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短編 「暖房を止めた部屋で」
暖房を止めた僕の部屋は冬の冷気に包まれていた。寒さはまるで隠れて会わなくてはいけない2人の関係を壊そうとする世間の常識のようで、僕らを引き離そうとしているように思えた。
僕達は冷気を遮ろうと、常識から逃げようとして、毛布の隙間を無くし、身体を密着させていた。そのおかげで、ベッドの中だけは暖かく自由だった。僕は彼女を背中から抱き、彼女は僕の手をずっと握り、止めどなく言葉を紡いでいた。
「なんでこんなになんでも話ちゃうんだろう」
「え?」
「なんか、聞きたくないことも言っちゃってるかなあって」
「そんなことないよ。君が思っていることは全部知りたいから」
彼女が少し、僕の手を握る指に力を込めた。僕も指先に力を入れて応えて、癖のある髪にキスをした。
「でも、辛くなったら教えてね」
「辛くなんてならないよ。心配しなくていい」
すると、彼女が僕に顔を向けた。そして僕の身体にしがみ付いた。胸に彼女の柔らかい唇を感じると、僕は小さい顎に指をかけてその唇を引き寄せた。
無数のキスと吐息が、毛布の中の温度をさらに上昇させた。すると、寒かった部屋の温度も上がり、窓に水滴が付きはじめた。不意ににその事に気づくと、僕は常識でさえも2人の関係を壊せはしないと、そしてこの関係は本物だと信じたんだ。
この冬の夜、どんな場所よりも暖かく、熱く、幸せに溢れたこの部屋での一時を、僕は忘れることができない。
だけど、部屋の外の温度は1°として変わっていなくて、常識は常識のままで、ベッドの中の君の温度もいつかは冷めてしまうことに、僕は気づいていなかったんだ。
#恋が主食同盟 #忘れられない瞬間#小説「鎗ヶ崎の交差点」
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