股関節からみた変形性膝関節症
膝関節はしばしば「結果の関節」と言われ、上位からは体幹や股関節、下位からは足部・足関節から影響を受け、アライメント異常を呈します。
つまり、よく問題とされるknee-in&toe-out、knee−out&toe-inなどの膝のアライメント異常のほとんどが、膝自体の問題というよりも膝を挟んだ上下の関節の問題とも考えられます。
私は膝関節を「中間管理職」的な役割として捉えています。
たとえば足関節を部下、股関節を上司とすると、部下の働きが悪ければカバーしなければなりませんし、上司が無茶な要求をしても応えなければなりません。
こうして上と下からの影響を受けながらも、うまく対処する能力が膝関節には求められます。
逆に、股関節、足関節の機能が高ければ膝関節が問題を抱えることは減ると考えられます。そのため、膝関節疾患の治療では、足関節〜体幹に至るまで全体を考慮した評価・アプローチが必要となります。
今回は主に「股関節」からの影響について内反型の変形性膝関節症(以下:膝OA)を例に書いていきます。
■下腿外旋偏位の影響
●膝OAの典型的姿勢
内反変形の場合、多くの場合で骨盤は後傾し、膝関節は屈曲・内反・外旋位、足関節は底屈・回内位となります。
しかし、よく教科書でよくみる下行性運動連鎖の図をみると、骨盤後傾位では膝は屈曲・内反・内旋、足関節は背屈・回外と示されています。
どうして膝OAの典型的姿勢と下行性運動連鎖の図に違い(スライドの赤字)がでるのでしょうか?
基本的に、膝を伸ばすためにはScrew home movement(膝最終伸展30°の範囲で10°の外旋)が必要とされています。
Open Kinetic Chainでは脛骨の外旋が生じますが、Closed Kinetic Chainの状態の立位で膝を伸ばす場合は、足部が固定されているため、大腿を内旋させることで相対的に膝外旋位をつくり成立させています。
しかし、骨盤後傾位では大腿が外旋してしまうため、この運動を作り出すことができません。そのため、大腿外旋よりもさらに下腿を過外旋させて膝を伸展します。
それに伴い、足関節は背屈・回外しますが、膝の内反・外旋が強まるにつれて、足部が地面に適応するために回内を強めて外反扁平足をとるようになります。
よって、前述した膝OAの典型的姿勢を取るようになっていくと考えられます。
このように膝OAの多くは下腿外旋位を呈していきます。
●膝の中心靭帯安定化機構の破綻
膝関節は内旋することで、前十字靭帯と後十字靭帯が絡み合い、関節は圧縮方向に誘導され、安定性が高まると言われています。
これは膝の「中心靭帯安定化機構」と呼ばれます。
膝OAのように外旋偏位を呈しているとこの中心靭帯安定化機構が働かず、立ち上がりや歩行の立脚初期に膝の不安定性が生じ、痛みに繋がります。
また靭帯による安定性がつくれないと筋の過剰収縮で固定的に膝を使うようになります。このことからも外旋偏位が膝にとって不利なことがわかります。
●下腿外旋偏位は膝屈曲制限の理由となる
基本的に、膝関節は伸展時にScrew home movementにより外旋されますが、必ずしも外旋を伴うわけではないとわかっています。
例えば、General Joint Laxityを有する者や高齢者は膝伸展時の外旋角度の減少を認め、高齢者の一部では内旋する者もいるようです。
しかし、深屈曲時には例外なく膝は内旋していきます。この際、外旋偏位が強いと内旋しきれず屈曲制限の原因となります。
上記のように、下腿外旋偏位は膝OAの症状に大きく関与しており、その修正は膝OAの治療の肝になると考えています。
■KAMの影響
●Knee adduction moment (KAM)とは?
KAMとは膝関節内側コパートメントに加わる圧縮ストレスを反映する指標であり、膝OAの病期の進行に関わる可能性が高いと言われています。
健常者では立脚初期に脛骨の内旋と内方傾斜により膝関節が内方に移動し、立脚期を通して約1.2°の外反位を保つことによりKAMの増加を防いでいる。
山田英司:膝関節内転モーメントに着目した変形性膝関節症の理学療法評価.理学療法.2015,32(12),P1068
そのため、内反変形はKAMを大きくする要因であり、また股関節外転・外旋位もレバーアームを長くする要因になると考えられます。
膝関節内側コンパートメントの圧縮ストレスは変形を助長するため、KAMの制御は膝OAの治療で重要な要素となります。
KAMについては以下の記事に詳しく書かれておりますのでご参照ください。
■膝関節伸展制限と股関節伸展制限が及ぼす影響
●股関節伸展制限が及ぼす影響
典型例のように骨盤後傾位で膝が屈曲位にあると歩行の立脚後期での股関節伸展が不十分になります。そのため、腸腰筋の柔軟性も失われ、股関節伸展可動域を失います。
また、骨盤前傾位の場合は、アライメントから腸腰筋、大腿直筋の短縮が生じ、股関節伸展制限となります。
伸展可動域が十分にあると腸腰筋が遠心性に伸ばされ、ゴムを伸ばしきったときのように力がたまります。そして、ゴムを離して一気に戻るように力を爆発させて、下肢の振り出しを行います。
しかし、股関節伸展制限がある状態では、伸ばしきられないゴムのように、戻る力も弱くなって振り出しの力は減弱します。
それを補うように足関節底屈力を強めて歩くか、歩幅を小さくして歩くようになります。
足関節底屈を強めると下腿三頭筋や長母趾屈筋、そして長趾屈筋などに負担がかかります。下腿三頭筋は膝関節屈筋であるため、さらに膝屈曲を強める原因となります。
また、股関節伸展制限が生じると代償的に体幹前傾を強めることになります。その結果、床反力作用線が股関節回転中心より前方を通過することになり、大きな内部股関節伸展モーメントが必要となります。
つまり、股関節伸筋群である大殿筋、ハムストリングスに大きな筋発揮が要求されます。
ハムストリングスの過活動が起こると拮抗筋である大腿四頭筋の筋出力が低下することが想定されます。
大腿四頭筋の筋出力低下は踵接地の衝撃吸収能力低下を引き起こし、痛みにつながると考えられます。
●膝屈曲位が及ぼす影響
変形増悪により膝関節の伸展が制限されるため、初期接地時に膝関節伸展位をとれなくなります。
そのため、足底全体での接地となり、ヒールロッカー機能も消失します。足底全体とまではいかずとも踵の丸みの頂点では接地できなくなります。
井野はヒールロッカーについて以下のように述べています。
踵部を回転軸とし、立脚期において足関節、膝関節、股関節の正常な屈伸パターンを誘導する。具体的には、踵骨外反(距骨下関節回内)、距骨内転、脛骨内旋、そして大腿骨内旋の運動連鎖が生じる。これにより下腿および大腿のアライメントが概ね内外反中間位へ誘導される。
井野拓実:膝関節内転モーメントに着目した変形性膝関節症の運動療法.理学療法.2015,32(12),P1113
このようにヒールロッカーは歩行時の運動連鎖の起点となります。ヒールロッカーが機能しないとこれらの正常な運動連鎖が断ち切られてしまします。
また、ヒールロッカーは踵の丸みをつかって効率のよい前方への重心移動を誘導しますが、足底全体による接地となると前方への重心移動にブレーキをかけてしまい、大腿四頭筋への負担を増してしまいます。
歩行で膝蓋大腿関節の痛みを訴える患者さんはこのような歩行パターンに陥っていることが多いので注意が必要です。
■治療のポイント
上記をまとめると膝OA治療におけるポイントは以下のようになります。
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