HIPHOPブーギー 第4話 VIPルーム
だけど俺はけっこうついてる男。そん時はマジ死んだと思ったけど、意外な展開に事が進んでった。
ビギーみたいな取り巻きはフープラのマネージャーだった。そんでそいつは俺を抱えながら言ったんだ。
「なかなかクールだったぜ。途中まではな」
鼻水垂らしてた俺もそれ聞いた時にゃちょっと蘇った。んで、連れてかれた先を見ると完全復活。ていうか、逆にちびっちまうくらいビビった。まさかのVIPルーム。そんで放り込まれたら有名人達が俺を迎えたんだ。
「こいつマジクレイジーだ」
「生意気な鼻たれ」
「わりに可愛かったわ」
イエス。イエス!
キングオブステージのライムスに、孤高のラッパーBABO。煽りで有名なDJ KEIKO。ていうか全員知った顔ばかり。つかそれは友人って意味じゃなく、フープラと共に日本のHIPHOP作ってきたトップばっかだった。
「おい兄弟。泣いてんのか?」
んで聴き慣れた声も聞こえた。そん時のバイブのしたり顔にはさすがにむかついたぜ。あいつなんて、さっきフロアで捕まえられてる時なんかマジやべえって顔してたんだぜ?それが突然右手にシャンパン。やってらんなかったぜ。
ヘコヘコすんのは性に合わなかったが状況が状況。ていうかどうしていいかわかんなくって俺は立ちすくんじまった。なんたってVIPルーム。そんでいるのはモノホンのVIPばかり。呆然憮然とはこの事よ。
「よう。俺はオームだ」
そんな俺に、フープラのマネージャーは名乗るとこう告げたんだ。
「さっきの続き。やってみろよ。今度はマジの玄人の前だ。出来るか?」
そん時の俺ったらマジ震えた。いや、ビビって震えたんじゃないぜ。武者震いって奴よ。こいつら俺を試してやがる。逃げるわけにはいかねえって。
さっきの失敗なんてぶっ飛んだ。HIPHOP創世記を支えてきたのはわかるが、そろそろ世代交代突きつけようってな。
俺はバイブにアイコンタクト。当然あいつは何も言わずにVIPルームのブースに立った。準備は万端よ。こんな時の為にビートは用意してあった。
まずはバイブの鬼スクラッチ。おらどうだ。最近お前ら擦ってねえだろ?ってな具合。
「はは。悪くねえ。完全にオールドスクール気取りだ」
BABOが満足そうにテキーラ煽った。こりゃフロアの客よりロックできる。確信したね。俳優やらモデルやらも大盛り上がり。ま、今考えれば酔ってただけかもしんねえが、俺はイケるとふんだ。
俺を誰だか知ってるか?
MY NAME IS WORLD 媚売らず
この世代に生まれた消えないバブル
ジャングルみたいな都会をロック
ここまでで、トップ達が大盛り上がりよ。
「ワールド?でかく出たな」
「はは。今時おもしれー」
イエエ。俺はもう止まんないぜ。野次とかDISもあったみたいだが、興奮して耳に入らなかった。だってさっきまで俺は死んでたんだぜ?
DJ SIR VIBE とお前ら揺らす
ロートルラッパーを跪かす
新しい時代のメインキャスト
盛り上がってる場合か?足元見な!
(フック)
VIBEとライムでSTEP TO THE WORLD
見下ろす かます 志はBIRD
VIBEとライムでSTEP TO THE WORLD
新世界 FLY HIGH TOP OF THE WORLD
するとVIPがどいつもこいつもハンズアップ。まじ痺れた。こんな展開は予想外。俺はこいつらをロックしたんだ。しかも初ライヴだぜ?
したら、VIPルームの扉が開いた。これからVERSE2。これからって時によ?
まあしょうがねえ。現れたのはライヴ終わりのフープラだった。
奴は身体から湯気出してた。まるで、オーラが具現化したみたいだった。スゲー迫力。キングの風格。俺はさっきの負けも響いてマイクを下ろした。バイブも音を止めた。やっぱあいつは違え。アゲアゲだったVIPルームも静寂に包まれた。今度こそヤラレると思った。
フープラは俺に近づいてきた。ヤべーって感じ。全然笑ってねーんだ。あいつの昔のヒット「DYNAMITE FLIGHT」のPVの時みたいなギャングスターの表情してんだ。そんでゆっくりと俺の前まで来ると立ち止った。
「いよお坊主。調子よさそうだな」
俺は何も答えられなかった。
「なんだ。さっきまでの威勢の良さはフェイクか?」
「いや・・・」
マジ情けなかった。そん時の俺の声ったらマイクでも拾えなかったはずだ。
「まあいい。さっきの悪くなかったぜ。このクラブで俺にバトル挑んで来る奴なんていねえ。相当な馬鹿か勘違い野郎だ。だが、その度胸はかってやる」
「・・・はい」
もう敬語よ。最悪。したらフープラが言った。
「お前、うちのクルーになる気はあるか?」
おいおいマジかよ?って感じ。フープラクルー。それってHIPHOP界の自民党。って言うかヒルズ族。ここに入ればライヴもできるし人脈もできるし、下手すりゃデビューよ。俺は完全舞いあがった。バイブにアイコン送るとあいつも頷いた。そんで即答よ。
「入ります」
「よし。祝い酒だ。オーム。テキーラ持って来いよ」
一気にVIPルームに歓声が轟いた。止まんねえ乾杯の嵐にすぐに俺はフラッフラッ。完全に有頂天よ。
俺はこん時、自分のHIPHOPライフの順調な夜明けに何の疑いも持たなかった。自分のストーリーが幕を開けた。そうさ、エミネムみたいにとんとん拍子だと疑わなかった。酔いがまわればまわる程、俺はそんな勝手な確信を深めていった。
だけど俺のストーリーはこっからマジ長くて、ホントはワンコーラス目にすら入ってなかったんだ。