路上アンケートで逆ナンされたら恋愛商法詐欺だった話(3)
「そうだ、すみません、じんじろさんと話すのが楽しくて長くなっちゃった。そろそろちゃんと仕事の話をしないと」
ふむ。まあそうだよな。
オフィスから電話してるって言ってたしな。
仕事は関係なく個人情報不正使用で話していた可能性。
うん、ないな。
冷静に考えてそんなわけない。
85%まで上がった脳内の好感度カウンタを停止させた。
仕事目的で仲良く話していたのであれば話は全然変わってくる。
こちらが相手の好感度を上げようと戦略的に話しているときそこに恋愛感情はないように、相手も故意にこちらからの好感度を上げようとしていたということだ。
こうなってくると相手がこういう発言をしたからとか、自分の攻撃に対しこう反応したから、という指標はすべて役に立たない。
会えば落とせるか?
相手が仕事で思わせぶりな発言をしていたとしても、まだ若い。
経験値はこちらのほうが上だろう。
この状況を巻き返して、どうにかこうにか。
いや、無理だな。イメージが湧かない。
これは負けだな。完敗だ。
もしも、もし最初のアンケート直前の少し長めの雑談の時点で私のタイプを見抜かれ、私の得意タイプのキャラを演じていたとしたら。
その可能性は限りなくゼロに近いが、しかしゼロではない。
だとしたら相当な手練れだ。
経験値が違いすぎる。
どおりでイージーオペレーションなわけだ。
でもまあ、いいリハビリにはなった。
相手の手のひらの上だったとしても、それでも相手のタイプを見極めて好感度を上げながら段階に応じた行動をする、という手順は踏めた。
この考え方を実践できたというのがありがたい。
久しぶりだったけどここまでミスはなかったように思う。
相手がこちらを落とそうとしていたというのもあるが、ブランクのある僕にはちょうどいい相手だった。
疑似的に成功体験を得たと考えよう。
プロにお相手をしてもらったってわけだ。
この恋愛頭脳戦の勝者はあなただ。
敬意を表して、話を聞こうか。
「アンケートのときにも少しお話ししたんですけど、ブライダルショップって、基本的に女性のお客様が多いんですよ。でもうちのお店はまだ彼女のいない男性のお客様が一人で来られることが多いんです。それはなぜか、ということをお話ししたいです」
「うちのお店では結婚の準備に何が必要か、というのをお教えしてるんですけど、まだ彼女のいない状態でどうしてそれを今知る必要があるのか、そういう説明をしたいので、今度ご都合の良い時にお店に来てほしいんです」
「あとうちのお店すごくコンプライアンスが厳しいからこれも言わないといけないことになっているんですけど、これが販売目的の勧誘だということは理解してほしいです。コンプライアンスが厳しいので無理に買わせようとすることはないんですけど、絶対買わないと決めて財布も持たずに来るようなのはやめてほしくて、心を閉ざされちゃうとこっちが真剣に話しても伝わらないので、ちゃんと話を聞いてもし納得したら買ってもいいくらいの気持ちで来てほしいです」
「こういう話をされたって誰かに話す予定とかありますか?」「電話営業だとネガティブなイメージがあるので、もし誰かに話すときは偏見を与えない伝え方をしてほしいです」
怪しさしかないんだが。
しかし正直言ってそのブライダルショップに男性客が多い理由ってのが純粋に気になる。
Mが今話したことは要は経営の話だ。この業界は一般的にはこうです、でもうちの会社はこういう差別化をしています。その理由はこうです。その結果こうなりました。そのためにこんな試みをしてきました。
そういう話を聞けるのかもしれない。
興味は、ある。
知的好奇心ってやつだ。
「ちなみに明日とか空いてますか?」
に対して、もはや下心を隠すつもりもない僕は、じゃあお店終わった後かその前に一緒にご飯でも食べない?と誘ってみた。流れなんかどうでもいい。
話す機会さえあるなら経験値は積める。
「それはできないんですよ。うちコンプライアンスが厳しいので、恋愛目的と勘違いさせる方法で勧誘されてないかとかチェックがあるんです」
らしい。
おっと、食事は断られてしまったが明日空いてることはバレてしまった。
まあいいや。
この衝動は抑えられない。
好奇心という名の熱病に冒されているのさ。
無理に買わせようとすることはないとは言いつつ、押しの強い営業はあるだろうけど、そんなもんはいくらでも経験してきている。
話を聞いてもし本当に興味が向いたら、記念に何かしら買ってもいいだろう。
時間を決め、店の場所の書かれたホームページのURLをSMSに送ってもらい、電話を終えた。
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