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【166.水曜映画れびゅ~】“The Master”~どこまでも個人的な監督と、“怪演”俳優~

“The Master”ザ・マスターは、2012年製作の映画。

ポール・トーマス・アンダーソン監督、ホアキン・フェニックス主演の作品です。

あらすじ

第2次世界大戦が終結し、赴任先からアメリカへ戻ってきた帰還兵のフレディ・クエルは、戦地ではまったアルコール依存症から抜け出せず、社会生活に適応できずにいた。そんなある日、フレディは「ザ・コーズ」という宗教団体の指導者で、信者から「マスター」と呼ばれているランカスター・ドッドに出会う。ドッドは独自のメソッドで人々を悩みから解放し、フレディもドッドのカウンセリングで次第に心の平静を取り戻していく。ドッドは行き場のないフレディをかたわらに置き、2人の絆は深まっていくが…。

映画.comより一部抜粋

“マスター”との出会い

第2次世界大戦、終戦直後。帰還兵のフレディは、精神が崩壊していた。アルコールに溺れ、仕事は何をやってもダメ。生活はめちゃくちゃだった。

そんなフレディが出会ったのは、新興宗教の教祖ドッドだった。信者から“マスター”と呼ばれるドッドの魅力にフレディは惹かれ、またドッドも破天荒なフレディのことを気に入った。

ドッドには敵が多かった。胡散臭いメソッドを掲げるドッドは詐欺師扱いされ、警察にも目を付けられていた。フレディは、ドッドに盾突く奴らをボコボコにしていった。

凶暴なフレディを、周りはよく思わなかった。そんなフレディの性格をドッドは、フレディが抱える過去のトラウマが原因だと考えた。そしてドッドは、独自の治療法により、トラウマからフレディを解放しようとした。

そうやって苦楽をともにする2人の絆は、家族以上のものになっていく。

個人的な映画しか作らない監督

Most personal is most creative.
(最も個人的なことは、最も創造的なものである)

これは、映画界の巨匠マーティン・スコセッシの言葉です。2020年のアカデミー賞の監督賞のスピーチにて、ポン・ジュノ監督が引用した言葉としても知られています。

私が思うに、この言葉を最も映画に反映しているのは、マーティン・スコセッシでも、ポン・ジュノでもありません。本作『ザ・マスター』の監督、ポール・トーマス・アンダーソンです。

ポール・トーマス・アンダーソン、通称PTAは、世界3大映画祭全てで監督賞を受賞し、さらにアカデミー賞でも数々のノミネート経験のある、凄まじい監督です。また映画への造詣が深く、彼の作品のなかには様々なオマージュや仕掛けを盛り込まれています。その一方で、PTAの映画は極めて個人的な話に終始する側面もあります。

例えば、初期の作品の『ブギーナイツ』(1998)や『マグノリア』(1999)、さらには最新作の『リコリス・ピザ』(2021)の共通点として、舞台がハリウッドの郊外、つまりPTAの地元に設定されています。そしてこれらの作品は、PTA自身の思い出話のようなものがストーリーに盛り込まれています。

また、自身の家族関係も映画に反映されており、『パンチドランク・ラブ』(2002)では、姉ばかりに囲まれて育ったPTAの境遇が描かれています。

そして最も顕著なのが、父親との関係性。『マグノリア』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)などPTAの作品ではよく父親との確執が描かれます。そして本作『ザ・マスター』にも、その要素が反映されています。

本作に出てくる新興宗教の教祖ドッドは、フレディの父親ではありませんが、フレディを我が子のように扱い、そしてある種の洗脳状態のようにします。そうやってドッドに依存し続けるフレディでしたが、物語が進むにつ入れて、「このままでいいのか」という葛藤が生まれていく展開になっていきます。

実際のところ、PTAが父親との関係性について今まで語ったことはほとんどなく、詳細は不明なのですが、彼の作品には父親との関係についてが執拗なほどストーリーに盛り込まれています。

怪演伝説の始まり

PTAの作品は、そのようなストーリー性だけではなく、物語を彩るキャラクター、そしてそれらを演じさせて俳優たちの新たな可能性を引き出すことも大きな魅力です。

例えば、『パンチドランク・ラブ』ではコメディ俳優のアダム・サンドラーに神経質な男性を演じさせたり、『マグノリア』ではスーパースターのトム・クルーズにエロの伝道師を演じさせたりと、異様ともいえる配役によって、結果的に多くの俳優に映画賞をもたらしました。

そして本作も例外ではありません。なかでも主演のホアキン・フェニックスは圧巻。今でこそ『ジョーカー』(2019)での怪演の印象が強いホアキンですが、本作はその原点となった作品だと思います。

当時のホアキンは『グラディエーター』(2000)や『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005)でアカデミー賞にもノミネートされ、正統派俳優としての評価も上々でした。しかし本作の数年前に公開された問題作『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010)でハリウッド業界に壮大なドッキリを仕掛け、干されかけていました。

そんな経緯ですっかり“ヤバイ奴”というレッテルを貼られたホアキンが本作にて、今までの俳優としてのイメージを一新する、正真正銘の“ヤバイ奴”フレディを全力で演じ、完全復活を知らしめました。シラフでいる時間がなく、破天荒で狂人的なフレディを演じるホアキンには、ジョーカーの片鱗を感じます。『ジョーカー』でアカデミー主演男優賞を受賞したホアキンですが、その怪演伝説はすでにここから始まっていたのです。

・・・

ということで今回は『ザ・マスター』を、監督のポール・トーマス・アンダーソンと、主演のホアキン・フェニックスの話を交えながら紹介させていただきました。

そしてホアキン・フェニックスといえば、ついに『ジョーカー』の待望の続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が今年10月11日に公開されます。

前作から5年。ミュージカル映画になるやら、レディ・ガガの出演するやらで、続編を作る意味あるのかなど、巷では色々と意見が分かれていました。ただ、この予告編の完成度は完璧です。期待して待ちましょう。

またPTAの次回作も決定しています。タイトルは"The Battle of Baktan Cross"で、レオナルド・ディカプリオと初タッグを組むと言われています。こちらも楽しみ!


前回記事と、次回記事

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次回の更新では、『アンナチュラル』と『MIU404』の世界から繋がる物語『ラストマイル』紹介させていただきます。

お楽しみに!