月利3%の仮想通貨自動運用ツールで計220万借入した話(3)
働かずに生きたい、という願望を持った僕には必然、そういったうまい話が舞い込んでくる。
ある日恋愛塾の仲間から電話が来た。
「ヤバいんですよ、ヤバいんですよ、話を聞いてください」と。
何がヤバいのか、アイドルでも落としたのか、未成年者に手を出したのか、新たな性癖に目覚めたのか、浮気がバレたか、といくつか予想を立てて話を聞こうとしたのだが
「とにかくヤバいんですよ、今度会えませんか」
としか返ってこない。
この感覚、覚えがある。
「ああ……、ネットワークビジネス的な?」と聞いてみると、「そうなんですよ」とあっさり白状してきた。
誘い方はどこも同じだな。
ネットワークビジネス。
マルチレベルマーケティングという販売形態で、略してMLMとかマルチ商法とか言われる。
その販売手法は義務教育の社会の授業で犯罪として取り締まられたと習うねずみ講を連想させられる仕組みであることから、「マルチ=ネズミ講=犯罪」と揶揄されることが多い。
それを真に受けて本当に「マルチ=犯罪」と認識している不勉強な人もいる。
まあ不勉強というか調べるほどの興味がないだけだろうが。
小耳に挟んだ情報を信じて、誘われたとしても相手の話をまともに聞かないタイプ。
そしてそういう他者の話を鵜呑みにしやすいタイプこそ、ちゃんと話を聞いたときにはコロッと騙されたりするものだ。
とはいえ騙されたと思うかどうかは本人次第で結局は向き不向きなので、その人に合っているか運が良ければ結果を出せてめでたしめでたし、そうでなければ何も残せずカモられて終わり。
そういう世界だ。
たぶん。
さて、健康食品とか美容品とか商品にバリエーションがあり何社かあることは知っているが、そのとき言われた会社は初めて聞くものだった。
しかしビジネスモデル的にどれもだいたい同じであることは知っており、ほとんど興味はない。
だが興味がない話を聞かないことや何かを知っているつもりになることは自分の世界を狭める。
何よりビジネスの話を抜きにしても恋愛塾生との情報共有は有益である。
そう考えとりあえず会うことにした。
そしてファミレスで会って塾生と直近の恋愛活動の報告に花を咲かせていたとき、当然のようにネットワークビジネスの先輩なる人物が現れた。
恋愛塾とは関係ない、ただの一般人だった。
そこからは誰もが経験したことがあるであろう予想通りの流れなので割愛する。
僕は大人しく話を聞き、当然のようにあれこれ突っ込んで質問してみる。
結局ほかのMLMと変わり映えはしないものだった。
考えるまでもなく、これはない。
だが。
自分に何が向いているのかは、実際にやってみるまでわからないのだ。
やってみて成功すればよし、失敗すればその要因を分析してそれが克服しようのない自分の性質によるものであれば二度と手を出さなければよい。
そして自分がとりあえずやってみるという考えであるから、ほかの人も同様にそう考えるだろう。
そこに勝機を見た。
幸いビジネスに積極的で交友関係の広いツテはたくさんある。
と思って登録したのだが、結論から言うと、案の定ダメだった。
自分以外の人は案外保守的で、MLMというだけでやらない話も聞かないという人が大多数だった。
というかほぼ全員だった。
こっちは様子を見ながらそれとなく話を出したくらいのつもりなのに、親の敵とばかりに目の色を変えて烈火のごとく否定してくる。
触れてはいけない逆鱗というのは人それぞれだと思うが、これは多くの人にとって豹変するに足るNGワードなのだと学んだ。
否定的な人を無理に誘う気はないよ、とこの話をやめようとしても、収まりがつかないのかタガが外れたように罵詈雑言、とまではいかないが僕を見る目が打って変わって値踏みするかのようなものになる。
これは無理だよ。スペルド族かよ。
いやスペルド族なんて当時の語彙にはなかったが、差別や迫害を受けている種族になった気分だった。
まあ先人たちが盲目的でマナーの悪いゴリ押しの営業活動をした結果の、当然の報いではあるのだろうが。
とにかくこれは無理だ。
僕のように一旦話は聞いてみるという人はまずいないし、とりあえずやってみるかという人もほぼ存在しない。
そして僕もやってみた結果、これはない。
今まで僕を信頼してくれていたとかも関係なく、すべての人に対してこれはNGだ。
会社がどうとかではなく、この業種自体二度とやることはない。
しかし撤退するまでの間、一応それなりに真面目に試行錯誤しながら活動していた。
知り合いに当たるのをやめてマッチングアプリで男女問わず会ったりもした。
こうして、楽をして稼ぎたいという思想を持った人が、闇雲に色々な目的を持った人と会うことになったのである。
人、これをカモと言う。
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