【25.水曜映画れびゅ~】『永い言い訳』~映画から透けて見える”ヤングケアラー”~
『永い言い訳』は2016年公開の映画で、『ディア・ドクター』(2009)や『すばらしき世界』(2021)でも知られる西川美和監督作品です。
あらすじ
原作は監督の西川美和さんが著した同名小説。
直木賞候補になったほか本屋大賞で4位に選ばれました。
本木雅弘、8年ぶりの映画主演
本作で主演を務めたのは本木雅弘。
アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『おくりびと』(2008)以来、実に8年ぶりの映画主演です。
そんな本木雅弘が演じるのは、タレント人気作家としてテレビにも出演する衣笠幸夫。
物語の前半は妻に対して高圧的で、しかも浮気しているという最悪な印象から始まります。
そんな幸夫は事故で妻を亡くしまうのですが、上辺だけでしか悲しみを表すことができません。
そのくせ周りには同情を求めて傍若無人に立ち振る舞い、自分を見失っていく幸夫の姿はとても惨めに映ります。
物語の転換点は、竹原ピストル演じる大宮陽一とその子どもたちとの出会い。
同じ事故で妻を失った陽一はトラックの運転手。
息子である真平は、夜に仕事へ出かける父に代わって妹の灯の面倒や家事をするため、塾に通うのをやめて中学受験を諦めようとします。
それを聞いた幸夫は、陽一に子どもたちの世話を買って出ます。
そこから大宮家と交流を深めていく幸夫は、次第に人として変化し始めていきます。
ヤングケアラー
本作を観て最も気になったのが、陽一の息子真平という存在。
母親を亡くしたことで夜間に幼い妹の面倒を見なければならなくなり、中学受験を諦めます
真平のような子どもは実際問題として存在しており、ヤングケアラーと呼ばれています。
これまでヤングケアラーは主に親や祖父母の介護を担う子どもたちのことを指すことで使われていたのですが、今年行われた初のヤングケアラーに関する全国調査において真平のような幼いきょうだいの世話をする子どもが最も多いことがわかりました。
それとともに勉強をする時間が確保できないことも多いにもかかわらず、気軽にそのことについて相談することができないこともわかりました。
こういった側面が、本作『永い言い訳』で真平というキャラクターを通じて如実に描かれていました。
ヤングケアラーの問題は全国調査のこともあり、今年になって大きく取り上げられるようになりました。事実、政府もこの全国調査の結果を受けて支援を盛り込んだ政策を打ち出し始めました。
しかしすでに5年前の映画で描いていたとは、西川監督はやはり並々ならぬ視野の広さをお持ちの方ですね。
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