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ザ・たこさん、吾妻光良トリオ+1、ハッチェル4@新宿レッドクロス
2022年10月23日(日)
新宿紅布で「新宿コネクション」。出演はザ・たこさん、吾妻光良トリオ+1、ハッチェル4。
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パンデミックが起こって2020年3月頃からライブがなくなり、多くの人々の生活様式が変化し、やがて少しずつ(声出し禁止といったルール付きで)有観客のライブが復活しだし、今年は数ヵ月前から徐々に声出しもOKになってきた。そんななかでの今回のこのライブ。というのがひとつ。
近年のシティポップブームもあってか、こ洒落てて耳心地がよくて軽快に流れていく音楽ばかりになって、ライブのアプローチも洗練第一みたいなバンドが増えてきて、ファンクを取り入れましたみたいなこと言うアーティストの新曲を聴けばそれはまさしく「取り入れた」だけのことで根や茎はとりたててファンクじゃない、みたいなものも増えてきた昨今。そんななかでのこのライブ。というのがもうひとつ。
まあそんなこともあり、昨夜のこのライブを観ながら、そうだ、この2~3年で足りてなかったのはこれなのだ、と僕は思った。ようやく足りてなかったピースが見つかって自分にカチッとハマった感覚があった。
ばかばかしくて素晴らしい。可笑しくって泣けてくる。その「粋」を求めて何十年。ってなひとたちの濃度の高い「音」と「芸」が、そういえばこの数年不足してたことに気がついて、やっぱりこれがなくっちゃね、やっぱりこれがいいのよねと、そう実感した一夜でありました。
出演順は意外性ありで、実に3年ぶりの超待望の関東公演なのだからトリだろうと思っていたザ・たこさんがなんと初っ端。あれだけ追いかけてた自分が観るのも2019年11月の逗子の「マッチポイント」以来だから3年ぶりで、新リズム隊になってからは今回が初めてだった(ジョニーT在籍期は結局一度も観れなかった)。
というわけで、2020年加入のベーシスト、イケイクゾーと、今年3月に加入したドラマーのヨシ・オカダ(パイレーツ・カヌー)、この新たなリズムセクションでのザ・たこさん東京初ライブ。なんとヨッシー氏は右肩骨折中での出演となった。
ゴーストバスターズのテーマに乗った登場からして新鮮。ヨシ・オカダによる「レディース&ジェントルマン、ジス・イズ・たこさんアワー」の掛け声もクールな吉永氏と全然違うベクトルで面白い。「カッコイイから大丈夫」~「あんたはギビトゥミ」は聴きなれた曲ながらも、やはりリズム隊が変われば変わるもんだなと。現体制になって約半年ちょいだが、息が合っててこなれている。で、新曲「OVER UP, 尾花!」はシンプル故のキャッチーさと強度があるファンクチューン(Tシャツ、買いました)。「愛の讃歌」はザ・たこさん初見の人たちにもぶっ刺さったようだった。「コッチ・マーレー」はイントロから現行リズムセクションの特徴と良さがわかりやすく出ていた。ジョニーT在籍期の、ニューオーリンズにかなり寄ったアレンジも面白く聴いたものだったが、ヨシ・オカダはそのニュアンスも入れながらレコード時のニュアンスも少し戻していい塩梅に混ぜている印象。お馴染み「ケンタッキーの東」も「鯖 Part2」もタイトなリズムが新鮮だった。といった感じの45分。
変わってない、けど、変わったと言えばいろいろ変わったような。
変わった、けど、変わってないと言えば何も変わってないような。
そんな2022年のザ・たこさん。来年は結成30周年ということで、ぜひまた関東でも活発にライブしまくってほしいもんです。
2番手は吾妻光良トリオ+1。ザ・たこさんのあとともなればそりゃやりにくさもあるだろうが、そこは老熟の揺るがなさ。演奏が始まればいつもの吾妻さんペースで客を引き込み、ハワイアンに挑んだ新曲なんぞも混ぜつつじわじわと熱を高めていく。フロアで観ていた山口しんじが、いやぁ、すごいわ、同じギターでも僕には絶対あんなふうには弾けない、と後で僕に言ったのも印象的だった。
トリはハッチェル4。その名の通り、ハッチとギター、ベース、ドラムによる4人編成。ハッチハッチェルバンド、ハッチェルズなど時期によって編成と名称を変えて活動を続けているハッチだが、今はこの形態で定着しているのかな。この形を観るのは初めてだったが、なんといっても「サイゼリア本店」という曲が最高。笑った。キンクスの「ビクトリア」からヒントを得たと聞いてまた笑った。ハッチハッチェルバンド期の代表曲「調子っぱずれに祝福あれ」の現4人編成バージョンも今だからこそなんかすごくよかった。それにあれだ、イエーと言ってイエーと返す、そのしばらくできずにいたコール&レスポンスが叶ったことに、ハッチは喜びをかみしめてもいたようだった。
アンコールでは「吾妻さん、よかったらギター弾きませんか」とハッチが吾妻さんを招き入れ、続いて「安藤くんも」と言ってザ・たこさん安藤もステージに。スンンダード「オール・オブ・ミー」の即興セッションはハッチの歌とヴァイオリン、吾妻さんの歌とギター、裸の安藤の合いの手シャウトがいい具合の調和を見せて、多少の混沌も含めつつのおっさんたちの粋が立ちのぼった。
演者たちが好きにやって、客が好きに声を出してそれに反応する。やっぱライブってこういうものよね。ってなこと思った楽しき一夜。
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