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アリス@日本武道館

2024年9月18日(水)

日本武道館で、アリス。
「アリス コンサート2024 ALICE FOREVER ~アリガトウ~」。

*このあと10月に大阪城ホール公演があるので、構成やセトリについてはなるべく書かないでおきますが、自分にとってとりわけ印象的だった数曲のみ曲名も出しています。大阪城ホール公演をご覧になられる方はご注意を。

前にも書いたことだが、中学1年のときに母に連れられ初めてコンサートというものを観た。神田共立講堂で行なわれた「アリス、バンバン、ジョイントコンサート」だ。コンサートとはこんなにも楽しいものなのか、こんなにも感動できるものなのかと感じ、以来、アリスの大ファンになり、コンサートというもの自体を好きになった。自分が今でもライブ至上主義で、ライブを観ることを何よりも好きでいる、そのきっかけとなったのがアリスだったわけだ。

何度もアリスを武道館で観たし、初めての武道館公演のことも覚えている。でもまさかこういう形で、武道館でアリスを観る日が来ようとは思わなかった。席に座って開演を待つ、その間の気持ちは、これまでのそれとはずいぶん違って少し複雑だった。会場に集まった大勢の人たちもおとなしいように感じられた。開演を待つ間のみんなのワクワク感のようなものは伝わってこなかった。

先日の「徹子の部屋」にべーやんとキンちゃんが出たとき、ふたりはこのコンサートを「区切り」だと話していた。武道館の席にあったパンフレット的な無料冊子にべーやんとキンちゃんのインタビューが載っていて、そこではキンちゃんが「どんな形かは模索中ですが、アリスの歌を継承していくことは僕たちの使命だと思っています」と話している。なんらかの形でアリスの歌を継承していく意思を持ってくれているわけだ……が、それでもこのライブが「区切り」であることは間違いなかった。キンちゃんにとっての区切り。べーやんにとっての区切り。アリスにとっての区切り。サポートミュージシャンたちやスタッフたちにとっての区切り。ファンであったひとりひとりにとっての区切り。自分にとっての区切り。もうこの規模でアリスのライブを観ることは恐らくないだろう。もしかしたらなんらかの形でまたふたりが同じステージに立ってアリスの曲を演奏することはあるかもしれないけれど、でもこの規模で、こうした形でやることは(このあと大阪城ホールがあるとはいえ)もう2度とないだろう。即ちこれは、谷村新司の追悼コンサートであると同時に、アリスの最後のコンサートとなるのだろう。そんなことも思いながら僕は開演を待った。

結論から書くと、しかし最後のコンサートというムードは、想像したほどには出ていなかった(大阪城ホールのほうはもっと出るのかもしれない。わからないけど)。それよりもべーやんとキンちゃんは、とにかくこのコンサートをいいものにしよう、悔いを残すことなく精いっぱいやろうと考え、そうしているようだった。べーやんは進行の役目も務め、フロントをひとりで担うわけなので、それ相応の重責も感じているようだった。キンちゃんは谷村さんに誇れるように過去最高のプレイをしようと務めているようだった。いずれにせよステージにいるふたりに、これが区切りだとか、これからどう進むかとか、そんなことを考えている様子は少しももなく、とにかく「今」を最高の時間にするべく演奏して歌っているようだった。谷村さんのためにもそうすべきだと心を決めてそこに立っていたのだろう。

最後のコンサートというムードはだからそれほど出ていなかったが、谷村さんへのふたりの思いは強く出ていた。それはもう、観ていて胸が締め付けられるほどに。

初めにベーやんが2曲歌い終えてキンちゃんを紹介したあと、「僕らの永遠のリーダーです。谷村新司!」と名を呼ぶと、在りし日の谷村さんの姿が背後のLEDビジョンいっぱいに映し出され、その画面上の谷村さんが「ボーカル、ギター、堀内孝雄!」と返した。始まってまだ10数分。この段階でべーやんはもう泣いていた。当たり前のように谷村さんからそのようにして名前を呼んでもらっていた長い長いライブデイズがよみがえってしまったのだろう。「胸がいっぱいです、本当に。頭っからもう……」と、べーやんは声を震わせた。その後もべーやんは何度か泣いた。

キンちゃんはというと、まずこの日のドラム・プレイが本当にすごかった。アリスのライブ史上、最高のドラムを叩こう。その意志が強く伝わってくるものだった。75歳であんなふうに叩けるというのはある意味驚異的だ。そのキンちゃんが1曲だけ歌うコーナーが、いつものアリスのライブと同じようにこの日もあった。いつものアリスのライブのように飄々とした感じでしばらく話し、笑わせ、そしてこの曲をピアノを弾いて歌った。「あなたがいるだけで」。唯一のソロ作『バラエティー・ツアー』収録曲だが、アリスのライブでも何度か歌っていた、キンちゃんにしては感情を込めて歌う(そうせずにはいられない)曲で、解散ライブとなった『3人だけの後楽園~VERY LAST DAY~』では途中で声を詰まらせてもいた。その「あなたがいるだけで」を、この夜、キンちゃんは、はっきりと谷村さんへの自分の思いとして歌っていた。この夜、ここで歌われた「あなた」は谷村さんのことだった。

「静かに降りた夜は 風もひそやかに いつものひとりの部屋 あなたを想う」「ああ、こんな優しい夜に あなたを想うことができる それだけで私はもう 満たされてしまう」「願わくはこの唄が あなたの眠りを さまたげることなく 流れて それだけ」

キンちゃんは、泣いてしまいそうになるギリギリのところでなんとか踏みとどまりながら最後まで、想いをこめて、歌った。でも聴いている僕は、もうダメだった。泣くまいと思いながらこのライブを観に行ったのだけど、キンちゃんの想いに気持ちが重なった途端に涙がどうしようもなく溢れ出てしまった。歌い終わったときに「はい!」とあえてそのムードを断ち切るようにキンちゃんが言ったのは、照れだとか、この1曲を歌い終えたら気持ちを切り替えるんだといったいろんな思いがあったからだろう。そういうところがキンちゃんらしい。だけどその、祈りのようなキンちゃんの歌は、想いは、しばらく僕の心にとどまり続けた。僕はこの夜のキンちゃんのこの歌をずっと忘れないだろう。

ブレイク以前の曲から、国民的グループになって以降の曲まで、いいバランスで選曲されていたが、ライブのタイトルの通りに、とりわけファンたちへの「アリガトウ」の気持ちを形にしたかのようなセットリストだった。そのなかに、僕はライブで聴いたことがなかった後期の「ユズリハ」が入っていたのは意外なようでいて、しかしその歌詞はこのライブに相応しいものだった。「こんなに遠くまで 歩いてきたんだね 振り返ることも忘れ 歩いてきたんだね」。そんなふうに歌いだされるこの歌詞を書いたのは谷村新司だ。まるでこの日に歌われるために書かれた歌詞のように思えた。

ライブ後半、べーやんの歌&ギターとキンちゃんのドラムは進むにつれてどんどん熱を帯びていった。また、LEDビジョンには度々谷村さんの姿が映し出され、まるで本当にそこにいるかの如く谷村さんの歌と演奏(とMC)がシンクロされていた。LEDビジョンだけ観ていれば、それは3人のアリスのライブだった。が、視線を少し落としてステージを見ると、谷村さんの立っているはずの位置には誰もいない。「ああ、3人のアリスだな」という思いと「ああ、谷村さんはもういないんだな」という思いが自分のなかで行ったり来たりした。

いろんな思いの巡るライブだった。観終えての気持ちを言葉にするのはなかなか難しいけれど、とにかくべーやんとキンちゃんにはこの機会をもうけてくれてアリガトウとお伝えしたい。

因みにコンサートの始まりにインストゥルメンタルで流れていたのは「夏の終わりに」だった。アリスの全楽曲のなかで、僕にとってはトップ3に入るくらいに思い入れの強い曲だ。2024年の蒸し暑い夏の終わりに2024年のアリスを観た。そのことを長く覚えておきたい。



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