トイレ1個で足りるのか?論争
私が運営するTRYFULL(トライフル)では、仕事と生活を両輪と捉えて、総合的な支援を展開している。
2024年5月から、その象徴であるグループホームを立ち上げ、生活の支援もいよいよ本格スタートした。利用者は知的障がいのある方で、区分は5-6の方しかいないので、昨今問題となっている重度障害者の生活支援の一躍を担っていると自負している。
利用者のキャラクターは、本当に様々だ。重度の知的障がい者であっても、それぞれの性格や趣味嗜好は異なり、毎日一緒に生活することは楽しい。例えば、お風呂が大好きなAさん。通所先から帰宅後、スケジュールを確認してお風呂に入る時間をいまかいまかと待ち侘びており、自分の時間になると一目散に入浴を始める。湯船に浸かるその表情たるや、至福のひとときそのものである。ご飯大好きBさん。健康管理の視点から、過剰摂取しないようにある程度の基準を設けて節制の支援も行っているが、いかんせん食事が大好きで、その食べっぷりは、毎日食事をつくる世話人さんも大喜びだ。重度の知的障がいとASD(自閉スペクトラム症)のあるCさんは、毎日をパターニングして、規則正しく生活を送っている。いつ、どこで、誰と、何をして、終わったらどうする、ということが見通せることで、誰かに管理されるだけではなく、自分でわかって動けるし、時には自分の判断で何かを決断する機会も増えてきて、なんだか楽しそうだ。
トイレ1個で足りるのか?論争
グループホームを立ち上げる際に懸案事項として、トイレの数をどうするのか、という議題がよくあがっていた。もちろん2個以上あるには越したことはないし、あったほうがいいとは思う。しかし、造作の関係で1個でスタートすることになったのだ。すると、保護者は心配する。
「うちの子 トイレによくこもるんです」
「誰かとタイミングが被ってしまって、絶対にこれでは生活できないと思います」
グループホームを立ち上げて、約半年。結果どうだったかというと、結論からいうと「問題なし」であった。入居から2-3日は、確かにタイミングが被ったり、無駄にトイレにこもる習慣が残っており、支援員が声をかけて交通整理するということが数回あった。しかし、今では全く問題はないし、誰かが長時間待っているという状況もほぼ皆無である。
グループホーム、重度の知的障がいといえど、コミュニティが成立すると、不思議とお互いを意識して、譲り合ったり、タイミングをずらしたりし合うのだ。そこはやってみて本当に不思議というか、とても感動した。
そう考えると、そういった機会を与えるということは、とても大事なことだと思う。ASDは社会性の課題があるから、常に保護される対象と決めつけずに、勇気を振り絞って、少しチャレンジングと感じる環境にも挑戦する機会を設けることが、とても大切だと、これらの経験から私は学んだ。
いい指導者が人を育てるのではなく、いい環境が人を育てるということだ。