【168.水曜映画れびゅ~】『きみの色』~優しさで彩られた~
『きみの色』は、先月末から公開されている作品。
『聲の形』(2016)を手掛けた山田尚子監督による完全オリジナルの新作アニメ映画です。
あらすじ
3色のバンド
高校生のトツ子には、人が“色”として見える。日常的な風景も彼女の目から見れば、赤や青、緑、黄色など色鮮やかに映る。
トツ子は、とても美しい色を放つ少女の出会う。彼女の名前は、きみ。トツ子と同じ学校に通う高校生で、学校の聖歌隊に所属している。「いつか話しかけたいな」と思いながら、多くの学生から慕われているきみの姿をトツ子はいつも見ているだけだった。そんなトツ子の耳に、驚きの知らせが入る。きみが突如学校を辞めてしまったのだ。
トツ子は、きみに会いたいと思った。「書店でレジを打っていた」という噂を頼りに、きみを探しに街へ出た。すると、こじんまりとした古書店のカウンターでギターを弾くきみの姿を発見した。
そこには音楽好きの青年ルイもいて、彼は2人に「バンドをやってるいるんですか」と問いかける。きみとの面識もほとんどなく、音楽経験もないトツ子であったが、その時ついこう言ってしまう。
「よかったら、わたしたちのバンドに入りませんか」
言った瞬間トツ子は、口走ってしまった自分に赤面した。しかし、きみもルイもその提案に乗り気だった。
そして3人はバンドを組み、それぞれの想いを込めたオリジナルの曲を作ることにした。
個性が似た3人の関係性
本作は、テレビアニメ『けいおん!』やアニメ映画『聲の形』を手掛けた山田尚子と、『けいおん!』で脚本を務めた吉田玲子が再タッグを組んで作られた完全オリジナル作品。高校生の3人がバンドを組む物語です。
ほんわかな雰囲気をまとった、人懐っこいトツ子。
一見クールに見えるが、プレッシャーに弱いセンチメンタルなきみ。
家業と自分のやりたいことの間で揺れるルイ。
それぞれ抱える背景は色々ありますが、この3人の雰囲気にはどこか似たようなものを感じさせます。つまり3人の個性みたいなものが、似通っているんです。
バンドがテーマの作品っていうと、“メンバー同士の違った個性が衝突し合い、化学反応を起こる!”みたいな印象があります。ガールズバンドの作品でも、実写映画『リンダ リンダ リンダ』とか、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』とかも、メンバーそれぞれの性格の違いが明確に描かれているように感じます。
しかし今回の作品の3人は、同じような性格に思えます。3人とも人当たりよく、どこか謙遜気味で、そして何より優しい。そんな3人だから、大きな衝突をすることはありません。お互いがお互いを尊重しています。また、それぞれの背景についても、相手が自分から口を開くまで何も聞きません。
そんな似た者同士の3人だからこそ、自然と惹かれ合って、バンドを組むことになるのです。もしかしたら、個性が違ったもの同士が集まって対立しながら音楽を作るという流れよりも、本作の展開の方がリアルなのかもしれませんね。
優しさに彩られた
そんな本作は、トツ子・きみ・ルイのメインキャラクターもさることながら、とにかく登場人物がみな優しいのが、大きな魅力。意地悪なキャラクターとか、全く出てこないんですね。
なので、作品としてはあまり波風が立たず、対立なども描かれません。なので、物語に物足りなさを感じる人もいるかもしれません。ただ人間関係で対立はなくても、登場人物が抱えている感情の葛藤と、それを乗り越える勇気は描かれており、それを支える人々の優しさが本作の魅力です。否定したり、拒んだり、変に発破をかけるような描写はなく、「やりたいなら、やればいい」と後押ししてくれる人々との暖かさを本作から感じ、鑑賞後には心の温度がほんのり上がる感覚がありました。
人生で何かの決断をする時は、誰に何と言われようと、自分ではすでにその決断を心に決めているのかもしれません。あとの問題は、いつ、どう決断するか…。そんな時に、その決断を尊重して、後押しして、応援してくれる人が周りにいればいいな、と思います。そして、自分もそういう人でありたいと思います。本作で描かれるような“優しい人”に私もなりたい、と思いました。
前回記事と、次回記事
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次回の更新では、今年のカンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した日本映画『ナミビアの砂漠』を紹介させていただきます。
お楽しみに!