よくわかる 法律入門 #12 憲法第17条について
公務員の不法行為
先生「次は、第17条に行きましょう。『何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。』」
学生A「これって、普通のことなんじゃないですか?公務員じゃなくても・・・。」
先生「まぁそうですけど、不法行為を行ったら、その個人が責任を負う、というのが普通なのです。これはね、国が責任を負います、という意味で画期的なのです。」
学生A「あ!本当だ。国または公共団体って書いてありますね!っていうことは、税金から賠償金を支払ってもらえるってこと!?」
先生「まぁ、そうなります。」
学生B「そりゃいいですね。とりっぱぐれがない。不法だから、違法というわけじゃないんですよね?」
先生「難しいですよね。公務員は、国民全体の奉仕者とされています。そして、公務員は、法律に基づいて、彼らなりの仕事をするんですよ。例えば警察官がいる。で、警察官は、容疑者を逮捕したりして、身柄を拘束することがあるじゃないですか。これって監禁でしょ?普通でいえば、監禁罪なんですよ。つまり、そういうことをしてもいいという法律の根拠が全くないと、不法行為です。」
学生A「でも、それは仕方がないですよね。お仕事なんだし。」
先生「その通りです。例えば、アメリカでは犯罪者を逮捕し、有罪まで持って行くための手続きが厳格に定められており、違法捜査だということになれば、それですぐに無罪になってしまうんです。これに疑問を呈した映画があります。詳しい方はご存じだと思うんですよね。主人公は必ず違法捜査をして犯罪者を捕まえます。でも、やっぱり無罪になってしまう。そして、自分自らその犯罪者に鉄槌を下すというドラマです。アメリカの厳格すぎる手続きを風刺していますね。
前の話では、警察官がカメラで写真を撮ることが問題になりました。そして、肖像権が認められ、私たちは警察官から写真を取られない権利を憲法上保障してもらいました。この時は、写真撮影が捜査手続きの一環となっていたかどうかはわかりませんが、おそらくはなっていたでしょう。いずれにせよ、憲法上それが否定され、法律の根拠がない行動であったことから、法にあらず=不法であるとされたのです。
じゃあ今度は、警察官に逮捕されない権利。例えば不逮捕権というのが、新しい人権として憲法上認められるかと言うと、そうはなっていないんですね。(国会議員の不逮捕特権というのはありますけどね。)これは憲法上の保障は受けませんし、それは国民の皆さんも納得できると思うんです。自分が悪いことしといて、捕まえにきた警察官に文句を言う、というのは、良くある話ですけどね。
不法行為とは何か、結論から申し上げますと、そもそも法律で正確な手続きが示されていない行為で使われる言葉でしょうね。」
学生B「法律で正確な手続きが示されていない行為?」
先生「不は、否定の意味ですから。法ではない行為です。そして、その行為の中でも、相手に損害を与えるような行為ですね。これに対して賠償を請求することができる、ということです。賠償というのは、損害の填補という性格を持ちます。つまり、損害がなければ、法ではない行為でも、賠償をする必要はないわけです。」
学生A「全然わからないです。」
先生「違法と不法。この違いはどこにあるのでしょうか。ここを読み解かなければなりませんでしょうね。」
学生B「どうすればいいんですか。」
先生「ちょっと例をかき集めてみましょうか。違法駐車とはいうけど、不法駐車とは言わない。銃の不法所持とは言うけど、違法所持とは言わない。不法侵入とは言うけど、違法侵入とは言わない。不法占拠とは言うけど、違法占拠とは言わない。違法捜査とは言うけど、不法捜査とは言わない。刑法では、違法性と言う言葉は出てきますが、不法性とは言わない。さて…難しいですね。
でも、私の辞書だと、不法と言う項目に、違法と言う意味だ、とも書いてあるんです。辞書を鵜呑みにしてはいけないと言った手前で、やっぱりかと思う内容ですね。
違法とは、法に違(たが)うということなので、法律が求めるようには行動しなかった、と言う意味で、違法だと考えられますね。つまり、不法と違って、違法だと判断するための法律が既にあります。違法捜査が違法捜査というのも、捜査手続きは刑事訴訟法に定められていますから。それと違う捜査方法をとると、違法だとされるのでしょう。
よって、それが違法とされるかどうかは、本来法律で適法な状態が書かれているからだろう…と考えられます。」
学生B「だ~。ややこしい!聞くのが嫌になる!」
先生「ええ。実は私も混乱しているところなのです。不法と違法はどう違うのか。私なりに、このように基準を設けてみました。公務員は、全て憲法に基づき行為します。そしてその憲法から派生してできた法律にも服するわけです。その法に違う行為を取れば違法。もし法にはない行動をとれば、不法です。公務員は全て法律あるいはそれに基づく規則などに基づいて職務を行うので、その職務の遂行について、ルールに照らしてルールから外れた行動を取れば、違法、ということなんでしょうね。」
学生B「それ、本当にあってるんでしょうね。」
先生「どうでしょう。さっきもいいましたが、例えば、警察は捜査をする時、手続きが定められています。これも一つの法です。手続きには、法がありますね。刑事手続法など。ですから、これに反する行動は違法であり、実際、違法捜査という言葉が使われます。不法捜査という言葉は聞いたことがありませんね。」
学生B「そうですけど、他はどうなんでしょうね。」
先生「では、銃の不法所持に行きましょうか。こちらは不法という言葉が使われていますね。一般的に、警察官、あるいは自衛隊員くらいしか銃を持ってはいけません。それ以外の、例えば私たちのような一般ピープルが銃を持っていると、銃の不法所持とされます。」
学生B「まぁ、それはわかりますけど。」
先生「なぜ銃の違法所持ではなく、不法所持なのか。それは、私たちには銃を持つことが出来る機会がないからです。一定の手続きに従って、銃を手に入れ、銃を持ち、発砲することが許されていることはありません。もしそのルールに違反して銃を手に入れ、手に持っている場合は、銃の違法所持。しかし、そもそもそんな手続き自体が存在しません。私たちは、どんな場合でも銃を持つことが想定されていないのです。で、大体問題になるのは、私たちのような一般ピープルが銃を持っていた場合です。だから、この場合は銃の不法所持と呼ばれるのではないかと。法にはそんな手続きも実体もないですからね。」
学生B「う~ん。なるほど。」
先生「では、違法駐車と不法駐車も見てみましょう。駐車は、決まったところに駐車しなければいけません。これも一種の手続きです。決まったところに止める。駐車が許可されたところに止めるのが求められる手続きだとしますと、それに違反しているから、違法駐車です。」
学生A「そうですね。でもそれは公務員サイドじゃなくてもできるような・・・。ということは、私たちにもできる手続きがあって、それに違反していたら違法。もしそんなことが全く想定されていないのに、そういうことをしていたら、不法なのかしら。じゃあ、私たちがこうやって、ただ喋っていることも、不法なんじゃないかな。だって、私たちが相手と意思疎通を交わすこと自体、法律で手続きや実体が定められているわけじゃないんだし。」
先生「その線で考えています。ですから、ここが重要です。不法行為っていうのは、これだけで悪いことだ!と思ってしまうかもしれません。しかし、17条をよくよく読んでみると、【その不法行為によって、損害が発生する】必要があるんです。つまり、法には書かれていない行為によって、何らかの損害が発生してしまった場合には、賠償をする。ということは、裏を返せば、不法行為があっても、全く損害がなければ、賠償はしない、ということになるのです。もちろん、不法行為自体がなければ、賠償はしませんね。」
学生B「どういうこと?不法ということは、法ではない行為。つまり、事実行為によるものでも、損害が発生すれば賠償するってこと?」
先生「そうですね。ただ、違法行為であっても、違法な部分は不法である、と考えれば、違法な手続きによって生じた損害もやっぱり賠償する必要があるかと思います。法ではない行為は、すなわち事実行為に等しいです。警察官や検察官が、証拠の捏造を行うことがよくありますよね。これは、明らかに手続き違反なので違法行為です。そして、これは事実行為でもあります。これで国家賠償請求ができるかどうかですが、よく行われていますよね。でも、違法行為であり、不法行為ではないから、17条の不法行為には当たりません。と解釈するべきでしょうか。それはおかしいですよね。だから国家賠償を請求できると考えられます。そういう意味で、不法も違法も同じ意味だと辞書には書かれているのだと。私は今、そのように考えています。」
先生「では、ちょっと難しい。不法占拠はどうして違法占拠と言わないのでしょうか。これを考えるとですね、案外簡単です。」
学生B「というと?」
先生「おそらくですが、公務員が不法占拠するっていうことは、めったにないです。どこかの施設を勝手に占拠するっていうのは、大体テロリストとか、何らかの暴力集団です。そうした施設を占拠する手続きなんていうのは、そもそも公務員が関わることがないのではないかなと。」
学生A「でも、私この前、体育館を部活動のために借りる時、あらかじめ事務室に予約登録をしておかなきゃいけなくって、登録したんですけど、これを無視して使っていたら、手続きに反しているということで、違法占拠になっちゃうんじゃないんですか?」
先生「確かにそう考えられそうですね。ただ、手続き自体を取っていないので、その手続きが法に違反していないわけだから、違法というわけではないとか・・・。そのレベルは、法ではなく、学校内部のルールに過ぎない。つまり、規則違反としか見なされないんじゃないかなと。」
学生B「あ~!先生、かなりこじつけてるでしょ!」
先生「バレましたか。でも、いい線いっていると思いますけどね。そもそも、テロリストが不法に占拠する施設なんていうのは、たいてい占拠の手続き自体が用意されていないことが全てといっていいでしょう。例えば、飛行機のハイジャックとか。バスジャックとか。その機体を占拠する手続きが用意されていることなんてないですよ。そんなの、一定の手続きに従えば、じゃっくしてもOKっていうことじゃないですか。他にも、例えば、リゾート開発に反対して、工事現場の前に座り込みを行う行為。これも、手続きにのっとれば座り込みしてもいい、なんていう手続きはそもそも用意されていないはずです。他人の家を勝手に乗っ取るときもそうですし、銀行強盗が銀行を乗っ取るときもそうですね。そもそも他人の家を占拠出来る手続きなんて聞いたことがないんで、そんな法律自体存在しないと思うんですよ。」
学生B「うん・・・なるほど。確かに。」
先生「確かに、学生Aさんがおっしゃるように、体育館の使用許可をあらかじめ取っておく手続きに、何らかの違反があった場合、違法占拠ということになるのでしょう。しかし、大体そういう言葉を発するまでもなく、別の人からお咎めを受けて終わり。誰もその時間に予約とってなければ、そのままさりげなく部活をやって終わり。あまり占拠だ占拠だと騒ぐこともないのが実際だと思いますね。で、さっきもいいましたが、そのレベルは、法ではなく、学校内部のルールに過ぎない。つまり、規則違反としか見なされないんじゃないかなと。」
学生A「そうですね。」
先生「じゃあ、ここまで来たので、ついでに、不法侵入も行きますか。そもそも侵入することに手続きなんてないですよね・・・。侵入ってだけでもう不法っぽいし。適法な侵入ってあるのかな。これは、どんなにさりげなく、穏便に建物の中に入っても許可なく立ち入ると不法侵入とされますからね。むしろ、不法だから侵入っていう表現になっていると思います。」
学生B「確かに、侵入の仕方が手続きとして示されているとはおもえません。」
先生「ですね。不法入国はどうでしょう。入国管理局は入国の手続きを定めているはずです。その手続きに違えば違法入国という表現の方が適切ではないか・・・と思うのですが。大体、入国してくるのは、最初は外国人でしかありません。少なくとも、国が成立した当初はね。そこで、私はピン!と来たことがあるんですよ。過去の話を思い出していただきたいのですが、そもそも外国人が憲法の保障を受けることはありません。全ては慣習による…というお話をしました。だから、外国人については、入国は全て不法なのではないか・・・というのは考えすぎでしょうか。」
学生A「なるほど・・・。でも、日本人が海外から日本に戻ってくるときに手続きを踏まなければどうなるんですか?」
先生「そうか。でもそれも不法入国でしょう。この場合は、違法な手続きを行うかどうかは、入国管理官側の行動によると思うんですよね。彼らがしっかりと手続きを取りさえすれば、入国してくる人たちは、もう他のことはできないように厳重に縛られていますから。彼らが手続きに違反して、外国人や日本人を入国させれば、手続き自体に違反しているので、違法です。でも、これは管理局側の手違いですからね。不法入国というのは、主役が入国してくる外国人や日本人のことです。ですから、手続き自体を違うかどうかは、全部管理局側の話なのだと思いますよ。普通、不法入国という場合、他国から入ってくる側を主役とするので、手続きは関係ないんじゃないかなと。」
学生B「ややこしい・・・。でも、なんとなくわかりました。」
先生「見分けるには、客観性が大切だと聞いたこともあります。」
学生A「客観性?」
先生「はい。ちょっと先ほどまでの話は全部忘れてください。刑法で学ぶことなのですが、犯罪とされるある人間の行為は、違法性があるかどうかを考えるのです。この時、違法性の判断は客観的である必要があります。法に抵触してないのに犯罪だと言われるのはおかしいですからね。客観と主観の違いは、【主観と客観について】の記事を読んでくださいね。
このことから考えを進めると、法律と異なっているかどうか、ということは、客観的に決めることができます。なぜなら、手続きにのっとって行われなければならないからです。手続きには一つ一つ段取りがあり、手続きが行われた事を証明するものが必ず存在しています。
ところが、不法侵入の場合、例えば、誰かの家に勝手に上がり込む場合、法律上、何らかの手続きが用意されているわけではありません。その家の所有者や、管理をしている人間の同意を得られるかどうか、が鍵になります。」
学生B「そうですね。自分も友達の家に行くとき、挨拶をするくらいですね。」
先生「そうです。家の中に人がいること自体は、全く違法ではない。不法侵入とは、管理権者や所有者の同意がないのに家屋へ入ることですよね。その同意っていうのは普通は目に見えません。ですから、このように、所有者が気持ちの上でその侵入を許しているか、あるいは、許していないかだけです。そのような、主観が絡む問題については、不法と言う言葉を使う。
ちょうど法律の手続きに違反しているかどうかがはっきりと誰から見てもわかる、客観としての違法と対比できるわけですね。」
学生A「じゃあ、銃の不法所持は?」
先生「例えば、銃なんて言うのは警察官や自衛隊以外が持つことは、日本ではめったにありませんね。考えられるのは暴力団くらいです。アメリカだったらどうかわかりませんが、日本には、銃を持つための手続き・・・なんていうのが、そもそもないです。だから、銃の違法所持なんていうのは、おそらく想定されていません。私たち私人が銃を持つためには~なんていうことは、法律の手続きなんかにはない。銃刀法という法律はありますけど。普通、持つこと自体が想定されていないですよね。」
学生A「なるほど。つまり、他人の同意なく、家に入るときと同じで、他人の同意なく銃を手にする場合しか考えられない、ということでしょうか。」
学生B「それを考えると、不法占拠も、占拠するための手続き、というのがないわけですね。」
先生「そうですね。例えば、ある集会のために、ホールを借りる場合。決められた時間になっても出て行かず、ずっと居座るとすれば、これは不法占拠でしょうね。でも、ホールを借りる時に、手続きは行っているわけですから、この考えだと、違法占拠と言わなければおかしくなるかもしれません。」
学生B「こじつけるのだとすれば、遺法占拠と言う言葉を使うのであれば、占拠の仕方や手続きの取り方が決まりに違反しているからでしょう。で、そもそも時間外の占拠は同意のないことなので、その場合は、不法占拠になるんじゃないでしょうか。そして、不法占拠と言われるときは、普通、同意のない占拠だから、不法占拠って言われるんじゃないですか?」
先生「いいですね!そのとおりかもしれません。じゃあ、銃の不法所持も、同じかもしれませんね。例えば、警察官や自衛隊が銃の所持を認められていますが、この法律で捕まるのは、これ以外の一般人が銃を持っていた場合です。前著でも、3Dプリンターで製造した銃をYouTubeで公開した人がつかまったことに言及しましたが、銃を持つことに何ら同意を得ていない人だったからだ・・・という見方ができます。」
学生B「すると、違法所持と言う場合は、銃を持つこと自体が法律に違反している・・・ということになるのかな。例えば、警察はナンブっていう拳銃を持つ決まりのようなんですが、アサルトライフルとか、サブマシンガンとか、ロケットランチャーを持っている警察官がいるとすれば、銃の違法所持になるのかもしれません。」
先生「すごいです。そのとおりかもしれませんね!」
先生「そう考えていくと、違法駐車も同じかもしれません。駐車は決められた人が決められた場所に車を止めます。少なくとも、白い枠線が引いてありますね。この中に置くことを、手続きに従った駐車であるとします。つまり、手続きが事前にあります。でも、どこか適当なところに車を置いたり、誰かの権利があるところに他人が勝手に置いたりすると、これは手続きに違反したということになり、違法駐車になりますね。道路交通法がありますし。それに反すれば違法でしょう。
違法捜査でよくあるのが、例えば、警察官が、裁判官の令状を取らずに逮捕に踏み切ったとか。令状に指定された範囲を超えて捜査を行った、ということですね。
袴田事件と言うのが有名な事件ですが、最近になって、証拠は警察によって捏造されたものだと言われるようになりました。もしこれが認められれば、国家賠償請求ものですね。証拠のでっち上げは法律の手続きでもないし、司法機関を騙しているわけですから、偽証罪にもあたるでしょう。これは、捜査の手法が手続きに乗っかっていなかった、とか、法律通りではなかった、という意味での違法捜査というよりは、公務員の不法行為でしょうね。」
学生B「なるほど。」
先生「私の記憶にすぐあがってくるのは、オウム真理教の起こした事件で、河野義行さんが誤認逮捕された事件とか、検察の証拠のでっち上げである、村木事件とかね。警察官は、犯罪者ではない人を逮捕すること自体は、違法ではないのです。犯罪者であるかどうかは、実際に裁判所で有罪判決を受けて、判決が確定するまでは容疑者にしかすぎませんからね。容疑者を逮捕して違法行為だと言われたら、厳しいです。だけど、この人は犯罪者じゃないってわかっている、あるいは、もうちょっとちゃんと調べれば、わかることなんだけど、こいつを犯人にしてしまおう、ということがあるわけです。その場合は、不法行為というべきなのでしょう。だから、公務員が不法行為を行ったときは、損害賠償ができると定めているのが第17条があるのでしょう。過酷に生きることは過酷に死ぬことよりも残酷と言います。警察官のこうした行為は、普通の殺人者なんて比較にならないくらい残酷な所業ですね。
長くなりましたが、違法と不法、明確に分けて欲しいですが、どこかに書いてあるんだろうか・・・。」
学生A「なるほど・・・。検察官でもそんなことしちゃうんですね。やっぱり、司法試験に受かるだけじゃ、人間の基本は鍛えられないんですね。」
学生B「ま、僕はなんとなくわかった・・・。」
先生「そうですね。検察官・弁護士・裁判官になりたい!と言う気持ちは応援して差し上げたいですが、結局何になるかよりも、何をするかの方が大事ということです。なる!というのは、なった後のことがわからないし、人によっては、合格した一瞬にしかすぎませんからね。
人間、いつ犯罪者になるかわかったものではありません。何か人からすごいと思われるものになった後でも、何をしたかによって、犯罪者に転がることもあるわけです。
それは前著でもお伝えしたことですね。
というわけで、これを私の結論とします。公務員の違法行為により、ではなく、公務員の不法行為、と書かれているのは、法律の違反はもちろんのこと、公務員自体が職務遂行上取った行為全てを含めるために、不法行為という言葉を使っているのだと。そして、不法行為というのは、その言葉だけで不穏な印象を受け、悪い行為というイメージがわきますが、不法行為自体は悪い行為とは限りません。私たちがお互い、こうやって意思疎通すること自体も、法に書かれていない行為なので、不法行為なのですから。もしこれで、罵詈雑言を相手に浴びせる、ということになると、侮辱罪ということになったりするわけですけどね。だから当然、公務員が不快な発言をするのも、一種の不法行為でしょう。
で、ガクッと肩が落ちるようなことを言います。この17条があるおかげで、国家賠償法と言う法律ができているんですが、その法律の第1条には、こう書かれているのです。『国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。』」
学生B「えっ!違法って書いてある・・・。憲法では不法だったのに、国家賠償法では、違法になっちゃってる!」
学生A「とすれば、不法も違法もやっぱり大した違いはないってことでしょうか。」
先生「これには複数の可能性が考えられます。一つ目は、憲法の権利を具体化するために法律が作られるんですけど、事実上、不法行為だと広すぎるので、さりげなく、違法行為に範囲を狭めた。ということです。国家賠償って、あまり認められないんですよ。それは、さりげなく、不法から違法へ範囲が狭められてしまっているからかもしれませんね。国がよくやる手です。
二つ目は、違法だろうが不法だろうが、どちらも大した違いはないという可能性はありますが、一つ言っておけば、この規定は刑法理論をそのまま持ってきていると言えます。刑法理論では、違法性を論じます。違法性は不法性とは言われません。国家賠償法で問題となるのは、公務員の行為の違法性だということでしょう。公務員は機械化されていますから、マニュアル・指示に従って行動するわけです。とすれば、その職務を行うときに、そのマニュアルに沿わないと、違法性が認められやすくなるんでしょうね。逆に、マニュアル・指示通りだと、違法性は治癒されるのです。これを違法性阻却と言いますけど。
であるとすれば、違法性が認められた結果として、その行為は不法行為として認定される、ということができます。
逆に、もし公務員が、国の手続きとかと全く無関係な行為、公務員じゃなくても出来る犯罪行為。例えば、職務中に棒でいきなり人を殴って殺したとかね、お金をだまし取ったとかというと、そんなことしていいとはそもそも書いてないですよね。「その職務を行うについて」ですから。職務行為の範囲外の行為であることは明白ですからね。だから、ここまでになると、国家賠償法ではなく、これは民法上の不法行為とか、刑法上の犯罪行為になるのでしょう。国と個人というよりは、もう個人対個人と言うレベルになっていますから。」
学生A「そうですね・・・。でも、線引きがかなりあいまいな気がしますね。違法は法の手続きのなかで、不法は違法と認められた結果、不法になる・・・。あるいは、単に不法な行為ということですか・・・。」
先生「そうですね。法律は、マクロからミクロまで、線引き線引きですから、何でこれはこっちなの?っていう、明確な理由をつけて、どこかに書いておいた方がいいかもしれませんね。あるかもしれませんけど、私はちょっと知りません。」
先生「この17条は、どちらかというと刑法を学んだ後で振り返った方がよいのではないか…と思います。」
学生B「はい。」
先生「公務員が、職務をしていない時。一私人として犯罪行為を行ったら、これはその人個人の犯罪になるかと思います。公務員の個人的行為は、その公務員を私人として、通常の刑法で処罰しますが、公務員として行った行為は、国の行為とみなされ、国が責任を行うことがある・・・。ということはわかっておいてくださいね。とりあえずそれだけでOK. 違法、不法の考えでグダグダと言いましたが、明確な区別はない、と考えておいてもいいかもしれませんし、もっと具体的なケースを見ていく必要があると思います。何だか今回は、すっきりしない終わり方ですね。」
学生B「はい・・・。むずかし~」
学生A「難しいです。」
この章のまとめ
公務員の不法行為
不法と違法の区別は無いという話もある。
著者の考えだと、まず適法という状態がある。法律に沿った公務員の行動は、適法とされる。
次に、法律に沿っていない公務員の行動があるとする。これは、違法と言われる。
そして、違法となった結果、それは不法と同じであり、公務員の不法行為として認められることになる。(国家賠償法では、故意、過失の主観的な要素も必要)
法律には書かれていない行為は全て不法行為である。不法行為という言葉自体、不穏で、悪い行動っていうイメージを持つが、これは、法ではない行為なので、むしろ私たちが毎日行っていること。これによって、他者に損害が発生した場合、不法行為による損害を与えたという問題に発展する。
単純に、公務員が、職務外で、私人として不法行為を行うことがある。しかしこれは、公務員としてではなく、単に私人としての不法行為という扱いになる。(例えば、公務員である夫が仕事から帰って、自分の妻を殺した等)
違法と不法の区別を付けるのは難しい。そして、刑法の違法性についても学んでおいた方がよいだろう。
違法は法律に根拠があること、それに違うことであるが、不法は、それよりもずっと広く、全ての行為を指している。
また、違法は手続きが定められているので、それに沿った行為かどうかを客観的に判断できるが、不法侵入のように、単に相手の同意に背いた、といったような、目に見えない手続きに違反しているような場合、不法という言葉が使われやすいようだ。このように、客観的か主観的かという観点も存在する。
憲法第17条は、国家賠償法の根拠となる規定となる。
憲法第17条では不法行為となっているのに、国家賠償責任法では違法となっているのは、さりげなく範囲を狭める狙いがあるのかもしれない。