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路上アンケートで逆ナンされたら恋愛商法詐欺だった話(2)

夜22時、知らない携帯番号から電話があって出てみるとMだった。
オフィスから架けてきているとか。

「お疲れ様です。Mです!先ほどはアンケートありがとうございました。覚えてますか?今お時間大丈夫ですか?」
みたいな何の変哲もない導入。

「いや〜、わたしは今オフィスに帰ってきたとこです。つかれた〜。アンケート本当にありがとうございました。あれから3時間くらいあそこにいたんですけど、全然人が通らなくて4人くらいしかアンケートにご協力いただけなくて、選ぶ駅間違えたなって思いました。でもじんじろさんに会えてよかったです」

なんだろう、営業電話っぽくない。
普通に仲の良い友達の愚痴を聞いているみたいだ。
一目惚れでもされたか。

新卒っぽいし、まだそういう意識が低いとか。
お近づきになりたくて本当はアウトなんだけど仕事で得た個人情報を使っちゃいました的な。
アンケートのときにもなんか気がありそうな感じだったしな。

仕事で電話してきたわけではないとするなら、ちょっと対応は変わってくる。
Mと今後どうなるとかは考えてはいないが、今付き合っている彼女と別れるのであればまた恋愛活動は再開する必要がある。
付き合い始めてから数年間すっかり活動は停止していたからな。
リハビリに活用させてもらおう。

入口は受動的だったが、まあそういうこともある。
攻略ゲーム、開始だ。
僕は数年振りに、自分のスイッチを切り替えた。

まず、自己開示が多い。
しかも愚痴を話してくれるということは、すでにしてある程度こちらに心を開いてくれている状態である。

とするとこちらが行うべきは、共感。
そしてさらなる愚痴を引き出すための質問だ。
ひたすら話を聞き続ける姿勢を貫く。

相手がすでに心を開いている状態であれば、場を温める目的でのこちらからの自己開示は不要である。
会話の流れを奪って自分の話を始めるのはもってのほか。

基本は話を聞き続けるだけでいいので、このタイプはイージーオペレーションである。
とはいえただ話を聞くだけでは、結局この人がどんな人なのかというのが伝わらないので、どこかしらで自分の魅力を伝えるためのトークを打つ必要がある。
平たく言えば自慢話だ。

これを打つタイミングは結構シビアである。
このタイプに対し相手の話を遮って自慢話を始めてしまうと一気に興醒めされる。
ベストなタイミングは相手から質問されたときに、まずはさらっと相手の気になるであろうポイントを残しつつ答え、そのポイントに食い付いて深掘りする質問が来たときに、背景を説明しながらさり気なく自分のアピールポイントを混ぜ込むのだ。

とはいえ結局は自慢話なのでどうやろうと自慢話というのは伝わってしまう。
なので一貫して聞かれたから答えたという姿勢を維持する。

質問しないと教えてくれないミステリアスも相まって、自分から自慢する人ではないという謙虚さがさらに魅力的にさせる。

逆算すると、
自分の魅力を伝えるために相手から質問させる。
相手から質問させるためにその話題を相手に話させる。
その話題を相手に話させるために、徐々に話題をずらしながら相手に質問する。
となる。

相手の話の内容に合わせてまず共感を示してから深掘りするように質問していくのであれば、質問攻めのようにはならず、むしろ自分の話に興味を持ってくれていると感じて気持ちよく話し続けてもらえる。

また、相手が話し続けていると、ある程度満足したタイミングで自分ばっかり話していると気付いて質問してくれるだろう。
聞かれるまで自分のことは話さない。
自分のことを話すタイミングでも相手の価値観に合わないことを言わない。
そのために相手の価値観を知るべく、しっかり話を聞く必要があるのだ。

目下、今するべきことは、仕事の話を少しずつずらして相手個人のことを話させることである。
自分のことを話させるように向けていく。

...なんて考える必要もなかった。

「一人暮らしですか?」「一人暮らし楽しいですよね」「わたし実家にいたときは...」

とこちらが話題をずらすまでもなく相手からのプライベートな質問、そして相手のプライベートな話が始まる。
「一人暮らしですよ」「一人だと自由だよね」くらいのオウム返ししかしていない。
まさにイージーオペレーション。

あとは個人対個人の話を、男対女の話にしていくタイミングを図る。
好感度的に大丈夫だろう。

自分はアニメが好きだけど兄がスポーツ番組好きだからチャンネル争いになってた、という相手のエピソードに対し、
「俺もアニメ好きだからチャンネル争いしなくていいな」
とぶち込んでみる。

あえてはっきりとは言っていないが、「一緒に住んだとしても」という意図が省略されている。
もし相手のリアクションがよくなければ、そんな意図はなかったでリカバリ可能だ。
「そうですね、一緒に住んだとしても喧嘩しなさそう」「じんじろさんと話しててすごく優しいのが伝わってくる」
とニヤニヤしているのがわかる照れた感じのお返事。

男女の会話クリア。
好感度は75~80%ってところか。
ここまでくればもう一度話したいとは思ってもらえるだろう。

「じんじろさんは彼女さんとかいないんですか?」「あ、いないって書いてましたね。どのくらいいないんですか?」「えー短っ、なーんだ仲間かと思ったのに裏切られました」「わたしは3年いないですよ」

恋愛話まで相手のほうから始めてくれる。
80~85%くらいあると見ていいんじゃないか。
電話じゃなければこのまま落としに掛かっていたところだ。

次のステップはデートのお誘いだが、この段階なら向こうから誘ってくるか、誘われるように誘導してきそうだ。
好きな食べ物の話題でも振れば、この前行ったお店がおいしかったとかおしゃれだったとかの話をしてくれて、いいね行ってみたいと興味を示せばじゃあ一緒に行きましょうと誘ってくれるパターンになるか。

話の流れ的に不自然になるようなら今日はこのまま電話を終わらせてもいい。
一切否定せずに愚痴を聞いてくれる相手、になれているなら、何もせず待っていれば向こうからまた電話が来るだろう。

こっちからご飯行きませんかと誘ったとしても受け入れてはもらえそうだが、今回のパターンでは相手のタイプとか自分のキャラとか今までの会話を鑑みるとこちらから誘うのは不自然な流れになる。
追いかける恋愛をしたいタイプには、追いかけさせてあげるに限る。
行動しないことが正解であることもあるのだ。

そうだな、今回は一旦電話を終わらせよう。夜も遅いしとか気遣う感じで。
LINE交換もまあしなくていいだろう。
相手は電話を架けてくるタイプである。であれば電話で話せばいい。

ある程度話を盛り上げ、落ち着かせ、そろそろ切ろうと切り出そうかというタイミングで、

「そうだ、すみません、じんじろさんと話すのが楽しくて長くなっちゃった。そろそろちゃんと仕事の話をしないと」

…ほう。


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