【19.水曜映画れびゅ~】"The Trial of Chicago7"~1960年代のアメリカを描く映画たち~
"The Trial of Chicago 7"は昨年11月からNetflixで配信されている作品で、今年の米アカデミー賞で作品賞を含む6部門にノミネートされています。
あらすじ
時代背景を知れば、もっと面白くなる!
本作の内容は、ハリウッド映画によくある"Based on the true event"超硬派なゴリゴリの社会派法廷映画です。
それを『ソーシャルネットワーク』(2010)、『マネーボール』(2011)、 『スティーブ・ジョブズ』(2015)などで脚本を手掛けたアーロン・ソーキンが監督・脚本。
演者にはオスカー俳優のエディ・レッドメンやマーク・ライアンス、そして本作で助演男優賞にノミネートされたサシャ・バロン・コーエンに加え、ジェレミー・ストロングやマイケル・キートンなど個性派・実力派が勢ぞろいして作り上げられた一作。
「もう役者が揃いすぎていて、面白くないわけがない!」って感じですが、実際にその期待を裏切らない面白さです。
ただ、物語の内容についてやや難解な部分があります。
映画の舞台は1960年代のアメリカであり、物語はその当時の時代背景を理解している前提で話が進みます。
もちろん、これだけの一流俳優と一流脚本家が携わっているわけですから前提知識がなくても本作を楽しめるとは思います。
ただ裏を返せば時代背景を知っているほど、より本作を楽しめます!
そこで今回は「本作『シカゴ7裁判』を…」というよりかは、この映画の舞台となる1960年代のアメリカがどんな時代であるかを知ることができる映画をいくつか紹介したいと思います。
ベトナム戦争を知る
本作の主題でもあり、1960年代のアメリカにとって避けては通れないテーマがベトナム戦争。
泥沼化した挙句、最終的にはアメリカになんの利益も生まなかった戦争であり、その無意味さに対する怒りや当時のベトナム戦地の惨状を伝えるために多くの映画が作られました。
『地獄の黙示録』(1979)
『ゴットファザー』3部作でも知られるフランシス・フォード・コッポラ監督作であり、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『地獄の黙示録』。
ベトナムでの残忍な戦地の状況
理性を狂わせながら戦う米軍兵の姿
無意味なベトナム人の犠牲…
ベトナム戦争の無慈悲さと残虐さが如実に描かれた「ベトナム戦争映画」の代名詞。
『ディア・ハンター』(1978)
アカデミー作品賞を受賞した『ディア・ハンター』。
こちらの作品では『地獄の黙示録』で描かれたベトナム戦地での残忍さよりか、ベトナム戦争に出兵したことにより人生が狂わされた米軍兵に焦点が置かれています。
実際にベトナム戦争によって多くのアメリカ人が悲しみに暮れたことが、強く伝わってきます。
この他にも『プラトーン』(1986)や『フルメタル・ジャケット』(1987)などベトナム戦争を扱った映画は数多くあり、これらのような作品を通じて『シカゴ7裁判』で描かれている”ベトナム戦争への抗議活動がなぜ当時そこまで熱狂的に行われていたのか”ということが理解できると思います。
公民権運動を知る
1960年代はベトナム戦争だけでなく、人種差別に対する抗議活動も活発化した時代でもありました。
多くの黒人指導者の下で公民権運動が展開され、そんな彼らを描く映画が後年に多く製作されていました。
『グローリー/明日への行進』(2014)
公民権運動において最も有名かつ偉大な指導者といえば、キング牧師。
そのキング牧師が黒人に対しての公平な投票権獲得を目指して行われたセルマ大行進を描いた『グローリー/明日への行進』から、当時の黒人差別がいかに残忍であったかを知ることができます。
『マルコムX』(1992)
※日本語字幕なしの本編映像のプレビューです。
キング牧師と双璧をなすといっても過言ではないもう一人の指導者がマルコムX。
非暴力主義を掲げたキング牧師とは対照的に、過激な思想と言動で注目を浴びたマルコムXは人によって評価が分かれる人物でもありました。
その生涯を3時間半にわたって描いたこの作品では、そんなマルコムXの実像を知ることができます。
『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』 (2021)
今年のアカデミー賞作品賞ノミネート作品の『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』。
1960年代に黒人差別撤廃を求めて創設されたブラックパンサー党において、シカゴ支局代表であった若きカリスマフレッド・ハンプトンの暗殺を描いた作品。
日本未公開ではありますが、実はこの映画は『シカゴ7裁判』にとても関係深い作品となっています。
なぜなら、この作品の中心となるブラックパンサー党とフレッド・ハンプトンが『シカゴ7裁判』にも登場し、実は二つの映画で全く同じ時代を描いてるんですね!
この他アカデミー作品賞を受賞した『グリーンブック』(2019)なども同時期の黒人差別を題材とした作品です。
このような映画から「1960年代の黒人差別の壮絶さ」や「公民権運動の過酷さ」がよくわかります。そして差別に対抗して、多くの黒人が理不尽に痛めつけられ、命を奪われもしました。
にもかかわらず、ベトナムに多くの兵を送り、国外では殺し合いが行われるという不条理…
そんな政府へのフラストレーションがたまっていたという背景が『シカゴ7裁判』へとつながっていきます。
1960年代とその後を知る
通史的にもっと時代背景を知ってみたい方には次の2作がオススメ。
『フォレスト・ガンプ/一期一会』 (1994)
言わずと知れたトム・ハンクスの代表作『フォレスト・ガンプ/一期一会』。
心優しきフォレスト・ガンプの成長とともに、ベトナム戦争や反戦運動など1960年代から1970年代で起きたアメリカでの様々な出来事が随所で描かれいます。
しかし名作として名高い『フォレスト・ガンプ』ですが、実は非常に批判的な意見が多い作品でもあります。
その要因の一つが「1960年代から1970年代を描いているのに、ほとんど公民権運動の描写がなかった」からです。
『大統領の執事の涙』(2013)
そんな『フォレスト・ガンプ』に対抗する形で作られたといわれているのが『大統領の執事の涙』。
アイゼンハウワーからケネディ、ジョンソン、ニクソン、フォード、カーター、レーガンという1950年代後半から1980年代までの大統領に仕えた黒人の執事ユージン・アレンの生涯を描いた 作品です 。
黒人差別の理不尽さと公民権運動についてが重点に描かれ、監督を務めたリー・ダニエルズ自身が「黒人版フォレストガンプ」と本作を称しています。
最後に
今回は今年のアカデミー作品賞ノミネート作品『シカゴ7裁判』をより楽しんでもらうために、本作の舞台となった1960年代の時代背景を学べる映画をいくつか紹介しました。
1960年代というのは、アメリカにとって色々なことがあった時代なんです。それゆえにいろんな題材がいろんな映画になり、その中から数多くの名作が生まれました。
そして本作『シカゴ7裁判』もその名作の一つとなるでしょう。
前回記事と、次回記事
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次回の記事では、今年度のアカデミー短編実写映画賞ノミネート作品"Two Distant Strangers""(2020)について語っています。