【115.水曜映画れびゅ~】"To Leslie"~”戻れない”人生をやり直すためには…~
"To Leslie"は、6月から日本公開されている映画。
インディーズ映画ながら、主演のアンドレア・ライズボローが、今年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされました。
あらすじ
宝くじを当てたシングルマザー
シングルマザーのレスリーは、宝くじを当てた。
しかし6年後…
その賞金はなくなっていた。
レスリーはアルコール依存症だったのだ。
賞金をすべてお酒でなくしてしまった彼女は、住処も失い、途方に暮れていた。
そんななか、息子のジェームスの下を訪れる。
「お酒は断った」と言う母の言葉を信じ、ジェームスは母の再起を支えようとする。
しかし、物事はそんな単純なものではなかった。
レスリーはお酒をベットの下に隠したり、友人のお金を盗んでお酒を隠していたりしていたのだ。
母に愛想をつかしたジェームスは、故郷の町に母を送り出す。
そこは、かつてのレスリーを知り、そして彼女を嫌悪する人々がいる場所だった。
やり直すチャンスは、訪れる
宝くじを当てたレスリーですが、その賞金を全て使い果たし、町の人からは嫌われ、息子からも見放されていしまいます。
そんな彼女には、何度もやり直しのチャンスが訪れていました。
ジェームスは当初、母が心を改めてくれていると信じていました。しかしレスリーは、ジェームスの友人のお金を盗んでしまいます。
ジェームスから故郷に戻ったレスリーを、嫌々ながらもかつての友人ナンシーとダッチは迎え入れました。しかしレスリーは、2人の目を盗んだつもりで、バーに行ってお酒を煽ってしまいます。
ナンシーとダッチからも見放された後、モーテルの従業員スウィーニーと出会い、彼はレスリーをモーテルで働くように勧めます。しかしレスリーは、真面目に働きもせず、給料の前借りばかりをせがみ、そのお金もアルコールに消えていきました。
何度も何度もやり直すチャンスをもらっても、見事に全てフイにしてしまうレスリー。そんな彼女に「何やってんだよ」と言いたくなります。
でも、人って案外そういうものなのかもしれません。
かつての成功体験を身体が覚えてしまった後では、もう一度最初からやり直す気なんて起きないのです。ただ思うのは、「どうにか”あの時”に戻りたい」ということだけ。
でも、”戻る”ことなんてできないのです。”進む”しかないのです。しかし”進む”ためには、”戻れない”ことを自覚する必要があるのです。そしてこれが、最も受け入れがたいことなのです。
それでは、レスリーはそのことに気づけたのでしょうか…。
オスカーなんてぶっ飛ばす圧巻の演技
インディーズ映画の本作でありながら、アカデミー主演女優賞にノミネートされるという快挙を達成したこの作品。
しかし、そんな偉業に影を落とす報道もありました。
インディーズ映画のため、アメリカ本国でも大規模な劇場上映が行われなかったこの作品。そのため映画のプロモーションは、SNSを通じた草の根活動で行われました。
その成果もあって、ケイト・ウィンスレットやエドワード・ノートンなどのアカデミー会員が特別上映会に参加し、本作を絶賛しました。
しかしその活動がアカデミー賞のルールに抵触しているとされ、一時はノミネート取り消しさえも噂されました。
この騒動ですが、正直言って私は「くだらない」と思います。
だって”いいものはいい”のだから、どんな形であってもそれを観る機会を与えられたのであれば、いいじゃないですか!しかも、別に「ノミネートしてください」なんてことは言ってないわけで、観た結果としてアカデミー会員たちが「これはすげぇ」って思ったからノミネートされたんですよ。だったら、逆にもっとこういう機会を設けて、埋もれそうになっている良作をもっとアカデミーまで押し上げるべきだとさえ思います。
そう思うのもなにも、本作のアンドレア・ライズボローも演技は本当に凄かったからです。ある批評家が「2022年最高の演技」と評していましたが、全くその通りで、同カテゴリーの受賞者ミシェル・ヨーや対抗馬だったケイト・ブランシェットよりも、私はライズボローの方が主演女優賞に相応しかったと思いました。そのくらい、心震わされる演技でした。
メジャーとか、インディーズとか関係ないんですよね。ていうか、お金かけていいものが作れるっていうのは必然的なことですが、本作のように、小規模だろうがなんであろうが、いいものを作ろうという気概さえあれば傑作ができるということを、映画界全体で共有してほしいと思いました。
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お楽しみに!