月利3%の仮想通貨自動運用ツールで計220万借入した話(5)
その男の勤め先の事務所に来た。
そのままノコノコついてきたわけではなく、興味があるなら詳しい話をすると言われあらためて日程を調整し後日再度会うことになったのだ。
ノコノコついてきたのと何も変わらないが。
ちゃんとしたオフィスを構えているだけで、まともな会社に思えてしまう。
社長っぽいデスクと椅子、ソファとローテーブル、ホワイトボード、キャビネット…。
人は少ないが普段ここで仕事をしているっぽさがある。
社長っぽい人は若い。
20代後半の兄ちゃんか、30代前半のおっさんってとこだろう。
社長から直々に何かの話をホワイトボードで説明を受けていたが、何の話だったのかはもう覚えていない。
その日は何か色々と説明を受けていた。
MLMが稼げない仕組みだったり、例のツールで値動きがあったとかでその数字の解説だったり。
そのときはひとつひとつ理解していたはずだが、記録のない今となってはもはや何かの説明を受けたとしか言いようがない。
だが、とりあえず信憑性はあった。
何か嘘を吐いていないか、それだけに注力して話を聞いていたのだが、少なくとも僕に嘘だとわかるようなものや疑わしい情報は何も出てこなかった。
実際にツールを買うのはまた後日となり、それまでに最初に僕に説明した人が別の人とアポを取って話をするところを見学させてもらったりもした。
当時の僕が何を考えてそんな提案をしたのかはもう覚えていないが、自分以外の人がどんな反応をするのかを見たかったのかもしれない。
今のところ怪しい点がないのだ。
否定的な意見も聞いたうえで自分で判断するならともかく、現段階で魅力しかない。
何かを検討するならメリットとデメリットを比較するという工程が必ずあるものだが、比較対象となるデメリットが見当たらない。
だからこそ僕の中では情報不足となり、それが即決できない要因だった。
ほかの人の意見がほしかったのだろう。
カフェで再度男と会った。
今後社長は登場しないので男と言えば最初にマッチングアプリで僕と会った男を指すこととする。
カフェには一緒に入店して、僕は男とすぐ隣の別の卓に座って、ゆっくりとコーヒーを飲む。
男の卓に、今日のアポの相手がやってきた。
その相手がやっていたのもMLMだったが、僕がやっていたのとは違う会社だった。
投資ツール代理店の男はMLMの相手に対して、僕にしたのとほぼ同じ話をする。
要するにテンプレだ。
誰に対しても同じパターンなのだろう。
違いとしては、相手のMLMの会社や所属グループに応じて名前を出す人の名前を変えているくらいか。
本当に精通している。
案の定今日の相手も興味津々。
僕も当事者として聞いていたのと同じ話をもう一度聞いていたわけだが、やはり穴は見当たらない。
そして結局、自分以外の人の否定的な意見も聞くことはできなかった。
ここまで情報を集めようとして、結局わからなかったのだ。
よくわからないからやめておく、という考え方は僕にはない。
むしろわからないからこそ、実際にやってみるしかない。
アポの相手と解散した男とそのままそのカフェで話し、購入の意思を伝えた。
その日はもう遅いので、後日また会うこととなった。