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路上アンケートで逆ナンされたら恋愛商法詐欺だった話(6)

入店以降~じんじろ視点ver~

なんで入店してまだ何もしてないのに個人情報取扱同意書?
何も買わないと決めて来たわけではないが、何かを買うと決めてきているわけでもない。
これからどんな話をされるのかは楽しみにしているが、現時点で何かを契約するつもりはない。

まだ契約もしてないのに、個人情報取扱同意書。
そもそも個人情報ってなんだ。まだ名前と電話番号くらいしか。
そうか電話番号か。確かに営業目的で使用するとか書いてある。
いや、だったらアンケートの時点で必要だったのでは?

この同意書のサインでは住所まで書かないといけない。
なぜ?それこそ何のために使うんだろう、人質か?

そして、誤った目的で来店していないかの確認のための同意書。
項目は色々あるが、この書面の核は間違いなく「職員が恋愛目的と誤解させる方法で勧誘していないか」の部分だろう。
恋愛目的ではなく本来の目的で店に来ていることを確認し同意させる項目である。

もし被害者が、気のあるような言動をされて騙された!と騒いだとしても、この書面がある以上、店側にはそんな意図はなかったしあなたも納得していたでしょう?と主張できるというわけだ。

そしてこの書面が存在するということは、この店はそういう手法で営業しているということになる。
M個人がそうしているのではなく、全体的にそういう方針であることを示唆している。

まともな倫理観で言えばその時点でアウトな店な気はするが、誠に遺憾ながら、僕にはそれを受け入れてしまえる土壌があった。

あれは、多額の借金を抱えた直後のころ。
レッスン料を払える金もないしバイトも増やさないといけないから芸能事務所を抜けると伝えたとき、じゃあ俳優としてではなくスカウトとして働かないかと提案され、少しだけスカウトをしていた時期がある。

そのマニュアルには、「女性をスカウトするときは相手がこちらに恋愛感情を持つように仕向ける」という内容が書かれていた。
どうやってそう仕向けるのかの中身については「こちらが相手に好意があるような態度で接する」のように書かれており、それが通じるのはイケメンだけだろと呆れたものだ。

あの事務所がアウトだったのかどうかは定かではないが、しかしそういう世界が存在するということを僕は知っている。
ホストをやっていた時期もあるが、それも似たようなものだ。

アウトのような気はするが、アウトかどうかはわからない。
だがそういう世界は確かにある。
ここも、そういう世界というだけなのかもしれない。
ただ、健全な店ではなさそうだと感じたことは忘れないでおこう。

この同意書持って帰りたいな。この存在だけで面白い。

控えをもらえないか聞いてみると、ちょっと確認してみるとの回答。
そして、このあと自分の意思で書面に記入したかの確認で先輩のチェックがあるから、先輩に聞いてみてほしいと。
ということでMが席を外しYと交代。

Yとの初対面だが、なんというか、ものすごい違和感があった。
濁しても何も伝えられないのでストレートに表すと、気持ち悪かった。

表情、姿勢、体の動き、声の張り、視線、目元、顔の動き、言葉遣い。
具体的にどこがどうだからと説明するのは難しい。
僕の直感であり、経験に基づく反応。

理屈ではない、嫌悪感、拒絶反応。

そいつがまるで、僕に好意があるかのような声色で、距離で、仲良くなりたいという態度で、話してくる。

捕食者、という単語が浮かぶ。
どう表面を取り繕おうと、性根が隠しきれていない。
こいつは僕を馬鹿にしている。格下に見ている。

まだ何もされてはいないが、一瞬で僕の敵と認定された。
表情には出さないようにしたが、一気に警戒レベルを上げる。

ここに来る前から怪しいとは感じていたが、正直かなり油断していた。
こいつから発せられるすべての情報は、人を騙そうとしている奴のそれだ。
何一つ信用すまいと心に刻む以前から何も信用できない。

これを隠しきっているとするならMのほうが演技力は高いと言える。
しかしそう考えるよりは、Mも知らずに騙されていると考えるほうが自然か。

先輩の登場ってやつはMLMでも常套手段だけど、Yを表に出したのは失敗だったな。
Yが親玉かどうかは知らないが、この組織は大したことはなさそうだ。
汚い顔を隠せなくなった時点で前に出ず下っ端を動かすことに専念すればいいものを。

とはいえ、まあ直感は直感だ。
本当にアウトかどうかはまだ未確定。

MもYも名札には名字しか書かれていないしありきたりな名前だからどうせ偽名なんだろうとは思うが、未確定だ。
もう少し判断材料が欲しい。

今まで書いた書類の控えが欲しいとYに言うと、控えはないとの返事。
じゃあ写真を撮ってもいいか聞くと、企業秘密だからお断りさせていただいていると。

Yの第一印象を抜きにしても、客観的に見て怪しい。
同意書の何がどう企業秘密だというのか。
求められても控えを渡さないというのはコンプライアンス的に大丈夫なのか。

事あるごとにコンプライアンスコンプライアンス言ってるけど、だからうちは詐欺じゃないですよしっかりしてますよ安心ですよとアピールしているようにしか聞こえない。

そんな逆に怪しくなるほどアピールを重ね塗りするよりも、Yを客前に出さないほうが賢明なんじゃないだろうか。
それとも、Yに嫌悪感を抱くのは僕が人を騙す側の人間を何度も見てきているからであり、これが詐欺初見だったりするとコロッと騙されちゃうんだろうか。

しかし。
ちょっとこちらからの要求を出してみた感じ、Yは結構脆いかもしれない。
小突くとしたらMよりYのほうがボロを出してくれそう。
想定外の質問が来たら多少文脈に合わなくてもマニュアルにある返しをするって感じだ。
それが文脈に合っていないということを自覚できるだけの頭があるかも怪しい。

Mよりも面白いことを口走ってくれそうだ。
録音する機械持ってくればよかった。

恋愛活動に精を出していたころはデートのときには録音していて、後から自分のトークの反省をしたり次回の話のネタをまとめてたりしてたけど、最近新しく買ったボールペン型で映像も撮れるやつは使い勝手も悪いし見た目が露骨だったから置いてきたんだよなあ。
今回はデートじゃないし。

こんなに面白いことになるなら持ってくるんだった。
惜しいことをした。

入店して初っ端からかなりアウト寄りではあるけど、まだ確信ではない。
確信するのは核心を突いてからだ。


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