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【94.水曜映画れびゅ~】"The Banshees of Inisherin"~むさ苦しい男二人の、ツンデレラブストーリー!?~
"The Banshees of Inisherin"は、今年1月より日本公開されている映画。
今年のゴールデングローブ賞にて作品賞(ミュージカル・コメディ部門)を含む3冠を達成し、来週行われる米アカデミー賞には作品賞を含む8部門9ノミネートを獲得しています。
☆ノミネート
助演女優賞・作曲賞・脚本賞・助演男優賞(ブレンダン・グリーソン/バリー・コーガン)・編集賞・主演男優賞・監督賞・作品賞
あらすじ
本作の舞台は本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。賢明な妹シボーンや風変わりな隣人ドミニクの力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。美しい海と空に囲まれた穏やかなこの島に、死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立つ。その先には誰もが想像しえなかった衝撃的な結末が待っていた…。
突然終わった友情
1923年、アイルランド。
内戦が続く本土から離れた島"イニシェリン島"に住むパードリックは、いつも昼過ぎに親友コルムの家に立ち寄る。
一緒に飲みに行こうと誘うためだ。
パブでビールを片手にダラダラと過ごすのが、彼らの毎日の日課である
…はずだった。
しかしある日を境に、コルムはパードリックの誘いに乗らなくなる。それどころか、コルムはあからさまにパードリックを避け始める。
挙げ句の果てには「お前のことが嫌いになった」から関わらないでほしいと告げ、もし今度会った時に話しかけでもしたら、コルムは自分の左手の指を切り落とすとまで脅す始末。
そうやって突然訪れた友情の終わりに、パードリックは途方へ暮れてしまう。
鑑賞後に残る、強烈なモヤモヤ感
本作は『スリービルボード』(2017)の監督マーティン・マクドナーの5年ぶりの新作。
前作で後味の悪い復讐劇を描いた監督ですが、この最新作はもっと後味の悪い人間模様を描いています。
さらには意味ありげなシーンが連続する割に観客への説明が圧倒的に不足していて、鑑賞後にはモヤモヤ感が渦のように胸に立ち込めます。
それなのに、監督自身は本作の真意について口を紡いでいるとかで、パードリックだけでなく私たちまでも途方に暮れてしまいます…
作品を解釈したら、「最高に面白い映画」と気付けた
そんな鑑賞後のモヤモヤ感を払拭するために頼ったのが、こちら!
「町山&藤谷のアメTube」より、映画評論家の町山智弘さんの解説を参照させていただきました。
動画ではあくまで一つの解釈としてはいますけれども、
要するには、アイルランド独立戦争のメタファーとしてのケンカ模様と、カトリック文化特有の強迫観念による仲違いということですか…
って、そんなん観ただけでわかる訳ないだろ!(笑)
なんてツッコミたくなる気持ちもありますが、そういわれてみることで、作品の面白みがジワジワっと沁みて来ました。
第一として、この作品ってゴールデングローブ賞のカテゴリーにも表れているように、ジャンルとしてはコメディなんですよね。
でも「コメディのくせして、とてもじゃないが笑える話ではない…」っていうのが多くの人の感想だと思います。
しかし作品全体を突き動かすコルムのパードリックに対する嫌悪が、すべて彼が勝手に抱いた男色的妄想から始まるとしたら、どうでしょう?
ツンデレ全開でイチャイチャする愛憎劇を、むさ苦しい田舎男二人で描いていると思えば、最高のコメディに思えてくるような気がします。
また、この解説を聞いてコルムが左手の指を切り落とすことについて振り返ってみれば、それはゴッホとゴーギャンの関係性を想起させました。
ゴッホとゴーギャンの関係性の詳細は諸説ありますが、関係性がこじれたことでゴッホが左耳を切り落としたことは有名な逸話ですね。
コルムとパードリックが、ゴッホとゴーギャンの映し鏡のようになっていると考えれば、この映画は復讐劇というわけではなく、偏屈な愛憎劇という風に見えてきて、そこに面白さを感じてしまいます。
コリン・ファレル、アカデミー主演男優賞はどうなる!?
ということで今回は、一見はなんだかモヤモヤする物語ながら、本質はいい齢した田舎男のツンデレラブストーリー(笑)という異色な一作『イニシェリン島の精霊』を紹介させていただきました。
本作については、冒頭でも触れましたが、来週行われる米アカデミー賞にて8部門9ノミネートされています。
しかも演技部門に至っては4ノミネートです!
主演男優賞:コリン・ファレル
助演男優賞:ブレンダン・グリーソン
助演男優賞:バリー・キオガン
助演女優賞:ケリー・コンドン
昨年の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021)や『ナイトメア・アリー』(2021)もそうでしたが、毎年こういう"わかりにくい系"の作品が賞レースには食い込んできますよね。
そして受賞の可能性があるのは…
脚本賞は前哨戦でも健闘しており、有力と思われます。
また、パードリックを演じたコリン・ファレルへの主演男優賞があるかもしれません。終始困り顔でありながら、コルムのたまに見せる”デレ”に微妙に喜びを覗かす微細な顔での演技は最高でした。
さて、受賞の行方はどうなるでしょうか?
楽しみでなりません!!!
前回記事と、次回記事
前回投稿した記事はこちらから!
これまでの【水曜映画れびゅ~】の記事はこちらから!
次回の更新では、アカデミー賞最有力候補"Everything Everywhere All at Once"を紹介せてていただきます。
お楽しみに!