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【151.水曜映画れびゅ~】『悪は存在しない』~偶然が重なりあった、奇跡の傑作~

『悪は存在しない』は、4月26日から全国の劇場にて順次公開されている映画。

『ドライブ・マイ・カー』(2021)を手掛けた濱口竜介監督の最新作で、昨年のヴェネチア国際映画祭にて審査員グランプリである銀獅子賞を受賞しました。

あらすじ

長野県、水挽町。自然が豊かな高原に位置し、東京からも近く、移住者は増加傾向でごく緩やかに発展している。代々そこで暮らす巧とその娘・花の暮らしは、水を汲み、薪を割るような、自然に囲まれた慎ましいものだ。しかしある日、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだったが、森の環境や町の水源を汚しかねないずさんな計画に町内は動揺し、その余波は巧たちの生活にも及んでいく。

公式サイトより一部改編

自然と、バランス

水挽町みずびきちょう。長野県にある、自然豊かな町だ。

その町に、グランピング場建設の計画が持ち上がる。住民の理解を得るため、建設事業を進める会社の担当者である高橋は、説明会を開催した。

グランピング場を強引にでも進めようとしていた2人であったが、住民たちから計画の穴を指摘されまくる。あまりにも浅はかな考えであったことが露見し、仕舞いには住民たちに呆れられてしまう。

そんな時、水挽町に暮らす風変わりな男安村巧が口を開く。

「別に、俺は開拓については賛成派だ。でも一番重要なのは、バランスだ」

濱口竜介、世界3大映画祭 制覇!

『ドライブ・マイ・カー』(2021)を手掛けた濱口竜介監督。カンヌで脚本賞を含む4冠達成、さらに米アカデミー賞に作品賞・監督賞を含む4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞したことが記憶に新しいですね。

その後も濱口監督の快進撃は続き、『ドライブ・マイ・カー』と同年に公開されたオムニバス映画『偶然と想像』ではベルリン国際映画祭にて審査員グランプリにあたる銀熊賞を受賞。

そして本作は、ヴェネチア国際映画祭にて銀獅子賞を受賞しました。ヴェネチアに関しては、共同脚本を務めた『スパイの妻』(2020)にて監督を務めた黒沢清に同賞をもたらしましたが、濱口監督自身の受賞は初となります。

つまり濱口監督は、アカデミー賞に加えて世界3大映画祭も制覇したこととなります。過去に日本人で米アカデミー賞と世界3大映画祭の全てで受賞経験があるのは黒澤明だけで、日本人史上2人目の快挙です!

偶然が重なりあった、奇跡の傑作

そんな本作の発端は、『ドライブ・マイ・カー』にて作曲を担当した音楽家の石橋英子からのオファーでした。

まず初めに、石橋英子が「パフォーマンス用の映像を作って欲しい」と濱口監督に依頼。その依頼に対して濱口監督は「従来の制作手法でまずはひとつの映画を完成させ、そこから依頼されたライブパフォーマンス用映像を生み出す」ことを約束。そこから出来上がったのが本作『悪は存在しない』という長編映画と、『GIFT』というライブパフォーマンス用の映像でした。

様々な変遷を経て、形になった本作。

当初の想定ではサイレント映画として公開する予定でしたが、制作の過程で「やっぱ、セリフがあった方がいいな」という考えになり、今の形になりました。

さらに出演者も特殊すぎ。主役の安村巧を演じた大美賀均は、もともと濱口組の裏方スタッフ。興味本位で濱口監督に「今度の映画の出演者選考の場に立ち会わせていただけませんか?」と聞いたところ、「出る側に興味はありませんか?」と返されたのが始まりだったと言います。

また、建設事業を進める会社の担当者である高橋を演じた小坂竜士も異色のキャスティング。過去に俳優業をしていたものの、なかなかうまくいかずに一時休止して映画の車両部で働いていたところを濱口監督に拾われた、とのことです。

濱口監督は本作の制作について、こう語っています。

「本作制作における現場はキャスト・スタッフそれぞれの仕事が持ち寄られ、混ぜ返される実験場のようでした。そこでは偶然が乱舞しており、その幾つかを捕まえてできたラインがそのまま作品になっています」

映画公式パンフレットより一部抜粋
映画パンフレットを1,200円で購入。
パンフレットにしてはちょっと高いですが、
撮影経緯の裏話など読み応え十分です。

空白の多い物語

例の如く本読みを徹底して撮影に臨んだ本作。なので、今までの作品通り演者は基本的に無表情っぽく、そして抑揚のないトーンでセリフをしゃべります。なので、言葉のやり取りに没入させる濱口作品の魅力をどっぷりと味わうことができました。

表情も抑揚も乏しい一方で、別に感情がないというわけではありません。むしろ、だからこそ登場人物の感情の機微に敏感に気付くことができます。特に、グランピング場建設についての住民説明会のシーンは圧巻。初めは住民側とゴリゴリに対立していた高橋と黛が、少しずつ住民側の意見に納得していく流れは、素晴らしすぎました。

また濱口監督曰く、「今までの作品よりも空白を多く残した」物語。実際に、小坂竜士が脚本についてのある疑問を監督に質問したら「そこら辺は、僕もよくわからないんですよね。本読みをしながら、一緒に探っていきましょう」というようなむねを言われたらしいです

その最たるものが、ラストシーン。本作は、かなり難解な結末を迎えます。YouTubeなどではラストについて考察している方もいらっしゃいますが、個人的にはどう捉えても正解ではないし、どう捉えても正解になるのではないかと思いました。

・・・

現時点で、個人的に今年の日本映画No.1だと思っている本作。上映館は少ないですが、多くの人に観ていただきたいです。

久々に横川シネマに来館。
東出昌大の狩猟生活を記録したドキュメンタリー『WILL』も
今月上映されるとのことで、また来なくちゃ。

前回記事と、次回記事

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次回の更新では、乃木坂46の1期生 高山一実の同名小説をアニメ映画化した作品『トラペジウム』を紹介させていただきます。

お楽しみに!