見出し画像

マッチングアプリで会った子にぼったくりバーに連れて行かれた話(8)

伝票を見て、思わず笑ってしまった。
なんだこれ。

こういうのを見ると、やばいより面白いが勝ってしまう。
酔っているとか関係なく。
これは本質的な問題だろう。

とりあえず写真を撮っておいた。

酔っている影響としては、合計金額しか見ていなかったことだろう。
これはかなりの失態である。
その場でおかしい部分を指摘できれば何かが変わっていたかもしれない。

そして、この伝票を見てもキャラを維持してしまったことも、酔っていて冷静な判断ができなかったためだと言える。

実は伝票を見た時点で、ここまでの流れからこの女もグルだなというのは察していた。
限りなく怪しいがしかし確定ではないので、クロかシロかどちらだった場合でも対応できるよう、敵対しないという選択肢を取った。

敵対しないというそれ自体はよいのだが、キャラを崩さなかったのが問題だ。
素の状態であればメニュー表を再度確認してそれも写真に撮って、伝票についてあれこれ突っ込んでいたはずである。

しかし伝票を見て不安そうにしているRを見て、このくらいなんともないという方向で頼りがいのある男を演じてしまった。
30万はもう素に戻っていい金額だっただろう。

クライナーもこんなに飲んでるはずがないとは思ったが、飲んでいないという証拠もない。
突っ込むべきはここではない。

伝票には汚い字で「お会計は現金のみとなります。」と記載がある。
そんな現金は持っているはずがない。
さて、どうなるか。

現金がないと伝えてみたところ、一緒にATMへ下ろしに行こうという話になった。
まあそうだろうな。

もしここで口座にも金がなかったら、消費者金融も一緒に回ることになるのだろう。
それなら経験済みだ。

ここは一旦大人しく払って作戦を立てよう。

店を出るとき、バーテンのおっさんから「お酒強いですね」「怪物ですか」「社長ですか」とか持ち上げられる。
うっせえばーか。

Rと一緒におっさんに連れられ、コンビニに向かい、大人しく金を下ろしておっさんに渡した。

申し訳なさそうに「焼肉はわたしが払うね」と言うRに対し、「楽しみにしてる」とだけ返し、その場で解散。

速攻で駅に向かった。
今の自分の思考力にも判断能力にも自信がない。
というかここで下手に動いても悪手を打つ自信しかない。

実は僕にはもうひとつの脳があるのだ。
自分が酔っていたとしても、その脳は酔っていない。
冷静な判断ができない状態になったときに、それまでの情報を受け渡して僕の代わりに思考してもらうことができる。
格好良い言い方をするとフェイルオーバーってやつだ。

もちろんただの例え話なので実際にどこかの培養液に僕のクローンだったり脳みそが浮かべられているわけではない。
要は友人に頼るというだけの話である。

これのメリットはでかい。
酔っ払って冷静な判断をしなければならないという状況なんてそうそう遭遇するものではないが、酔っ払っていなくても人は往々にして自分が問題の当事者であるときには冷静な判断ができなかったりする。

そんなときに友人に頼れば、自分が偏った見方をしていた部分や都合良く解釈してしまっていた部分を客観的視点で紐解き、自分にとって譲れない部分を明確にしたうえでそれ以外に対して無慈悲な判断を下してくれる。

そして相手が問題の当事者であるときには僕が客観的な意見を言う。
客観的でありながら、しかし絶対的にお互いがお互いの味方なのだ。

相手の意見は、自分が冷静だったらこう判断したという自分自身の意見と同義である。
もちろん最終的に決断し行動するのは自分自身であることは言うまでもないのだが。

そんなわけで夜中ではあるが友人に連絡を取り、友人の家に向かったのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?