HIPHOPブーギー 第1話 MCの日常

 イエ― 俺のマイクがお前を貫くぜ

 リアルじゃない奴ら出し抜くぜ

 この衝動 弾道 LIKE A 暴動

 正面突破 お前ら上等

「ちょっと、あんたなんか届いてるわよ!」

 COME ON ナンバーワン

 俺が CHOSE ONE

「こら明人。聞こえてんの?」
「ちょっ。マジかよ。何で勝手に入ってくんだよ。今いい感じだったのに」
「呼んでも返事しないからでしょ?」
「でも今のフロウはマジ最高だったんだぜ?姉ちゃん」
「フロー?だぜって何?マジダサイ」
 姉ちゃんは俺がラップやってんのを嫌ってる。今時ラップなんて流行んないって。
何にもわかっちゃいないだ姉ちゃんは。今はラップが最重要音楽だってな。不良だって普通の奴だって、ラップで自己表現するんだよ。
「で、何?」
「何じゃないわよ。あんたに届けもん。つか、またレコード買ったの?」
「おお!やっと来た。待ってたんだよこいつを」
「このまま買い続けたら寝る場所なくなるわよ。絶対に私の部屋には置かせないからね。まったくこの時代になんでレコードよ」
「これにしかインスト入ってないんだよ」
「インスト?」
 姉ちゃんにはインストの意味がわかってない。まったく、最近のデジタルブームに乗りやがって。なんて事は言ったりはしない。俺もデジタル世代の申し子だからな。
 トラックはPCで作るし、imusicとか定額で金かかんないからマジ最高。でも、やっぱりヴァィナルの音質には敵わないと思ってるぜ。あの、胸を打つ柔らかくも堅い、最高の重低音。
 俺はトラックメーカーじゃないから、音質の調整は正直苦手。だからヴァイナルのインストをmacに入れ込んで、ラップをのせるわけ。
「いいよ。なんでもない。サンキュー」
「まったく。あんま大きい声出すと近所迷惑だからね」
 姉ちゃんが出て行くとバイトしてやっとの事で手に入れたPCを操作した。さっき録ったラップはマジ完璧だった。だけどそんなもん俺ならまた生みだせる。
後悔、なんてしないMY LIFE。はは。またリリックが浮かんだぜ。
 ソフトの録音ボタンを押して、奮発して買ったマイクに向かう。どうやら今日は調子がいいぜ。ビートが言葉を紡ぎ出す。

 イエ― 俺のマイクがお前を貫くぜ

 リアルじゃない奴ら出し抜くぜ

 この衝動 弾道 LIKE A 暴動

 正面突破 お前ら上等

 COME ON ナンバーワン

 俺が CHOSE ONE

 止めどない不安 捨ててついて来い

 (フック)

 逃げたりすんな 振り向くな

 立ち止るのは 後にしな

 逃げたりすんな 後悔すんな

 これが俺のLIFE 俺がサムライ・・・

「ちょっと明人!」
「なんだよ姉ちゃん。またいいところで・・・」
「ご飯よ」
「オーシット!」
 どうやら今日のフロウはお蔵入りみたいだ。

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SONE
僕は37歳のサラリーマンです。こらからnoteで小説を投稿していこうと考えています。 小説のテーマは音楽やスポーツや恋愛など様々ですが、自分が育った東京の城南地区(主に東横線や田園都市線沿い) を舞台に、2000年代に青春を過ごした同世代の人達に向けたものを書いていくつもりです。