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FUJI ROCK FESTIVAL '24

フジロックが終わってなるべく早く感想を書こうと思っていながら、目の前の仕事をこなしたりサマソニ行ったりあれしたりこれしたりしていたらあっという間に7週間も経ってしまった。こういうのはとにかく熱いうちにエイっと書かないとダメですね。「今頃?」感、ハンパない。

もう書かなくてもいいんじゃ?  とも思ったが、しかし「あの年のフジはどんなだったっけ?」とあとで振り返りたいときに、観たものくらいは書き記しておかねば、思い出したくても思い出せなくなってしまう。ただでさえ物忘れが加速しているのでね。

とはいえ7週間も経ったこのタイミングで観たアクト全部の感想をしっかり書くのもたいへんだし、記憶もぼやけ始めてるし、みなさんの興味も薄れているでしょうから、あくまでも自分のための備忘録…メモ書きとして、そこは短めにさくさくっと。それよりも全体として今年はどうだったか、初めに少し長めに書いておきます。

↑こんな感じで前夜祭を過ごし、そして7月26日(金)・27日(土)・28日(日)と存分に楽しんで、29日(月)の早朝に帰宅したフジロック2024。

今年は過ごしやすかったですね。

2023年のフジについての自分の記事を読み返してみたら「今年はまず、なんといっても人が多かった」というふうに書き出しているけど、その印象は今年はなかった。今年、前夜祭から4日間の延べ来場者数は96000人だったそうな。

苗場での25回目の開催を迎えた本フェス。今年は7月25日(木)の前夜祭から延べ4日間で96,000人の来場者を記録した(2023年は114,000人)。各日別の来場者は下記の通り。
4日間の延べ来場者数 96,000人
 7月27日(木) 14,000人(前夜祭)
 7月28日(金) 26,000人
 7月29日(土) 30,000人
 7月30日(日) 26,000人

Spincoaster News

「フジロックフェスティバル2024」は、初日のヘッドライナーとして発表されていたアメリカのアーティスト・SZAさんの出演がキャンセルになったほか、チケット代が高騰。

2015年までは3日通し券で4万円を切る中、年々価格が上昇し、昨年には5万5000円に。そして2024年は6万円へと跳ね上がっている。

多くのロックフェスティバルがコロナ禍により大きな影響を受けたが、「フジロックフェスティバル」も例に漏れず、2020年の開催は中止に。

2021年は国内アーティストのみを招聘して開催され、のべ来場者数は35,499人。2022年は69,000人。2023年は114,000人を集め、従来の来場者数に匹敵する集客となったが、2024年は96,000人に減少。前年より2万人程度少なくなる結果となった。

なお、コロナ禍前の2019年は130,000人が来場していた。

KAI-YOU.net

来場者数に関する上の記事によると、今年は「前年より2万人程度少なくなる結果となった」そうだが、毎年あの場所で4日間過ごしている自分の体感としては、これ、ちょうどいい人数だと思う。金曜日と日曜日が26000人で、土曜日が30000人。土曜日は「さすがに今日は人が多いな」と感じたが、金曜と日曜は「少ない」とも「多い」とも思わず、普通に過ごしやすかった。これが30000人を超えると途端に人が詰まって移動しづらくなったりトイレや飲食にめっちゃ並ぶことになる。

29000人くらいなら「多いなぁ」と思いながらもまだ耐えられるが、体感的に3万人がひとつの境界線で、それを超えるとさすがに不快指数が上がってしまう。主催側からしたらそりゃ入場者数が多いに越したことはないだろうが、朝霧JAMが快適さを考えて一定人数以上の客を入れないように、フジも例えば1日3万人までに抑えてもらえたらいいのだけど……まあそういうわけにはいかんでしょうな。

2023年の内本のnote記事

去年の感想にもこう書いたが、人の多さに不快になることなく過ごせるのは、僕は今年の金曜・日曜の26000人くらいまでで、30000人を超えるとあの場所のよさが一気に損なわれると感じている。「去年より2万人も減ったのか?!」「サマソニは売り切れるのにフジは苦戦しているな」「フェス不況のなかでこの先続けていけるのかどうか見えないな」といったネガティブなことをSNSでやけに言いたがる(書きたがる)人が今年も一定数いたものだが、たいがいそういうことを言いたがるのはその場にいなかった人たちで、フジロックというフェスをこよなく愛する自分からしたら来場者数の減りをそのままネガティブなだけのことと捉える気にはならない(チケット収入が厳しくなるならスポンサーで稼げばいい)。恐らくフジロッカーを自認している人の多くはそんな思いでいるんじゃないか。だって、人は多すぎないほうが快適だもの。

国外アーティストがフェスより単独ツアーに力を入れるようになった昨今の状況変化であるとか、単独のツアーをキャンセルまたは規模縮小するアーティストが増えているといった状況変化もそれなりに認識しているつもりだが、ならばもっと出演者の数が絞られたっていいと思うし、自分はそれでもかまわない。仮に1日3~4組しか海外アーティストが観られないことになったとて、フジならでは・スマッシュならではの審美眼が働いてさえいれば、わざわざそれを観に行く価値は十分ある。なんなら今が旬の売れっ子アーティストがいなくてもかまわない(そっちの役割はサマソニが果たしてくれている)。大メジャーのアーティストが出なくともライブのいいインディー・アーティストをいくつか観れるならそれでいい(今年で言うなら例えばKING KRULEとかそういうやつ)。また国内ミュージシャンが増えるもそれはそれでよし(パンデミックが深刻な状況となって国内アーティストのみの出演で行なわれた2021年のフジロックだって十分よかった)。自然に恵まれたあの環境で、そしてほかのどのフェスよりも音響の素晴らしいフジで、ライブのいいアーティストを複数観れるということだけで十分に価値があるのだ。

そんなわけで人の数的には、繰り返すが今年はちょうどよかった。飲食もどこもさほど並ぶことなくスムーズに買えた。昨年は人の多さに見合った移動基地局をキャリアが確保できずに通信輻輳が起きまくって、LINEができなくなったり、オールキャッシュレス決済を謳ったはいいけどエラー続出で何十分も並ぶことになったりしたものだったが、そのあたりも全て解消。フェスにおけるキャッシュレス決済の便利さをようやく実感することにもなった。

天候にも恵まれた。去年はあまりの暑さに体力を奪われ、ステージ移動もきつかったが、今年は(昼間のある時間帯はそれなりに暑かったとはいえ)そこまでの酷暑ではなく、以前のように大雨に降られることもなかった(降った時間もあったが、長くは続かなかったし、そのときは運よくレッドマーキーにいたりで濡れずに済んだ)。水やスポーツドリンクをスムーズに買えたのもよかった(去年は売り切れ店が続出していた)。

それと、今年大きく改善されていたのがトイレで、それはもう「素晴らしい!」と思えるほどだった。洋式トイレと女子トイレ、さらには清掃スタッフの数もかなり増え、どこも驚くほどキレイだったし、長々と並ぶこともなかった。野外フェスはトイレが汚いから行く気がしない……という人にも、フジはそんなことないよとすすめられる。

チケット代が高騰しても、こうしたアップデートがなされて快適度数があがるのなら、僕はいいじゃないかと思う。確かに安くはない。が、それでもあの場所、あのフェスでしか得ることのできない幸福感と生きてる実感というものを得ることができるのだから、僕はカラダが言うこと利かなくなるまで行き続けたい。そう思うくらいにフジを信頼している。そしてそのためにはやはり体力作りが必要。いつまでフジロックを存分に楽しめる気力体力を保持できるかはここ数年わりと真剣に考えているのだが、とりあえず70代前半くらいまで(あと10年ちょっと)は毎年フジを楽しみに生きていければいいなと思っている。

では、今年観たものについて簡単に。

7月26日(金)

観たのは以下の通り。

Rei(アヴァロン)→YELLOW DAYS(レッド)→ROUTE17 Rock'n Roll ORCHESTRA(グリーン。終盤の数曲)→FRIKO(グリーン。前半4~5曲)→ERIKA DE CASIER(レッド)→TEDDY SWIMS(ホワイト。2~3曲)→OMAR APOLLO(グリーン。途中まで)→KING KRULE(レッド)→FLOATING POINTS(レッド)→THE KILLERS(グリーン。前半4曲くらい)→PEGGY GOU(ホワイト)→ADDIS PABLO with ROCKERS FAR EAST(パレステント)。

グリーンでやってたindigo la Endをチラ見しながらジプシーアヴァロンへと一気に登り、Reiからスタート。単独でのフジ出演は久しぶりとあっていつにも増して気合い入ってたな、Reiちゃん。シャウトを何度も。元CHAIのユナのドラムが相当よくてバンドの強度を高めていた。YELLOW DAYSはダルなインディー・サイケ・ブルーズといった感じ。面白い。ROUTE17 Rock'n Roll ORCHESTRAはトータス松本が呼び込まれるところから観た。オーティス・レディングの「トライ・ア・リトル・テンダネス」などを歌って、締めは(マントはなかったけど)マントショー。そこから伝わるJ.B.…というより清志郎愛。そのあとTOSHI-LOWほかこの日の出演者が加わってThe Birthdayの「涙がこぼれそう」をレゲエ風味で(このアレンジはあまりよくなかった)。そのままグリーンでFRIKO。若き情熱。若さがまぶしい。シンプルなようでいてメンバーたちの引き出しの広さ(ポストパンクからチェンバーまで)も感じたり。好き。ERIKA DE CASIERはドラムとふたり編成で、そのドラマーが凄腕。そこに乗るヴォーカルの浮遊感がまあ気持ちいいこと。そしてTEDDY SWIMSの濃厚さにクラッとなって、パジャマみたいなカッコで歌ってたOMAR APOLLOに清涼感を得る。音源の印象から昨年のDANIEL CAESARみたいにスローでメロウでチルな感じを想像していたが、後半とかけっこうダンサブルに攻めていて、へえ~っとなった。単独公演希望。

今年一番楽しみにしていたのがKING KRULE。今年というか、いつかフジで観れる日がきっと来るだろうと、もう何年もこのときを僕は夢見続けてきた。それだけに興奮し、そして胸がいっぱいに。期待に300%応えてくれたと言える最高のライブ。カッコよすぎ&色っぽすぎ。KING KRULEのフジ初出演がbetcover!!のフジ初出演と同じ年だったことにも偶然ではない何かを感じたり。FLOATING POINTSがまた音も映像もとてつもなくて爆上がり。ヘッドライナーのTHE KILLERSを4曲くらい聴いて移動し、ホワイトのPEGGY GOUのディープハウスでまたも爆上がり。煙草に火をつけるなどひとつひとつの所作がいちいちクールで、DJってえのはそうしたかっこよさもめっちゃ大事だよなぁと実感した。後半がとりわけ凄かったですね。

この日のシメは、クリスタルパレステントでADDIS PABLO with ROCKERS FAR EAST。自分が20代の頃にハマって聴いてたオーガスタス・パブロの息子さん。9歳のときにお父さんが亡くなってしまったので直接手ほどきは受けてないそうな。オーガスタスの生演奏を聴くことはできなかったけど、きっとこんな感じだったんだろうなぁと、アディスのピアニカ吹奏を聴きながらそう思った。日本人バンドもよかった。振動が凄かった。パレステントにレゲエ~ダブはよく合うね。めちゃめちゃよくて大満足で帰宿。

会場にいたのは13時間半。ベストアクトはKING KRULE。ADDIS PABLO with ROCKERS FAR EASTも忘れ難い。

グリーンで息子のギャズ・メイオールや日高大将始め多くの関係者がジョン・メイオールを追悼

7月27日(土)

観たのは以下の通り。

Hedigan's(レッド)→THE LAST DINNER PARTY(グリーン)→GLASS BEAMS(レッド。中盤の3~4曲)→KITTY LIV(ヘブン)→七尾旅人(アヴァロン。後半3~4曲)→NONAME(レッド)→BETH GIBBONS(グリーン)→KRAFTWERK(グリーン。前半4曲程度)→THE YUSSEF DAYES EXPERIENCE(ヘブン。途中から)→girl in red(ホワイト。後半数曲)→SAKURA CIRCUS(パレスアリーナ)

11時半からのHedigan'sでスタート。友達のいるバンドなので絶対観るべく早めの行動。けっこう早くにレッドに入って中央の前方で妻と一緒にスタンバイ。2月のクアトロ、3月のWWW、5月のFUJI&SUNと観てきたが、結論から書くとこのフジのレッドマーキーが一番よかったんじゃないか。気合い入りながらもそうとは見えない自由な演奏、自由な振る舞い。YONCEは「面白いですかー?」とふてぶてしい言葉を投げかけ(「楽しんでますかー?」というMCはよくあるけど、「面白いですかー?」って言う人、初めてだわ)、ベースの本村さんはニヤニヤしながら腰をふっておかしな踊りをしたり叫んだりして、まーちゃんは荒々しくノイジーにギターを弾いて最後は鳴り物のブタを客席に投げ込んでいた。ダブの「説教くさい~」から「敗北の作法」の流れが狂気を孕んでいてとりわけ最高。30分5曲の短いライブだったが、初めて観る人たちは間違いなくぶっとばされたんじゃないか。来年は夕方のホワイトあたりを希望。それ、いける気がする。

この日僕と妻が特に楽しみにしてたのがTHE LAST DINNER PARTY。コーチェラ配信で見てすっかりファンになった故(木曜の単独公演も観たかったんだが、フジ前夜祭とかぶって諦め、このグリーンのライブにかけた!)。5人は思い思いのカッコでステージにいて、けっこう自由奔放にプレイ。そこがいいんだなぁ。世に衣装やフリを揃えてプレイするフィメールグループは古今数多あったが、彼女たちは違う。各自が自分の趣味やセンスを貫きながらバンドに参加している。けれども不思議とバラバラな印象はなく、まとまっている。もちろんアンサンブルはバッチリ。サービス精神というかガチのコミュニケーション取りましょう精神もしっかりあって、ヴォーカルのアビゲイルはステージを降りて前のほうの客のなかに分け入っての熱演を。ブロンディーの「コール・ミー」も彼女たちにぴったりだった。フジで観れたの幸せ。

THE LAST DINNER PARTYを最後まで観て余韻に浸ってたら、既に始まってたレッドのGLASS BEAMSがめちゃ混みで中に進めず。こんなに人気あんの?と驚きつつ、それでも無理に中のほうに入って麻薬的な音に数分間溺れてみた……がしかし、人の多さと湿気に耐えられず途中退出(彼らの演奏自体は中毒性が高くて最高だったんだが)。KITTY LIVを観るべくヘブンへ。昨年秋の朝霧&クアトロ公演も記憶に新しいキティー・デイジー&ルイス、その次女キティーさんの初ソロライブ。ベースは兄のルイスくんで、ドラムはキティーさんの旦那さん(ミステリー・ジェッツのメンバーだそうな)。長女デイジーはおらずともやはり家族バンド。でもソロってことでフロントの自覚がしっかり芽生えていて、キティー・デイジー&ルイスのときより気合い入ってる感じでめちゃめちゃよかった。キティー・デイジー&ルイスのときと同じように楽器のスイッチングもあり。よって観客たちも大盛り上がり。なんてゴキゲンなライブなんでしょ。来年の単独も行くことに決めた。

KITTY LIV終わって、アヴァロンへ。間に合わないだろうと思っていた七尾旅人、時間が押した(というか旅人がねばった)ため3~4曲聴けた。若くして亡くなった2人のパレスチナ人に捧げる歌とそれについての話は胸に迫るものがあった。そのあとレッドまでおりて、NONAME。ほどよいオールドスクール感及びソウル感がありながらも現代的という絶妙なバランス。喋るようにラップし、ラップするように喋る。気持ちいい。そのあとグリーンの後ろのほうに座ってBETH GIBBONSの歌声にじっくり耳を傾ける。幽玄。想像してた以上に素晴らしい。終盤では遂にポーティスヘッドの曲もやり、割れんばかりの拍手を浴びて(日本語で)「みなさんは優しい」とギボンズさん。いろんな思いが溢れ出してる感じで、それ見て泣いちゃいましたよ僕。

久しぶりのKRAFTWERK。グリーンに未来的な映像が映えるも、音がずいぶんと小さい。そばで見てた人たちの話し声のほうが大きいくらい。THE YUSSEF DAYES EXPERIENCEも観たかったので、4曲程度聴いてヘブンに移動。よってSNSで話題になってた「Radioactivity」と「戦場のメリークリスマス」は聴けなかった。ヘブンで途中からTHE YUSSEF DAYES EXPERIENCE。ああ、初めから素直にこっちを観るべきだった。何もかもが桁違い。超絶技巧×超絶技巧=至福体験、といった感じ。途中でブルーノート公演のときに知り合ったという奄美三味線の城南海さんがステージに呼ばれてセッション。彼女の三味線も唄も凄かったし、それとジャズ的なバンド演奏との融合の妙にも唸らされた。懐深きサウスロンドンジャズ。終わって急いでホワイトに移動してgirl in redを。マリー、成長したなぁと観ながら思ったし、堂々ホワイトのトリをつとめるまでになるなんてと感慨深いものがあった。それにしても大抵ダンス系を持ってくる土曜のホワイトのトリにgirl in redを持ってくるとは、スマッシュさん、思い切ったな。

まだまだ夜はこれからで、土曜の深夜ともなれば例年は呑んで踊って絶好調になってるところなのだが、齢ですかね、足の疲労が相当きつくて、パレスアリーナでSAKURA CIRCUSの空中ブランコを座って観てたらこれで終わりにしてもいいかという気分に。翌日も午前中から観たいものがあったので、まだ1時前だというのにおとなしく帰宿。

会場にいたのは14時間。ベストアクトは……うーん、ひとつだけ選ぶのは難しい。THE LAST DINNER PARTYもKITTY LIVもBETH GIBBONSも素晴らしかったけど、ひとつとなるとTHE YUSSEF DAYES EXPERIENCEかな。

7月28日(日)

観たのは以下の通り。

betcover!!(レッド)→RUFUS WAINWRIGHT(グリーン)→WEEKEND LOVERS 2024(レッド)→THE JESUS AND MARY CHAIN(ホワイト。途中まで)→RAYE(グリーン)→CELEBRATION OF METERS FEATURING GEORGE PORTER JR.、IVAN NEVILLE、TONY HALL、IAN NEVILLE & DEVEN TRUSCLAIR(ヘブン。途中まで)→KIM GORDON(ホワイト)→THE ALLMAN BETTS BAND(ヘブン。中盤15分程度)→あらかじめ決められた恋人たちへ(ピラミッドガーデン)

この日も8時から宿でしっかり朝食をとって早めに行動。11時半のレッドのbetcover!!からスタートした。因みに今年はなんとお酒を3日間まったく飲まなかった(画期的!!)。飲んだのは前夜祭のときのいい茶こ1杯だけ。いつもならヘッドライナーが終わってから深夜まで呑んで遊んでウヒョ~ってなって…というのがフジの楽しみ方なんだが、今年は3日間とも午前中からどうしても観たいものがあったので(1日目がRei、2日目がHedigan's、3日目がbetcover!!)、夜遊びを控えめにして早めに(といっても1時過ぎとかだったが)宿に戻るようにしたのだ。なので3日間とも8時からの宿の朝食をしっかり食べて、友達と宿の外でゆっくりコーヒー飲んで、11時前後には会場に。健康的なフジロック。

これまで何度もライブを観ているが、フジで観るのが夢だったbetvover!!。長くやってたドラムのロクロー氏が抜けて、鍵盤のロマンチック☆安田氏もフジの1ヵ月くらい前に抜けて、バンドとしては今が過渡期なのかもと先月あたりは思っていたのだけど杞憂だった。待望だったフジロック初出演に相応しい圧巻のライブ。今のメンバーになって短い期間でここまでのアンサンブルにもっていったのだから、柳瀬二郎、バンマスとしても相当すごい。最後に「betcover!!」というロゴがスクリーンにバーンと出たその瞬間、ドラマの見事なエンディングのようでなんか涙が出てしまった(横で観てた妻も同じタイミングで泣き、近くにいた女性も泣いていた)。

大満足でグリーンに動いて、寝転びながらRUFUS WAINWRIGHTを(なんて贅沢な)。しかもピアノ弾き語り。「イッショニオチコモウ」なんて言いながら歌に思いを込める。背景映像も素敵。ここは天国か、ってな気分に。再びレッドに戻って、WEEKEND LOVERS 2024LOSALIOS、そしてThe Birthday。チバが不在でも彼のスピリットはその両方ともにあった、と感じた。The Birthdayのステージではフジイケンジを中心に「月光」が演奏され、彼があのフレーズを放った。僕が最後にThe Birthdayを観たのは2021年のフジロック・ホワイトステージで、そのとき最も刺さったのが「月光」であり、「お前の想像力が現実をひっくり返すんだ」というそのフレーズでもあり、なぜならそれはコロナ禍真っ只中のチバの思いであり伝えたいことでもあって、僕はその言葉に救われもしたので、チバに代わってフジイがそれを言ったときに胸にズンときた。それからヒライハルキとクハラカズユキが歌った「サイダー」。ハルキは普段MCなんかしないのにしっかり話そうとしていて、「泣きたければ泣けばいい…オレもさんざん泣いたし、やっぱ未だに毎日思い出すしね...…でもせっかくフジロックきたわけでしょ、もうちょっと演奏してくから涙してる人たちも一瞬でも笑顔になって帰ってくれたら…」とか言ってて、その言葉にグッときた。BOSS THE MCが参加しての「ハレルヤ」、それからLOSALIOSのメンバーたちとYONCEが加わっての「ローリン」。昔、ライジングサンロックフェスでチバが歌ってるときにスッとYONCEがチバの横に来て「なんだよオマエ、おどかすなよ」とかチバが言って笑ってたのを思い出し、またグッときてしまった。

ホワイトでTHE JESUS AND MARY CHAIN。大昔にチッタで観て以来なので一体何年振りなのかってくらい久々に観たんだが、音が思いのほか小さく彼ららしい音の暴力性も薄れてて、いまいち迫ってくるものがない。ので途中で離れてグリーンへと動き、楽しみにしていたRAYEを。エイミー・ワインハウスがやっていた音楽性をより健全というか健康的にブラッシュアップして明るく華やかに、といった感じ。RAYEの歌唱っぷりはそれはもう堂々たるもので、エイミーのような危うさとか不良性みたいなものは少しもない(エイミーはその危うさが魅力でもあったわけだけど)。エイミーが生きてたら真似すんなと怒ったかもしれないけど、ああいうレトロモダンなジャズ/ソウルは今も全然有効だし、この路線を今引き継ぐのも正解だと思った。J.B.の「マンズ・マンズ・ワールド」のカヴァー含め、ゴージャス感もあったし、よく喋る彼女のキャラのよさも伝わってきたしね。

ヘブンでCELEBRATION OF METERS。ヘブンでニューオーリンズファンクとなればよくないはずがない。George Porter Jrが加わってからその濃度がグッと増した感。しかしホワイトでのKIM GORDONをしっかり観たかったので途中抜け。KIM GORDONは佇まいもファッションも楽器の持ち方も声の出し方も全てがあまりにもかっこよかった。71歳の彼女よりずっと年下のサポメンたちの演奏もしっかりしていて&キムへの敬意が感じられて(特にベースのお姉さん)、バンドとしても実によかった。リズムボックス使いも上手く(チープさはゼロ)、インダストリアルからガレージパンクまでホワイトステージならではの音響のよさも手伝って何をやっても超最高。真のカッコよさは精神に宿るんだなー、とつくづく。最後の「バイ・バイ」は最初の「バイ・バイ」と比べて破壊力が倍化していた。感動。もうこれで締めでいいやという気分になって、しばらく余韻に浸りながらところ天国でチル。

休んでからヘブンにTHE ALLMAN BETTS BANDを観に行ったんだが、いくらなんでもってくらいに音がデカすぎて耳が痛くなるほど。非情に盛り上がっていたし、これを観に来たという友達はめっちゃ感動していたけど、僕にはあのバカデカの音量はちときびしかった。4日目の疲れもあって、このあとレッドでもうひと盛り上がりするのもやめ、ここから妻とふたり、宿の近くのピラミッドガーデンへ。焚き火の近くでしばらくチルっと過ごし、そのあと、あらかじめ決められた恋人たちへを観た。あら恋は久しぶりに観たんだが、圧巻だった。特別な時間( 0時過ぎ )、特別な場所ということも手伝い、魂が震えた。いまここにいる人たちみんなのことを信じられる、とか思ったりもした。そして大名曲「Back」を聴きながら、“僕はいま生きている“と実感して、なんか涙が溢れ出てしまった。4日間の締めをこの場所でのあら恋にして本当によかったと思った。

会場にいたのは14時間。この日のベストアクトはKIM GORDON。

ところで。2023年のフジロックの感想記事で、僕は「50代60代の客の減少について思うこと」を書いた。以下がそれ。

(ほぼ)毎年一緒に行っている60代半ばの友達と現地で会うと、彼がこんな言葉を口にした。「今年は観たいものがあんまりなくて」。(中略)    彼曰く「フジだからこそのブルーズやソウルのアーティストが今年はいない。去年もそうだったけど、もっとそうなってる」と。言われてみれば確かにかつてヘブンや今はなきオレンジコートに必ず何組か出ていたブルーズやソウルのレジェンド級アーティストの名前が見当たらず、ジャムバンドっぽいのもない(金曜のヘブンのTHE BUDOS BANDがまあそれに近い役割を果たしてはいたが)。国内ミュージシャンを見ても長くやり続けているベテランが今年は少なく、例えば木村充揮とかCHARとかCHABOとかそういう人の名前もなかった(とはいえ加藤登紀子は今年も出ていたし、前夜祭には紫が出たし、なんたって矢沢永吉の初出演もあったので、ベテランが少ないと言い切ることはできないけれど)。エレクトロやテクノが嫌いで、新しい音楽をほとんど聴かず、ブルーズ成分のまったく入っていない音楽は認めないとか言っちゃうその友達が今年あまり楽しそうじゃなかったのは、だからわからなくはない。で、そう考えてみると、実際50代60代の客が(2019年以前と比べて)ずいぶん減ったように感じられもした。

(中略)    一時期、フジはサマソニに比べて若い客が少ない、どれだけ若い客が呼べて新陳代謝していけるかが課題だ、ということがずいぶん言われていたものだったが、今年は旬のアーティストが増えたのと比例してまあまあ若い客が増えていたようだったのはある意味での成功だっただろう。が、その分、50代60代の客の減少を実感したのは、自分的にはちょっと寂しくもあったところだ。2000年代から2010年代半ば頃まではよく会場で会ったり見かけたりした先輩ライターや先輩編集者に、今はもうそこで会うことはない。それぞれにそれぞれの行かなくなる理由というものがあるのだろうけど。

自分はといえば、還暦を迎えても相変わらずあの場所が好きだし、あの場所でライブを観ること特有の幸福感が変わらずあるし、観たいものが多すぎてカラダひとつじゃ足りないと感じるのも25年間変わらないことだ。観たことのない若くて新しいアーティストのライブもたくさん観たいし、長くやり続けているベテランアーティストのライブもあの場所でもっとたくさん観たい(ずいぶん前に出たサム・ムーアとかブッカー・T・ジョーンズとかのライブの感動が未だ忘れ難かったりもするので)。そして例えばレッドでまさに今が見頃の新しいアーティストがライブをやっているその時間に、ヘブンでは大ベテランのブルーズやソウル系アーティストがライブをやっている……みたいなことが本来のフジの懐の大きさだと思っているし、どっちかの一定のファン層だけじゃなく20代から60代までの客が混在して、ときには互いの好みのアーティストのよさを教えあったりもしているというような場面も見られるのがサマソニにはないフジの素敵さだとも思っているので、出演者・客ともにそのあたりのバランスがいい感じで保たれながらこれからも続いていくといいなぁと改めて考えもした今年のフジだった。若い人が行ってみたいと思えるフェスでありながら、長く行き続けている50代60代の人が今もワクワクできる、そんな数少ないフェスであり続けてくれることを僕は願っている。

昨年の内本のnoteより

今年はどうだったかというと、去年に比べて50代60代の観客がずいぶん戻って来たように感じられた。上の文にも登場する僕の友達(60代半ば)がそうだが、それ、CELEBRATION OF METERSとTHE ALLMAN BETTS BANDが出演したことがかなり大きかったんじゃないかと思う。僕の友達は初め、もうフジから卒業してもいいかも、といったようなことを言っていたのだが、この二組の出演が決定したことでその言葉を撤回。彼はほとんどの時間をヘブンまたはアヴァロンで過ごしていて、この二組に関してはとりわけ熱くなって楽しんでいたみたいだ。実際のところ、この二組に限らず、ヘブンの観客年齢層はレッドなどと比較して遥かに高かったが、それはそれでとてもいいバイブスが生まれているように感じられた。今年のサマソニは去年まではあったベテランアーティスト枠をなくし、完全に若者のためのフェスに舵を切ってしまったが、フジが今年になってこうしたレジェンド枠をもう一度設け直し、年齢層高めの客を戻すべく動いたのは高く評価したいところ(えらそうですみません)。「若い人が行ってみたいと思えるフェスでありながら、長く行き続けている50代60代の人が今もワクワクできる、そんな数少ないフェスであり続けてくれることを僕は願っている」と去年書いたが、もう一度そういうふうになりつつあるのなら、それは喜ばしいことだ。全体の入場者数が減ったとて、そのように年齢層的にもいいバランスで続いていってほしいし、若い人の多いレッド、高齢者の多いヘブンといったふうに場所で分かれるでなく、それが自然に混ざり合うようになったらもっとステキじゃないかとも思う(かつてはけっこうそういうふうだったのだ)。

来年はそのあたり、どんなバランスになるのか。まあ出演アーティスト次第ってところもあるでしょうけど、あまり偏らないことを期待しつつ……また来年!

こちらは昨年のフジロックの感想 ↑


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