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マッチングアプリで会った子にぼったくりバーに連れて行かれた話(5)

入店。
入口から入ろうとした段階で正面のカウンターにいたバーテンダーのおっさんから、ご予約されてますか?と声をかけられる。

してないです。何名様ですか?2人。少々お待ちください。

とよくあるやり取り。
そしてどうぞと奥の席に案内される。

他に客はいなかった。
席が予約されているような感じもしないし、めちゃくちゃ空いている。

その後も最後まで他の客がいなかったところを見ると、最初から全部茶番だったんだろうと今は思う。

冊子のメニュー表には食事やつまみや飲み物が載っているが、どれも料金の記載はない。
飲み放題はあるようだが食べ放題ということはないだろう。

最初クライナーで乾杯しよ?
と提案された。
クライナーが何かは知らないが特に断る理由もない。

同伴で女性の働いている店に来たというわけではないのだ。
いきなりシャンパンタワーが出てくることもないだろう。

ていうか女性呼びは面倒だな。
仮にRと呼ぶことにしよう。

一口サイズのショットグラスが来た。
テキーラみたいなキツイやつかと思ったが、全然そんなことはなかった。
フルーティーな爽やかさ。一気に酔うというわけでもない。

なんで最初にこれで乾杯だったのか。
そういう文化なのか。
異文化だ。郷に従おう。

Rはお腹が空いたとかでつまみのセットやパスタなどを頼んでいく。
僕はというと値段のわからないものを頼むことに抵抗があったため、Rが頼んだビーフジャーキーを一枚分けてもらって齧る程度。

なぜ値段の確認をしないのか気になる人もいるだろう。
その理由は極めて単純である。
ぼったくられるなんて思っていなかったからだ。

なんだかんだで日本は平和で、明らかな犯罪はすでに捕まっており、いきなり多額の請求を吹っ掛けられることなんかない。

世の中のどこかではそういう事件もあるだろうが、それは自分とは関係のない非現実的な話で、もしそういうものに巻き込まれたとしても相手が明らかな犯罪であるなら真っ当な手段でなんとかなると思っていたのだ。

そういうものだろう。

値段が書かれていないからと言って、そこまで気にするほどではない。
Rの飯代と二人分の酒代。
僕はそんなに飲むほうでもないし、飲み放題も頼んでいる。

それに今はメニューに値段が書かれていないなんてそんな小さいことを気にしている場合ではない。
ブランド物のバッグを買ってとか言われているわけではない、ただの普通の飲み代なのだ。

相手は夜職と予想される女。
一回分のサシ飲み代ごとき、いちいち気にする素振りを見せるほうがリスクになり得る。

恋愛において相手の価値観に合わせるというのは重要だ。
自分の意思を殺してイエスマンになるというわけではない。
相手にとってNGとなる行動を自分が取らないように気を付けるのだ。

もしも女性側が値段を気にするような素振りを見せるなら率先して店員に聞くべきだが、僕がメニューを見て値段書いてないなと呟いたときに「まあなんとかなるっしょ」と言っていたので、それ以上値段について気にかけるのはNGになる可能性が高い。

相手のNGを避けるためなら、二人分の飲み代などは些細な問題に過ぎないのだ。


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