【5.水曜映画れびゅ~】”Vice” ~アメリカ社会を映し出したMid-Credits Scene~
"Vice"は、2018年に公開されたアメリカのコメディ映画。
『マネーショート 華麗なる大逆転』(2015) を手掛けたアダム・マッケイが監督・脚本を務めています。
作品情報
”そっくりさん”だらけの演技合戦
主演を務め、ジョージ・W・ブッシュ政権において副大統領であった剛腕政治家ディック・チェイニーを演じたのは、クリスチャン・ベール。役作りのために極端な肉体改造をすることで知られるベールは、チェイニーを演じるにあたり体重を約18kg増量して、本人そっくりになりました。
また、ブッシュ大統領を演じたのは『スリー・ビルボード』(2017)でのアカデミー助演男優賞受賞が記憶に新しいサム・ロックウェル。今回の役を演じるにあたってブッシュのしゃべり方などを研究した、とのこと。そのあまりのそっくりさに、アメリカの映画館ではブッシュが出てくる度に爆笑が起きたといわれています。
そのほかチェイニーの妻にエイミー・アダムス、ラムズフェルド国防長官にスティーヴ・カレルなど、オスカー常連俳優が軒並み出演。
2019年のアカデミー賞では、クリスチャン・ベール、サム・ロックウェル、エイミー・アダムスがそれぞれ主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞にそれぞれノミネートされたほか、作品賞を含む8部門にノミネート。演技力もさることながら、俳優陣を実在の政治家たちに仕立て上げたことが評価され、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞しました。
Mid-Credits Scene:
アメリカの政治の今を伝える
この映画自体とても面白いのですが、私が特に注目したいのはこの映画の”Mid-Credits Scene”です。
”Mid-Credits Scene”とは、映画本編が終わったのちのエンドロールの合間で出てくる、いわば“おまけ映像”みたいなものです。近年では”Post-Credit Scene ”(エンドロールが完全に終わってから流れる映像)と合わせてマーベル作品のほとんどで使われていることもあり、馴染みのある方も多いかと思います。そして本作『バイス』の”Mid-Credits Scene”ですが、これが色んな意味で凄いんですね。
それは、アメリカ政治について議論を交わす、とあるワークショップでの一幕。そのシーンの会話を、私の拙訳ではありますが、ここに記します。
都合の悪い事実にはリベラルというレッテルを貼って、文句を言うトランプ支持者。冷静に振る舞おうとするが挑発に乗ってしまうリベラル派。お互いを理解し合おうとせず最終的に取っ組み合いになり生じる分断。その外側でアクション映画の最新作について語る政治には無関心な若者。
ほんの数分のシーンですが、あまりにも強烈にアメリカ社会を風刺しています。これを映画の最後にぶっこんでくるとは…さすがアダム・マッケイ。
そしてここで描かれている「トランプ支持者が他の支持者に挑発をする」ことに関しては、今年の1月に起きたアメリカの議会襲撃事件などもあり、現在進行形で大きな問題となっています。しかもその暴動をトランプ大統領が扇動したというのが、また信じられない事実ではありますが…
【6/1追記】チェイニーの娘 リズ・チェイニー
本作の主役ディック・チェイニーは現在80歳。色々ありましたが、存命です。
本作ではアメリカ政治史上最凶の政治家として描かれていますが、実は政治思想的には新保守主義の姿勢をとります。リベラルな考えも併せ持ち、超党派的な側面もあったといわれています。
そして、その意志を受け継いだのが娘のリズ・チェイニー。劇中でも描かれているように2017年から共和党の連邦下院議員となり、2019年からは下院共和党No.3の下院共和党会議議長に就任しています。
このリズ・チェイニーが、現在アメリカで時の人となっています。
ディック・チェイニーの意志を受け継いだリズ・チェイニーは、リベラルな思想も併せ持つ共和党員として、同じ党に所属しながらトランプ前大統領に批判的な態度を示し、”反トランプ派”の1人とされています。
彼女の”反トランプ派”としての側面が強調されたのが、今回の議会襲撃事件に伴うトランプ前大統領の弾劾。そこでリズ・チェイニーは、トランプ大統領の弾劾への賛成票を投じました。この行為に対しては当初は脱トランプ党化を掲げていた共和党員から賞賛を集めたのですが、最近になって共和党内の根強いトランプ派たちから批判が集まり、結果的に下院共和党会議議長を解職されてしまいました。
そんな彼女の今後の動向に、注目が集まっています。
前回記事と、次回記事
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次回の記事では、デヴィッド・フィンチャー監督の胸クソ映画"Gone Girl"(2014)について語っています。