんです」
――倉品くんは今回どういうモードで制作に向かっていったの? さっき言ってたように、前作に対する反動が相当大きかった?
倉品: そうですね。前作があったからこそ振り切れました。『I MISS YOU SO LONG』は自分で曲を書いて仕切って作ったので、今回はむしろ延本プロデュースで、僕は作家として何曲か書きますというような心境で曲を出すことが多かったんです。「今度はこういう曲をバンドでやりたい」とか「80sをやりたい」とか、そういうアイデアが延本からどんどん出てきていたので。僕もそれをやるなら今だなと思ったし、面白いなと思ったし。
延本: 最初は反対してたよね。
倉品: あ、そうだね。80sをやること自体は面白いと思ったんですけど、それでアルバム1枚丸々作るのはどうなんだろって。それが制約になるのは嫌だなと思って、最初は難癖つけてたんですよ。オレ、ビビリなんで。
延本: 「やるからには全部やらな意味ないやろ」みたいな悶着は、最初ありましたね。
――でもえんちゃんのなかで、アルバム丸ごと80sをテーマに作りたい、作るべきだという気持ちは、その時点でもう固まっていたんだね。
延本: そうですね。私はGOOD BYE APRILが世間からもたれている印象自体にも飽きていたんですよ。で、せっかく6ヶ月連続配信をやるなら、全部ひっくり返すくらいのことをやりたいと思って。あと、『他人旅行』のときは全部自分たちの力で広げていかなきゃならなかったけど、今はディスクユニオンの(レーベル「DIW」の)ひとたちが一生懸命プロモーションもやってくれるから、いいチャンスだと思って。やるからには6ヶ月後にバンドの印象が変わってるくらいのものをやりたかったんです。
――えんちゃんが80sをテーマにやりたいって話をメンバーにしたのは、6ヶ月連続配信という企画が決まる前のことなの?
延本: 決まってからです。決まって、1曲目はどういう曲にするかって話をしているときですね。デモはその時点でいっぱいあるので、選び放題だったんですよ。だけど、それだと方向性が定まらないから、むしろ困るんですね。そこで「80sに絞ってやりたい」って提案して。
――「80s」というキーワードを思いついたのはいつ?
延本: ええっと、覚えてないです(笑)。あるとき突然閃いたというか。もしかしたら、「1曲目どうする?」って話してる日に閃いたのかもしれない。覚えてないですけど、でも閃いたときには「これだ!」って思ったはず。わくわくしたのだけは覚えてますね。
倉品: 80sって言葉が出たのは、確か(連続配信の)1曲目の「サマーレインと涙の跡」を選んでからだったかな。
延本: いや、話したのは「サマーレイン~」を選ぶときだったと思う。6ヶ月連続配信という企画が決まった段階では、まだその発想は何もなかった。
――「80s」というキーワードともうひとつ。「シティポップ」も今作のキーワードだよね。今までのAPRIL作品にもシティポップ的なアプローチの曲はいくつかあったけど、今作はそれをより前面に打ち出している。ここ2年くらいシティポップはブームだったりもするわけだけど。
倉品: 今回、シティポップということを相当意識して曲を作っていたのは間違いないです。ただ、この2年くらいの間に流行りになったシティポップを、僕たちは前から好きで聴いていた年代のシティポップと結びつけては聴いてなくて。
延本: 今流行ってるシティポップのブームに乗りたいとはまったく思ってなくて。
倉品: むしろ、シティポップのブームのなかで、ちゃんとカウンターになることをしたいという気持ちのほうが大きかった。じゃあ今流行っているシティポップに足りないものはなんだろうって考えたら、圧倒的にメロディだなと思って。その点、自分たちはこれまでずっとメロディを大事にした音楽をやってきているので、その観点から改めてシティポップにアプローチしてみようと思ったんです。
「私ってこういうこともできたんだって思える曲をいっぱい作りたいなって思って。今回はそれをやってみたという感じですね」
――今作を一聴して思ったのは、とにかくフレッシュだということで。以前から僕は倉品くんと話しているときに、どれだけいい曲であってもポップ・ミュージックはフレッシュさがないとダメなんだってことを言っていたわけだけど……。
倉品: 言われてました(笑)
――今回はまさに、そのサウンドのフレッシュさが勝因だと思うんだよね。もちろんどの曲のメロディもいいんだけど、それ以上にアレンジがフレッシュであることで耳にパーンと飛び込んでくる感覚がある。今まで着てきた服を脱ぎ捨てて、新しい服に着替えたというか。
倉品: そうですね。
――このタイミングで新しいことをしたいという気持ちが大きかったの?
延本: 変わりたいという気持ちがありましたね。今までの王道ポップスのスタイルだと、いい曲が書けても、こんな感じに仕上がるなっていうのがその時点でイメージできちゃうんですよ。だから作ってて面白くない。それより自分も自分の知らない曲を聴きたいから。私ってこういうこともできたんだって思える曲をいっぱい作りたいなって思って。で、今回はそれをやってみたという感じですね。
――なるほど。倉品くんは?
倉品: 僕も毎回、やってないことをやりたいというのはあるんですけど。ただ、曲を書いてる時点では、どんな曲ができてもわりと自分は嬉しいんですよ。基本的に自分の作るメロディが好きなので。なので、バンドとしては今までやってないことをやろうという気持ちでいつも進んでいるんですけど、大きく変わるタイミングが実はなかったというところもあって。
――えんちゃんが言うように「変わりたい」という気持ちは、そこまで強くなかった?
倉品: あ、でも、自分なりに変わりたいという気持ちは、この1年が一番強かったかもしれないですね。自分自身を変えたかったというか。珍しくそういう気持ちはありました。僕は飽き性の延本と違って、本来気が長いほうで。ずっと同じところに居れちゃうほうなんですけど。
――釣りが好きだしね(笑)
倉品: そうですね。でも僕の場合はけっこう攻める釣りなんですけど、まあその話はいいとして(笑)、基本的には気が長いんで。だけど、そんな気の長い僕が、最近はちょっと自分に飽きていたところがあった。そういうタイミングだったのかもしれないですね。
――何しろアレンジのあり方が今までと抜本的に変わって、サウンドもシンセを大胆に導入したものへと大きく変化したわけだけど、今回って新たにアレンジャーとかプロデューサーを入れたわけではないよね?
倉品: 入ってないです。
――シンセのアレンジも倉品くんが自分でやってるの?
倉品: 全部僕がやってます。
――すごいよね。今回、アレンジが本当にいい。『Xanadu』ってどんなアルバム? って訊かれたら、僕は「アレンジが素晴らしいアルバム」と答えたいくらいで。
倉品: やった! それはめちゃめちゃ嬉しいです。アレンジに関してはエンジニアさんにも褒められたんですよ。
――どうして今回、こんなに素晴らしいアレンジができたんだろ。
倉品: 僕、もともとアレンジという行為が大好きなんですね。アレンジまでが自分にとっての曲作りの一貫で、デモを作り込むということは昔からやっていた。ただ、たまたまシンセというアイテムが今までは手元になかったんですよ。で、今回、シンセを買ったんです。
――いつ頃?
倉品: 3月だったかな。
――3月だと、もうレコーディングは始まってたよね?
倉品: 最初のレコーディングの直前でしたね。そのシンセを使ってレコーディングしたのは、連続配信第2弾の「人魚の鱗」からで。漠然とシンセの音が欲しいなと思っていて、欲しいシンセがあったのでそれを買って。音作りも自分で勉強して。そこからなんです。
――じゃあ、買ってからけっこう短時間でものにしたわけだね。
倉品: 毎日1日中そのシンセを触って、どこをどういじったらどういう音が出るのかを探って、それから80sの音楽にはどういうシンセの音が入っているのか、2020年のプレイリストに入っている最新の曲にはどういう音が入っているのかを照らし合わせて、その両方のいいところをとって自分なりにかっこいいと思える音を作れるようになるまで、ひたすらいじり倒してました。
――完全に独学で?
倉品: はい。手探りで。それを毎日ひたすらやっていたら、あるとき急に何かがわかった気がしたときがあったんですよ。裏方仕事でいろんなひとのアレンジを清野(雄翔)さんとやっているんですけど、今年に入ってちょっと何かが見えた瞬間があって、それはたぶん、同じことをずっとやっていたら知らない間に成長してたみたいなことだと思うんですけど。
*下は倉品が清野雄翔と組んでアレンジを担当した2020年発表曲。上から川口恭吾「明日は晴れるだろう」、さのめいみ。「ライト」、小玉ひかり「ふたりぼっち」
――裏方仕事の積み重ねによってアレンジ力が上がっていったんだね。それにしても、今作はどの曲も楽曲の芯を捉えていて、本当に素晴らしいアレンジだと思う。シンセを使った曲だけじゃなく、シンセの入ってないシンプルなスロー曲のアレンジも深みがあるし。
倉品: ああ、それは嬉しいですね。あ、でも、曲の構成に関してはけっこう延本に訊いてやっているところもあるんです。
延本: 構成作家みたいなところが私にあるので。
――曲全体のイメージをえんちゃんが考えて、それを元に倉品くんがアレンジをしていくということ?
延本: 私はただただフィーリングを、らっしー(倉品)に伝えて。下書きですね、私のは。スケッチとかデッサンを私がして、色塗りはらっしーに任せるみたいな。
――そのイメージはけっこう明確に伝えるの?
延本: いや、「ここはギュイーンとしたい」とか「ぽよーんとさせたい」とか、そんなんです(笑)
倉品: ラフなスケッチですね。でも、それがないと始まらないので。僕はそのリクエストに一生懸命応えようとしてました。
――(吉田)卓史くんやつのけんくんがアイデアを出したりは?
倉品: それも各パートで、あります。今回は卓史もかなり自分で研究しながらギターを弾いてますし、もちろんつのけんも。
――それは聴いててすごくわかる。各自の創造力のレベルがグンと上がっていて、それぞれがその創造力を働かせながら作ったんだなって。例えば卓史くんのギターも、今までやってなかったことをたくさんやっているようだし。自分の引き出しに元からある部分以外のことをいろいろやっているというか。
倉品: 本当にそうなんですよ。
――だから、4人とも新しいところに踏み出したいという気持ちが強かったんだなって思って。
倉品: 気も熟したんでしょうね。やり残した未練を去年全部清算できたからこそ、みんな揃って「新しいほうに行くぞー!」って振り切ることができたんだと思います。
「自分の知らない引き出しを開け続けていると自分も知らない秘密の場所に辿り着けるんだな、みたいな」
――アルバムの全体像が見えてきたのは、いつぐらい?
倉品: 連続配信第5弾の「plastic」を7月の真ん中に録ってるんですけど、そこで初めて全体像が見えてきた感じでした。
――連続配信のなかでリリースする曲とアルバム用の曲というのは、自分たちのなかで意識的な違いはあったの?
延本: 連続配信で出す曲はシングルみたいな感覚で。ある程度強いというか、プレイリストに入りそうな曲を選んでましたね。
倉品: 意図の伝わりやすい曲を配信で出すっていう。「SAFARI」は5月に録っていて、その時点で「これはアルバム曲だね」って言ってとっとくことにしました。面白い曲だからアルバムのなかで光らせたいねって。そうこうしているうちに、なんとなくアルバムの全体像が見えてきて。
延本: その時点でまだ「Xanadu」は生まれてなかったけど、去年からあってとっておいた「ARMS」をアルバムの1曲目にして、2曲目は「アイス」がいいねとか話していて。そうやって曲順が見えてきたことで、全体像もぼんやり見えた。
――シンセの入った配信曲があるだけでも十分にバンドの変化を感じさせることができるから、アルバムにはシンプルな曲やスローな曲を入れてもうまくまとまるだろうという読みもあったのかな。
倉品: そうですね。配信曲がそれぞれわかりやすくイメージの違う曲なので、アルバムにはシンプルな曲も入れようって、僕のなかではそう思ってました。
――そういう意味でも、やっぱり連続配信をやったことは大きかったね。
倉品: だいぶ、でかかったです。単純に6ヶ月で6曲、バラで出せるというのがよかった。その分、遊べるから。今までだったら1枚のアルバムで1曲だけMVを作るやり方だったので、どの曲をフィーチャーすればアルバムがより広がっていけるかを真面目に考えすぎてしまって、結果的に選ぶ曲に幅がなかったんですね。だけど今回は6曲出せるので、いろんなパターンでいけるじゃんって。そういう意味で自由に遊ぶことができた。
延本: そうやっていっこいっこで遊びつつ、試練とかハプニングもありながら進んでいったら、最初の話じゃないけど自分たちの知らないゴールに辿りつけたという。こんなの作れたんだ、っていう感じでしたね。自分の知らない引き出しを開け続けていると、自分も知らない秘密の場所に辿り着けるんだな、みたいな。
――半年前の自分たちには想像もつかなかったアルバムができた。
延本: 本当にそう。
――レコーディング自体、楽しんでやれたの?
延本: 今回はハッピーな現場だったよね。
倉品: うん。修羅ってる瞬間はなかったね(笑)
延本: 連続配信ってことでサクサク録らなあかんっていうんで、修羅ってる場合じゃないっていう(笑)
――コロナで集まれない状況になったりはしなかったの?
延本: 緊急事態宣言中のレコーディングはもともと入ってなかったんです。ちょうどうまいことスケジュールが組まれてて、解除されたあとにレコーディングが入っていたので。うまい具合にすり抜けられた。神に愛されてるとしか思えない(笑)
――じゃあ、リモートで打ち合わせをするとかってこともそんなになく?
倉品: 4月はスタジオに入ってなかったので、Zoomで話し合ったりもしましたけど。あと、僕は卓史と電話でアレンジの相談をけっこうたくさんしてました。あいつから「ここ、どういうふうにしたらいいかな」って訊かれて答えたり。
――4人とも「新しいことをやりたい」「それにはどうするか」って探りながら力を合わせていったわけだね。
倉品: 80sが好きっていうのは4人とも共通していたので、みんながそれぞれ楽しいことをやろうっていう雰囲気に自然になっていった感じでしたね。
延本: 特につのけんが80sを大好きなんですよ。なので、音作りもすごくしっかり決めてきて。
倉品: もともとつのけんは音作りを明確にして持ってくるタイプなんです。でも今回は特に彼の音作りがハマったし、フレージングもしっかり決めてスタジオに来ていたので、迷って試行錯誤する時間がほとんどなかった。つのけんが打ち込んだやつをもらったら、そこで一回ラフなプリプロ音源を作って、全体像をみんながちゃんと把握したうえで本チャンに臨んでいるので、その丁寧さもよかったと思いますね。
延本: 音作りに関しては、今回すごく楽しかったし、ずっとワクワクしてました。ミックス前の録り音の時点で毎回よくて。Endhits Studioのエンジニアさんとも何回もやっているので、連携がとれて。
――それがわかる音のよさだね。
倉品: 録音の神戸(円)さんとはもう阿吽の呼吸なので。あと、清野さんを通じて知り合ったミックス・エンジニアの中村(フミト)さんとは今回初めてだったんですけど、一緒に新しい音を作っていけそうな気がしてお願いしてみたら、中村さん、80sが大好きだったんですよ。だからお互い、大喜びで。
延本: 中村さんのほうからいいアイデアをたくさん出してくれて、めちゃめちゃいいミックスをしてくれた。
倉品: 1~2曲やった段階でそれがみんなわかって、「今回、やばいもんができちゃうね」ってなって。
――明らかに今までのAPRILの作品とは感触の違う音だよね。パーンと飛び込んでくる音でありながら、しかも柔らかさもある。
倉品: そうなんですよ。中村さんの音は抜けがよくて、だけどハイが痛くない音なんです。
――キラキラしてても、しすぎてないというか。
倉品: そう! オレ、それが最強の音なんじゃないかって思ってて。
延本: 録り音がめっちゃよかった上に、ミックスでさらによくなって、みんな「おおっ!」ってなったっていう。
「4つの歯車がかみ合った感じがすごくある。がっぷり4つで一緒に作ったぞという手応えがありますね」
――あともうひとつ、今回のアルバムが素晴らしいものになった要因だと僕が考えていることがあって。それは「作詞:延本文音/作曲:倉品翔」という黄金のコンビネーションが今回戻ってきたということなんだけど。
倉品: 確かに久しぶりですね。2年ぶりくらいかな。
――2年前の『他人旅行』もそのコンビの曲はもちろん入っていたけど、あのアルバムはえんちゃんの発想がまずあって、それを汲み取りながら倉品くんが曲にしていた。えんちゃん色が濃く出た、えんちゃん主導のアルバムだったじゃない?
延本: そうですね。
――で、去年の『I MISS YOU SO LONG』は完全に倉品くん主導の作品だった。それに対して今回はフィフティ・フィフティというか、二人の役割バランスが最良のような気がして。
倉品: ああ、そうですね。そう言われると『他人旅行』とも全然違う。そっか。うん、そうかも。確かに今回、延本のアイデアや曲の着想に乗っかっていたはずなのに、不思議と自分らしい曲を作れた気がかなりしているんですよ。
延本: 全体的に、互いに影響しあって作れた感じがしますね。作詞作曲のバランスがフィフティ・フィフティというよりも、全体的にフィフティ・フィフティな感じがする。
――それって久しぶりじゃない?
延本: 確かに。
倉品: うん。確かに『他人旅行』は延本側に振って、『I MISS YOU SO LONG』は僕側に振ってって感じだったから、そう考えると……。
――『ニューフォークロア』以来?
倉品: いや、『ニューフォークロア』のときはもうちょっと僕主導だった気がするので、今回が一番いいバランスだったかも。
――どっちかの色が濃いというよりも……。
延本: うん。誰か寄りというよりは、ザ・エイプリルって感じがする。確かにそうかも。
――例えばジョン・レノンとポール・マッカートニーって全くタイプの違うソングライターだけど、ふたりの色合いが混ざったものがビートルズの傑作として残っているわけじゃない? それと同じように、倉品翔と延本文音という個性の違うふたりのソングライターの持ち味が理想的に混ざっているのが『Xanadu』だと僕は感じていて。
倉品: 曲を作る僕たちふたりもそうですけど、今回はバンドとしてもそういうところがあるんですよ。つのけんと僕、卓史と僕で一緒に作ってるところもあるし、そういう意味では4つの歯車がかみ合った感じがすごくある。がっぷり4つで一緒に作ったぞという手応えがありますね。
――なんでこのタイミングでそれができたんだろね。
倉品: なんでですかね(笑)。でも10年やってきて、やっとそれが自然にできたのかなって気がしますね。